第40話


 休憩を終えて歩き出してから10分。

 イシャルが戻ってきた。今度は何かに追われている様子もない。


「気配の濃い方を探って参りましたが、そこまでの間にも小者が沢山居りました。連戦になると思われますので準備の程、宜しく御願い致します」


「お疲れ様、水でも飲んで少し休んで。その間に試したこともあるし」


 膝をついて報告してくれるイシャル。

 私の中のワラドくんのイメージとはだいぶ違うよね。ラドは結構カイくんっぽいのに不思議だ。

 ラティファもフィナちゃんとはなんか違うし、お兄様は……性格どうこう言える程しらない。


 皆の性格は置いといて、あんな感じで呪詞が使えるなら範囲魔法? 範囲呪詞も使えるかと思ってね。


 皆の真ん中になるように位置取りして呪詞を唱える。


「皆に翡翠の守りを、減殺の障壁」


 カジャンカジャンと微かな音を立てて、緑色の柔らかな光を発する六角形のパネルが皆を包んで消えた。

 やっぱり範囲もいけるね! あ、でもMPとか有るのかな? どうなってるんだろう。いざと言う時に回復出来なかったら嫌だし、色々試してみたいけど今度にしておこう。


「ありがとうございます」

「かたじけない」

「ありがとう」


 みんな律儀にお礼を言ってくれる。ラティファだけ片手ちょい上げだけどね。


「ねぇ、ラティファ。魔法ってMP使う?」


「当たり前でしょ! MPなしで打てるならあんなしょぼいの打たないでドッカーン行くわ」


 まぁ、そうか。でもバーとか出るわけじゃないよね?


「私のも?」


 もしかして技扱いでリキャスト時間制限だけで使えたりしないかなーと。


「夕菜も、そうだったと思うけど……そうだと思ってたから聞いてみたこともないね」


 首をかしげて唸るラティファ。

 黒魔と違って回復担当してるとMP切らすわけにもいかないから、そんな状況になった事が無かったんだろう。


「 バーが見えるわけじゃないなら、どうやってMP管理してるの?」


「バーって……。そりゃー、感覚? 何となく分かるよね」


 ラティファがラドに同意を求める。


「そうですね。主様も段々と分かるようになると思いますよ」


 感覚って言われてもな、どうせ夢的な空間ならゲームみたいにHP·MPバー出たらいいのに。バーの下にはバフ·デバフがマークで付いたりしてさ、そしたら管理楽なのに。


 あ、そうそうこんな風にね。

 って、え?


「……見える」


「何が?」


「バーが見える!」


「はぁ? 突然バーが見えるようになったの?」


 呆れた様子のラティファを押しのけて、ワクワク顔のムスターファが口を開く。


「どんな風に見えるんですか? 自分のだけ? それとも皆のも見えているのですか?」


 皆の頭の上にスケスケの2本のバーが! 緑とオレンジで表示されてる。その下には六角形のマークマークが有るから、障壁の有無も分かるって事だよね。

 ちょー便利やんけ!

 視界の左下には自分のだと思われるバーもある。結構色々したのに、5分の1も減ってないな。

 でもあれだね、数字とかは着いてない。あくまでパーセンテージでしか分からないってことかな。

 満タンだからって安心してたら実はHP10しかなくて即死とかにならなったら嫌だな。


「皆のも、自分のも見える! 見えたら便利なのにと思ったら見えるようになったの」


「ほほー、それは素晴らしいですね。私たちにも見えるようには出来ませんか?」


「出来るかな、念じてみよう」


 軽い感じのムスターファの願いを叶えるべく、皆にも見えるようになれーっと願う。


「おお! 見えました。これは面白いですね」


「便利ですな」


「はぁ、まぁ役に立ちそうね」


 話し合った結果、ラドとラティファだけがバーを導入する事になった。

 面白い面白い散々言っていたムスターファは「あ、邪魔になるんで私は良いです」っとあっさり断ってきた。

 イシャルは敵にも効果あるのかを見てから本格導入を検討するらしい。


「でも、これは上では無理なんだよね?」


 まぁ、上で出来たら相当やばいよね。敵のも見えたりしたら、隠れてる敵見つけたい放題だし。


「無理だと思います」


 ラドが即答した。


「そんな事出来るなら、うちらが言葉で苦労してないよね。魔法は使えるみたいなのに、なんで言葉は通じないんだろう」


 まぁ、そう甘くはないか。

 今便利に使えるだけでもありがたいし、存分に活用させてもらおう。


「ではそろそろ行きますか」


「了解」


 イシャルが少し前を歩き、その後をついて行く。1回戦闘を経験したからか、さっきほど怖くなくなった。

 とは言っても、この先が見えない草むらはやっぱり嫌だけどね。


「釣りますぞ」


「了解」


 ラティファがエアボールを草むらにぶち込む。現れるミステリーサークル。


「その辺のは釣ってここで倒しましょう」


「その方がいいね」


 ラドの言葉に頷く。

 エアボール勿体ないし、音で来られても嫌だし近いやつは釣った方がいいよね。


 本当はヘイストとかリジェネ·リフレとかしてみたいけど、呪詞っぽく言える気がしない!

 試しにそのままやってみようかな。不発は恥ずかしいから自分に掛けてみよう。


「リフレッシュ」


 小声で唱えてみるも何も起きず。

 うぬぬ、リフレッシュ。精神を癒すってことだよね。魚眼石にそんな効果があるって聞いたことある(母の趣味はパワーストーン集め)。


「私たちに魚眼石の光を、精神の癒し!」


 キラキラした光が降り注いだ。エフェクト来たから成功ってことだよね。

 バーの下にはオレンジのキラキラマークが付いてる。バーを見つめていると増える速度が上がった気がした。


 イシャルが、草をかき分けて戻ってきた。ラドの横に刀を構える。

 草むらから出てきたのは黒いネズミだった。

 ラドが盾を鳴らす。


 なんだか胸がザワつく。なんだろうこの感じ。


 ラドに体当たりして来るネズミを見ながら、きっとこれがラティファたちの言う散ってる奴なんだろうと確信する。


 ネズミが私を見た。っと思ったら、立ち上がって、キーっとすごい声で鳴いた。


「なんかまずい事になる気がする」


「私もそう思う」


 珍しく隣のラティファも同意見だった。


「こいつは早く倒そう」


「了解です」


 ラドが盾で何度もネズミを殴り、イシャルが回り込み切りつける。ムスターファがトストス矢を射始め、ラティファも魔法を詠唱し始めた。


「貫け、アイスランス!」


 ラティファの放った大きな(私達にしては)氷の槍がネズミに突き刺さる。

 怒り狂ったネズミは尻尾で地面をバシバシ叩きながら、礫を飛ばしてきた。


 その時、ザッと影が差した。風を起こしながらネズミの元に舞い降りたのは、艶やかな黒い羽の、大きな大きなカラスだった。


 やっぱりさっきのは仲間を呼んだよね。早く倒さないとヤバい!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る