第36話

 

 落ちてる……っと思った。

 だけど、何時までもその感覚は無くならない。落ちていたら風も凄い筈なのに、ゆっくりと髪が浮き上がる程度だ。


 おかしいなっと思った途端一旦体が浮き上がり、ふわりと地面に降り立てた。

 上からパールパーティも降りてくる。


 そんでここは何処? 真っ暗で何も見えないと言いたいところだけど、手足やパールパーティははっきりと見えている。

 暗くて見えないんじゃなくて、光を反射してないって事?


 バラバラに降りてきた金霊達が近付いて来る。

 近付いて……いや、デカいよ。近くに居るのかと思っていた盾が、必死に走って段々大きくなる。って、私より少し大きくない?


「主、ご無事でしたか」


 こ、こいつ喋るぞ。


「やっぱり私が主なの?」


 結集したパールパーティがうんうんと頷く。大きくなるとディテールが見えて可愛らしさは半減するかも。だって服のシワとか、質感までちゃんと分かる。

 しかも、盾はカイくんに似てて、魔法使いはフィナちゃん。忍者はワラドくんで狩人はヴェルツお兄様に似ていた。

 お兄さま以外は普段から触れ合ってる人だね。なんか私の面食いがバレたようで気恥しい。


「勿論です」


「ってか、なんで話せるの? 今までは話さなかったのに」


「同じように話していたのですが……」


「そうよ、夕菜が全然聞いてくれなかったんじゃない」


 魔法使いが盾を庇うように立ちはだかった。


「そうなの? 小さいと聞き取れないのかな。今は大きいから聞こえるのかも」


「大きい? 主が小さくなったのであって、我々は変わってないと思いますぞ」


 忍者が横からそんなことを言った。

 いやいやいや、私が小さい? まさか……でも周りがこんなに暗闇だと比べる物もないから分からないよね。


「夕菜、名前で呼んでみてくれませんか?」


 今まで黙っていた狩人が口を開いた。


「じゃあ、自己紹介してくれる?」


 何故かざわめく金霊達。

 魔法使いが非難がましい青い瞳で見つめてくる。盾の瞳は茶色で、狩人は灰青、忍者は緑色の瞳をしている。上では瞳もパールだったから分からなかったな。


「右から、ラド·ラティファ·ムスターファ·イシャルです」


 飄々とした狩人が手早く皆の名前を告げる。

 盾がラド、魔法使いがラティファ、狩人がムスターファで忍者がイシャルね。なんか覚えやすいな。


 「一人一人呼んで貰えますか?」


 別に良いけどどうしたんだろう?

 私を見詰める金霊達に重々しく頷いて宣言する。


「ラド、ラティファ、ムスターファ、イシャル」


 パールパーティが一際輝きを放って、膝をついた。うわー、なんだか騎士の叙任式みたいだね。肩に置く剣は持ってないけど、懐にハタキがあったので皆の肩を払ってみた。


 さっきの変な空気だったけど、なんだったんだろう?


 てか、ラティファはなんでこんな事したの?


「皆立って。ラティファ、何でこんなことになったの?」


 1歩前に出たラティファが言う。


「見本を見せてもらって、影に入ろうとしたんだけど、先客が居てなんだか怖かったの」


 せ、先客?! 私の影に何かが潜んでいると? 怖っ。


「存在が薄く拡散してるけど、確かに居るのを感じるのです」


 ラドも同意する。


「つまり、何がいて怖くて入れないから私を連れてきたの?」


「怖くてトイレに入れない子じゃないのよ! 本当に何かいるんだから……まぁ……そうなるわね」


「でも、私がいた所で何も出来ない気がするんだけど」


 ずいっと狩人ムスターファが進み出た。


「そんな事はありません。ここは夕菜の影の中、あなたの権限は強いはず」


 そうなの? 夢の中みたいなもん?


「私の影?」


「そうです」


 って、言ってもなーこんな何も無いところで何をすればいいの?


「そこら辺真っ黒なんだけど、何をすればいいのかわかる?」


 私達は円陣を組んで討論した。


「先ずは気配の濃い方に進むべきではないか?」


「そんなこと言って、すぐそいつと出会ったら対策出来るの? 私は捕縛出来る自信ないわよ。なんだか嫌な気配なんだもの」


「主様が居るのだから名付けてもらえばいいではないか」


 私を見て目で促すラド。


「名付けたら大人しくなるの?」


「大人しくと言うか、存在が固定されるから対処しやすいし、名付けを受け入れると絆が生まれるので心が伝わるかと」


「えー、私みうとすら通じ合えないんだけど」


 ザワつくパールパーティ。


「みう殿は主様が名付けたのでは無いですよね」


「えー、池から出て来て直ぐに私が名前つけたよ?」


 一斉に首を傾げるパールパーティ。いや、そんな顔されても。


「悪いけど、それは違うと思うわよ。だってみう様はフリーだもの」


 フリーってなんだよフリーって。ってか、ラティファ、私は呼び捨てなのにみうには様付けるの? いや、良いけどさ。


「フリーって、契約者がいないってこと? でも、みうは私についてきてくれたし、見守られてる感があるんだけど」


「それはそうですな。みう殿は主を守護してらっしゃる」


 うんうんと頷く忍び。解らぬ。


「うんじゃ、みうは置いといて。とにかく影に潜んでるやつを見つければいいんだね? で、出来たら名前を付ける」


「お願いします」


 ラドが深々と頭を下げる。


「良いけど、ちゃんと戻れるんだよね?」


 ラティファを見ながら聞く。だってラティファが此処に連れてきたんでしょ?


「それは任せて!」


 じゃ、行きますか。


「ラド行先わかる? こういう時はイシャルが先行するの?」


 いや、なんかイメージでさ。


「主様、それがしが斥候を努めさせて頂きます」


 お、おぅ。某だって! 本当に忍者キャラなんだね。よろしく頼むよ。


「ならイシャル先頭宜しくね。じゃ、行きますか」


 ラドが私に告げる。


「主は私の後ろでお願いします」


「了解」


 イシャルはタタタタって走って行ってしまった。暗闇の中を歩き始めるラドに付いて行く。


 皆心配してるだろうな。凄い消え方しちゃったもんね。早く戻らなきゃ。


 気合いを入れ直して足を踏み出すと、そこからばーっと世界が色付いた。


 なんかジャングルって感じの原生林。あれ? これ先行したイシャルどうなった?



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