第25話
チビが消えた。
スッと地面に溶け込むように、あのデカい狼が消えた。自慢げに胸をはるワラドくんに興奮した子供たちが次々に飛びつく。
「チビどこ行ったの?!」
「お兄ちゃんの中なの?」
「どこ?どこ?」
ワラドくんの脇の下から、股の間まで潜り込んで調べる。
「こら! そんな所にいる訳ないだろ」
「えー! チビ消しちゃったの?」
「お兄ちゃん酷い!」
「酷いことしてたのはお前らだろ!」
棒倒しの棒のようになって移動するワラドくん。何だろう……ワラドくんって以外とポンコツだよね。
生温かい目で子供たちを見ていると、先生がやって来た。
「ほらほら皆さん、ワラドさんが困ってますよ。離れてください」
鶴の一声で、大人しく離れる子供たち。いい感じに乱れたワラドくんがブツブツ言いながら戻ってくる。ワラドくん弟妹居るのに、扱い下手だね。
教室に戻り、何か逸話?のような物を先生が話してそれで解散になった。
チビを出せ出せとせがむ子供たちをシッシッと追い払うワラドくんに、またなーと声をかけて帰って行く子供たち。何だか仲良しだね。
いよいよ個別授業だ。
「お待たせしました。では授業を始めましょう」
「「宜しくお願いします」」
「はい、ワラドさんはこれを解いてみてくださいね。ユウナさん、今日の授業はどれぐらい理解出来ましたか?」
ワラドくんはいそいそと紙を受け取り、マイ黒板に何やら書き始めた。
私がポカーンとしていると先生が「今日、勉強分かった?」っと言い直してくれた。
「すこしだけ、分かる」
その後先生は少し質問すると、頷いて言った。
「とにかく、単語を覚える事からですね。単語、覚える」
「分かりました」
まぁ、そりゃそうだよね。分かってたけどさ…… 大丈夫、私はちゃんと進歩してる。地道に覚えてくしかないんだ、がんばろう。
「聞くだけでも、だんだん覚えていくものです。焦らずにいきましょう。聞く、覚える、大丈夫」
先生が普通に話してから、簡単に単語で話してくれるのがありがたい。分からないからって、簡単な単語だけで話してたら語彙も増えないしね。
「ワラドさんはやはり文字を覚えた方が良いですね。幸い術詞の書物は沢山ありますし、視覚で覚える事で、術詞の組み立ても早くなります。それに、丸暗記では多様な状況に対応出来ませんからね。お二人共、千里の道も一歩からからと申します、こつこつやっていきましょう。二人とも、少しずつ、勉強する」
「「はい」」
キャラ先生って素晴らしいね。落ち着いてて、優しくてしっかりしたジェントルマンって感じ。そう、翻訳魔法がない限り地道にやっていくしかないんだ。
私は決意を新たに勉学に励んだ。
◆◇◆
その日の晩、夕食の席で学校がどうだったのかを聞かれた私は必死に話した。
「キャラヒネン先生、分かるやすい。普通、話す。あと、簡単、話す。良いです」
うんうん頷きながら聞いていたフィナちゃんが、嬉しそうに話し出した。
「
私の中ではおっさん好きの疑惑があるフィナちゃんが、またおかしなことを言い始めた。キャラ先生はおじいちゃんですよ?フィナちゃんにとって何歳までおじ様なん?
「キャラヒネン老師は清廉なお方だ。だからこそ、お前を任せたのだ。存分に学が良い」
おっさん1号ことサヒラーさんが、何か難しいことを言い始めた。先生とまなぶしか分からんし! これからは皆さん、キャラ先生方式でお願いします。
「皆さん、ふつう話す。あと、簡単、はなすお願いします」
「分かりました」
「分かった」
快諾感謝です。あ、そう言えばサヒラーさんに聞きたいことがあったんだよね。
「ソラ、サヒラー様のなか、はいる?チビ、ワラドなかはいる、しました」
「中に?銀狼が隠遁したのか?まだ子どもの姿だったというのに、能力は高いのだな。ソラも隠遁ならお手の物だぞ、ほれ」
サヒラーさんはまたくむくむ言って肩に居たソラちゃんを消してみせた。
なぃぃーーー。そんな当然の技能なの?ってか、何言ってるのかわからんし!キャラ先生式プリーズ。
「あと、簡単、いう、お願いします」
「ああ、すまんすまん。魔獣、消える、出来る。能力、ある」
あれがデフォなのか……便利だな! 魔獣。
はっ、もしかしてみうも?! あとで試させて貰わなくては。じゃあ、うり坊エルはどうなの?ただのうり坊にしか見えなかったけど。
「エル、魔獣?」
「ああ、あれは元々はただの獣だが、今は神性を持つ立派な魔獣だぞ。お前がそうしたのだろう。昔エル獣、ユウナ出す、今魔獣」
私が出したら皆魔獣になるの?あ、みうは違うよね?池から出てきたんだし。
「みう魔獣?」
「あれは相当神性が高い、なかなかの格だ。アミルが助かったのは間違いなくあ奴のお陰だ。みう神性強い、魔獣」
えっ、神? てか、みう魔獣なの? 食っちゃ寝毛繕いしてるのに。アンビリーバボー!!
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