第35話

 

 西町を北に向かって歩きながらフィナちゃんに色々教えてもらう。


 町を西から東へ続く水路はあの私がくむくむ星に来た時の池のワトゥ川の水だそうだ。ため池に貯め後田んぼにいく分と分岐させて、町に通しているみたい。

 それとは別に南から北東へ抜ける水路はファヴィロン山脈から流れるナハリ川から別れたアルカナ川。この2つが合流して東の町からの流通に貢献するアルカナ運河の始点となるらしい。

 と、言っても小型船か小さな中型船がせいぜいで、ベネドの運河とは比べ物にならないのだとか。


 一気に川が出て来すぎて覚えれる気がしません。せせらぎに乗って、川の名前が頭から流れ去って行くのを感じます。


 鍛錬場は学校の北西にあった。柵で囲まれ、長屋みたいな建物があり真ん中には砂が敷かれた広場がある。鍛錬場は思ったよりこじんまりして見えた。

 郡に4箇所あるらしいから、こんなもんなのかな。


 セグさんが、入口の小屋にいたおじさんに話してくれてあっさりと中に入れた。


 奥の井戸の周りには上半身裸の男×3とやたらはだけている男×4が居た。うーん、どちらにもそれぞれ良さがありますね。

 それにしても、皆さん細マッチョですな。勿論現代日本の細マッチョみたいにヒョロってないけど、ボディービルダーみたいに無駄な筋肉が付いている訳ではなく、しなやかで素晴らしいです。


 カイくんは着衣派でした。ストイックな感じのするカイくんの乱れた姿も、中々乙なものです。


 セグさんがカイくんを呼び出し、フィナちゃんが用件を告げる。


「おはようございます。突然来てしまって申し訳ありません。ユウナがまた不思議なものを出したのですが、しまい方が分からないそうなので、相談にのってやってくれませんか?」


「おはよう、また何か出したのか」


 着物の乱れを直しながら呆れた様子でのたまうカイくん。それねー、出したのかすらもわかってないんですよ。


「道場を借りて、そこで話そう」


「おねがいします」


 小屋にいた事務方と思われるおじさんに声をかけたカイくんに案内されて、小さい方の建物に入る。中は無人で薄暗かったけど、高窓が開け放たれていて空気も悪くなかった。

 窓全部開けたら明るくて気持ち良いんだろうけど、パールパーティ見られたら大変だし諦めよう。


 カイくんが道場の隅の方から出してくれた車座にありがたく座らせてもらう。


「それで、何を出したのだ?」


「朝おきる、これ居た」


 肩から横掛けにしていた風呂敷を下ろした。もぞもぞ動きながら出てくるパールパーティ。


「なんだこれは……」


 なんなんでしょうね? でもこの短期間で、自発的に動くことが多くなってきたから、やっぱり学習してるんだよね。


 今だって風呂敷から出てキョロキョロしながら私の膝に乗ろうとする魔法使いと、その場でカイくんを観察する盾。辺りを偵察する忍者に、私の横で動かない狩人と行動も個性豊かだ。


「夢を見て、朝起きたら居たそうよ。聞き返されてもそこは答えられないから。カイ、ハルちゃんは何処に居るの?」


 あれ? フィナちゃんさっきと違いませんか?

 この2人って仲良かったんだね。


「ハルなら此処に」


 カイくんがそう言うと床からにょっとハルちゃんが出てきた。うーん、今日もありがたい御姿。数珠もあいまって徳の高いありがたい妖怪感が凄い。

 そしてやっぱりもう隠遁出来るんだね。


「ユウナの金霊は……便宜上こう呼ぶことにするけど、隠遁が出来ないの。これを連れて町を歩いてたらどうなるかしら」


「それは……目立つだろうな。人型だし、精霊にしてはしっかり具現化している」


「輝いてるしね」


 カイくんが腕組をして唸った。


「でも隠遁を教えることなど出来ぬぞ。自分が出来ないことを教えようがない。ハルは勝手におぼえたのだ」


「何か指示したとかじゃなくて?」


「ハルは変化へんげが出来るだろ? 蛇になった時に影に潜って以来、普通にする様になった。蛇を見たら驚かれるかと思ったら、隠遁した」


「じゃあ、やっぱり最初から出来たのかしら? 潜る必要を感じなかっただけで」


「かもしれぬ。だが、アミルは出来ないと言っていたぞ」


 え、エルちゃんも隠遁出来ないの? なかーま。

 でもエルちゃんウリ坊だし、出来なくてもペットと思われるだけだよね。


「取り敢えず、ユウナも隠れろと念じてみてはどう?」


 念じるかー、そもそも歩けとかですら思うだけでは通じないのに無理だと思うな。


「私、念じるできない。止まれ、あるけ、念じる無理」


 小首を傾げたフィナちゃんが「そうなの? なら口で言ってみたら? 隠遁せよと」っと言うので、少し照れながら言ってみる。


「パールパーティ、隠遁せよ」

 

 とたとたと集まった金霊達は出てきた風呂敷の上に並び、両手を使って風呂敷で体を隠した。


 ······うん、隠遁したね!


「まぁ、可愛らしい」


 フィナちゃんが頬に手を当てて喜んでるけど、私はかっこいいセリフを言ったぶんダメージを受けた。


「なるほど、口で言えば言うことは聞くのだな」


 温い笑顔のカイくんが感心したように頷く。


「カイ、ハルが隠遁する所を見せてやってはどうですか?」


 見本ね、見本大事。是非お願いします。


『出て来てハルちゃんの隠遁を見なさいパールパーティ!』


 さぁ、お前達。目を見開いてハルちゃんのありがたい隠遁を見るのだ! お願いしますハルちゃん。


 バッと風呂敷から出てハルちゃんを見詰める金霊達。


「ではいくぞ」


 お願いしますカイ先輩!


「ハル、隠遁せよ」


 カイくんの影に潜るかのように消えるハルちゃん。うーん、なんのコツも分からん。

 ハルちゃんが潜るところを見ていた金霊達は、私の方を振り返った後、すごい早口なモスキートボイスで何やら話し合っている。

 やっぱり話せるんだね……。


「何やら話し合いをしているようだが……そもそも魔獣と言うものは成長すると自然と技を覚えるものだと聞くぞ」


「そうなんですよね」


 そうなの? レベルは? スキル経験値は?


 何やら会議を開いていたパールパーティだが、白熱した議論にも決着が着いたらしく、発案者なのか盾ではなく魔法使いが私の前にやって来た。


 モスキートボイスで何やら呪文らしきものを唱え出す魔法使い。

 魔法で隠遁しようとしてるのかな?


 魔法使いがえいっと杖を振り上げると、床が消えた。驚いた顔のカイくんと目が合う。




 え?




 私はあっという間に闇に飲み込まれた。飛び込んできたパールパーティの光が見える。上も下も分からなくなった私は意識を手放した。


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