第37話

 

 暫くすると、慌てたイシャルが戻ってきた。良かった、別の世界になったわけじゃなかったんだね。


「突然森になって驚いたでござる」


 ござる頂きました!!

 やばいねこれ、私の中でワラドくんこんなんなの? 深層心理の闇ですか?


 ござるって忍者アニメから言い出しただけで、別に忍者は使ってなかったって知識があるんだけど、そこの所は反映されてないの?

 イメージ優先かな。


「おかえり、会えてよかった。もしかして飛んじゃったのかと思ったから」


「某も焦ったでござる。時に主様、この森を見る限り、やはり主様が小さくてなって居られるのでは?」


 そーなんだよね、やっぱりそうだよね。

 森の木々が異様にでかいんだよ。アリスの気持ち。

 流石にキノコよりは小さくないし、15cmってこともないと思うんだ。下草より少し低いから30cmとかかな?


 これで敵が出てきたら、猫でライオン以上で、ネズミですら狼位の危険度はあるんじゃないの?


「だよねー。今のところは私は戦力外だと思って、慎重に進んでね」


「······御意ぎょい。では、あちらの方が気配が濃いので偵察して参ります」


 あくまでそういうキャラで通すわけですね。OK。

 なんか、えっ、って顔してたけどまさかこのいたいけな乙女を戦力に数えてたの?


 再び走っていくイシャル。


「行きましょう」


 ラドの号令で歩き出すパールパーティwith私。

 この大きさだと下草やばいね。さとうきび畑を歩いてるみたいになっちゃう。


 見渡すことが出来ないって、怖い。

 見えないから音に頼ろうとするのに、ガサゴソいうのがなんの音か分からないからどんどん怖くなる。


 草の向こうに沢山の獣が居て、こっちを狙ってる絵を思い浮かべてしまう。


 実はさっきから少し嫌な感じもしてる。何だろう、気付きたくない、触れたくない。

 行きたくないっていう気持ちが足を重くする。


 なだらかに登り始めた。山なのかな?


「ねぇ夕菜、戦えないってどういう事? 何時も色々補佐してくれたじゃない」


 いや、突然なんの話し?


「何のこと? 私が補佐してた?」


「そうよ、山で戦う時は何時も五人で戦ってたでしょ? たまにおっさんも居たけど」


 どういう事? わたしが夢を見たのはあの1回だけですが。おっさんって、まさかボスじゃないよね?


「いや、全然覚えてないよ。私が覚えてるのは今日起きる前にみた夢だけ。皆が熊と戦ってたのをみうと私が応援してたの」


「熊? 私たちが戦ったのは、犬·猫とか兎や鳥といった小さな動物ばかりでしたよ。まぁ、私達にとってはどれも大きな敵でしたが」


 なぬ! ってか私も戦ってたの? 全然覚えてませんけど。


「私もパーティに参加してたの? ポジションは?」


 ラティファが呆れたような声で言った。


「そんな事も忘れちゃったの? 夕菜は回復も出来るバフ要員でしょー。巫女さんなんだもの」


 な·ん·で·す·と!

 私が巫女さん? 格好をするだけでもおこがましいと思ってたのに、夢の中でも巫女さんしてたの?


「いや、ほんとに覚えてないから。呪文も知らないし、あてにしないでよ」


「そもそも呪文なんて唱えてなかったじゃない」


 え、そうなの? 呪詞じゅっとみたいに「〇〇にまします〇〇の神よ〇〇の夕菜が畏み畏申す。〇〇の〇〇を〇〇に現したまし給え」的なの言わないとダメなのかと思ってたよ。ほら、学校でワラドくんが習ってるの聞いてるからさ。もっとなんかごちゃごちゃしてるけど基本はこんな感じ。


「呪文なしで術が使えてたの?」


「唱えてるって言うほど長くなかったよ、〇〇の傷を癒し給え位なもん」


 まじか、頼む相手も指定しないで発動するの? マーベラス!

 それぐらいでいいなら私も参戦出来るかも? 術の種類は分からないけど。


「そんなのでいいなら上手くいくかは分からないけどやってみる。けど、基本はあてにしないで」


「うん、期待しないでおく」


 ラティファがあっさりそう告げると、ムスターファがフォローしてくれた。


「夕菜は記憶が無いのだから、仕方がないですよ。練習だと思って、色々試してみてください」


「うん、そうさせてもらうね」


「じゃあ、取り敢えず今試せることでラドに障壁張ってみたら?」


 ラティファがいい笑顔で提案してきた。なんだよ障壁って。バリア的な?

 まぁ、バリアなら今使ってみても良いよね。


「やってみる」


 うーん、プロテクトは全面で障壁は前面のイメージだけどどうなんだろう? どうせなら全方位守って欲しいけどな。


「ラドに金剛の守りを、鎮の障壁」


 どうせ日本語で話すんだから、パールパーティ以外にはバレないのだ。恥ずかしくなんて無いのだ!


 リーンという音と共に、ラドの周りに透明の六角形のパネルが展開された。っと思ったら消えたけど、これ成功してるのかな?


 凄いよ! 発動はしたよね。こんな適当な呪文で! マーベラス。


 触ってみても突き抜けちゃうけど、ラド曰く掛かってるみたい。前のも突き抜けたけど、攻撃は半減したらしい。


 効果時間計らなきゃだね。


 それに適当に金剛なんて言っちゃったけど、ナイトなのに弾いたらダメだね。ナイトは受けてヒールしてなんぼよね!


 貼り直そう、どんなのがいいかなー。なんか楽しくなってきた。


 わくわくしながら呪文を考える。

 夢の中みたいなもんだから、きっと私がいいと思ったものが良いんだよね。でも悩むな~。

 どうせなら宝石シリーズ良いかもね、柔らかいけど粘る宝石とかだと軽減系にならないかな。


 ザンッとイシャルが目の前に着地した。何処から飛んできたよ。


「捕捉された。向かって来るでござる」


 短く告げて刀を抜くイシャル。ラドが盾を構える。


「承知した」


「ちょっと均す。逆巻け、エアボール」


 ラティファはそう言うと目の前の草むらに渦をまく巨大なエアボール? をぶち込んだ。ミステリーサークルの様に草が折れ曲がり、視界が開ける。


 ラティファって好戦的だなー。もし敵が来るの早かったら一番槍になって危ないよね。

 でも、視界確保も大事だね。


 その開けた草むらにそいつは現れた。ピクピク動く鼻、長い耳、ポテッとしたボディ。

 一般的なペットの中では断トツの手触りNO.1! そう、ウサちゃんです。




 野生ノ兎ガ現レタ。




 え、これ倒さないといけないの?


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