第21話

 

  アミルくんとコーディーさんが感動の再会を果たし、奥様がお屋敷チェックを終えた頃、サヒラーさんが帰宅した。


 おかえりなさいご主人様!私は嫁姑よめしゅうとめに挟まれた夫の気持ちを味わってしまいました。


 しかも、あはは、うふふふの方のやつです!


 サヒラーさんが脱いだ上着を、奥様がサッと受け取ります……


 正直、この件は奥様が子供っぽいと言うか、まだ少女って年齢の子と張り合うのはいかがなものでしょうか?


 キット私の知らない深い事情があるに違いありません。

 まさか、るるちゃんがフィナちゃんに惚れているからとか、弟を取られそうで気に食わないとかでは無いですよね?

 フィナちゃんは見た目がリアル白雪姫だから……


 はっ、まさかそっち?!


 そんな分けないか。


 私が脳内で妄想していると、奥様が2人にくむくむとお説教をなさっていた。何だか二人ともバツが悪そうだ。私が不思議そうにしていると、奥様が「フィナ、お手伝い、違う」っと私のわかる単語を並べて教えて下さった。


 え、フィナちゃんってずーとこの家に居て、お掃除とか、お洗濯とかしてたよね?お手伝いさんじゃないの?


 てか前、奥様がフィナちゃん親戚で、お手伝いしてるみたいに言ってなかった?


 あの時はお手伝いって単語も分からなかったし、本当は違ってたのかも、なら、なんなんだろう?私が来る前は住み込みでは無かったけど、ずっと居たよね。


 あー、でも確かに食事作って無かったもんね。

 家事してる以外は、私に言葉を教えてくれたり、何か本を読んで勉強してた。糸で閉じた冊子っぽい本。


 てっきり、親戚の子が嫁入り前に花嫁修業にお手伝いさんしてるんだと思ってたよ。


 私が呆然としていると、ほらご覧なさい!っと言うように、サヒラーさんに私を指し示して見せた。

 何となく頷いてみる。うん、なんか知らないけど二人の顔を見ると、悪い自覚があったみたいだし。


「フィナ、勉強、する人」


 奥様がフィナちゃんを示して仰った。


 あー、なるほど。師匠と弟子的な感じだったって事よね?で、師匠は家事任せるし、弟子は喜んでやっていたと。

 あれ?割とよくある関係じゃないか?


「サヒラー、お手伝いくむくーむ」


 奥様が怒って、手をしっしっとはらって部屋の戸の前まで行き、押し出す振りをして戸を閉めた。


「召使い、居ない」


 サヒラーさんが、お手伝いさんを追い出したということですね。


 まぁ、元々お手伝いさんがいる所に弟子に出したのに、家事ばっかりやらされてるのを親が見たら怒るだろうね。しかも余裕で雇うお金はありそうだしねー。


 奥様はそれでフィナちゃんに家事をさせたくなかったんだね。張り合ってるのかと思って、びっくりしたよ。なんか安心した。


「お手伝い、いる」


 うんうん、そうですね、くむくむ村の家事は重労働だから、雇った方がいいと思います。そりゃー私も出来ることはやりたいけど、至らない所だらけだしな。


「奥様、せいかい!」


 項垂れる二人にそう宣言する。


 では、私はアミルくんとコーディーさん様子を見に行ってきます。


 そろそろ戻る頃合かもだし、私が居ると話が進むの遅くなるしね。奥様が秀逸なパントマイムとジェスチャーで通訳しようと頑張って下さるからね。




 ノックをして小屋に入ると、ウリ坊エルを膝に抱いてアミルくんと談笑するコーディーさんの姿があった。そう言えばアミルくんの笑顔、初めて見た。笑うとますます幼いね。るるちゃんと同じぐらいかな?


 茶色の髪に、日に焼けた肌。ちょっと気の強そうな目元、やんちゃな感じがするね。


「ユウナ、ありがとう」


 アミルくんが私を見てお礼を言った。

 アミルくんとは拭き拭きタイムで何度もあってるけど、しっかり目が合ったのは初めてだ。お礼は言ってくれようにはなったけど、そっぽ向いて言ってたからね。いやー、お姉さんなんか照れちゃうな。


「私、ありがとう、ない。みう、えらい」


 私なんてただ拭いてただけだけど、みうは魔よけになってたらしいよ! 凄いねみう。


「ユウナありがとう。みう、ありがとう」


 アミルくんは言い直して、当然のように膝に丸まっていたみうを撫でた。


 その後コーディーさんにもまたお礼を言われ、何故かエルちゃんについてもお礼を言われた。コーディーさんもメロメロかな?



  ◆◇◆



 そろそろお昼の時間なので、皆で食べに行くことになった。アミルくんとセグさんは申し訳ないけどテイクアウトだね。


 なかなか立派な外観の、料理屋さんに入ると、立派な個室に通された。

 なるほど、こういう所じゃないとダメだからわざわざ東近くまで来たんだね。


 皆さんくむりに忙しいので、フィナちゃんにおすすめを選んでもらう。


「フィナ、術、する?」


 さっきからこれ聞きたかったんだよね。


「する。ユウナも術する」


 えっ、私も?

 これから教えてくれるってことかな?


「でも、それ前に。くむくむする」


 術を習う前に、何かすることがあるって事だよね。めちゃ楽しみじゃないですか!


 ギリギリ20歳前に魔法使いになれるチャンス?!

 魔力測定とかされちゃうの?属性検査する?


 出てきた料理は、葉っぱに包まれて蒸されたもち米とあわ、鶏肉と根菜でお上品な味付けながらなかなか美味しかった。


 お店の外に出ると、カイくんが待っていた。

 奥様、コーディーさん、葉っぱに包まれたお弁当を持ったフィナちゃんとサヒラーさんにお別れして、二人でで何処かに行くらしい。


 サヒラーさんがカイくんにくむくむと指示を出している。


 奥様方、またお会いしましょう。手を振りあって別れると、カイくんはご飯屋さんから南に進んでいく。


 道に引かれた砂が薄くボコボコした道。薄い屋根の平屋の長屋が続く。そのさらに奥の小屋がお目当ての場所だったらしい。中を覗いたカイくんが、入れと手招きをする。


 お、お邪魔します。


 中は以外に広くて、土間の奥がちゃんと高床になってて安心した。って言っても8畳ぐらいかな。


 板の間には7·8歳位の女の子と3·4歳位の男の子が正座していた。視線はカイくんの手元に釘付けだ。


「くむくむ、くーむくむくむ」


 カイくんがくむくむすると、我に返った子供たちが私に挨拶する。


「「こんにちは」」


「こんにちは」


 うんうん、しょうがないよね。カイくんが途中で買ってた肉まんと串焼き、匂いが凄いもんね。サヒラーさんの許可を得て、カイくんがお子様たちにご飯を手渡す。


「「ありがとうございます」」


 なんてお利口さんなんでしょう。

 でも、カイくん三·四歳の子に串は無理だ。二口目も上からいこうとしてて、見てるこっちが恐ろしい。

 幸い、お姉ちゃんが直ぐに気づいて、両手で持って横から噛む事を教えている。口の横からヨダレ垂れてるけど、ちゃんとお姉さんだね。偉い!


 子供が嬉しそうにご飯を食べているのを見るとほっこりするね。


 で、この子達は何なんだろうか?まさかこの子達に用事じゃないよね?っと、思っているとガラッと戸を開けて、十四·五歳位の黒髪の男の子が入ってきた。慌てた様子で、カイくんに謝っている。

 この子に用事があったのかな?


 ちょっとくたびれてるけどカイくんと似たような服を着て、山刀を差している。

 カイくんの後輩とか?


 お腹いっぱいご飯を食べた子供たちは、ありがとうとお礼を言うと、元気いっぱい外に飛び出して行った。


 改めて座り直して、挨拶をする。


「はじめまして、私はゆうな」


「初めまして、私はワラド」


 挨拶を終えると、カイくんが「ユウナ、ワラド、カイみる」っと言って、私の前に二人で座る。


 あー、あのもわもわが見えるか視るってことね。その為に、ここに来たのかな?


 私は意識を集中させて、ワラドくんを見る。健康的にやけた浅黒い肌に、黒髪黒目、切れ長の目が凛々しいね。この子は将来が期待出来る!


 いや、違う違う、そうじゃない。煩悩が湧いてきてしまう。頭を振って、ちゃんと視る。


 むお、デカ。

 正座するワラドくんの横に寄り添うような何かが見える。ワラドくんの方を見ている頭が、ハッハッと揺れている。でっかいけどこれ、ワンコじゃない?


 カイくんを見る。相変わらずストイックなたたずまい。高校生にしか見えないのに、滲み出る玄人感は一体何なんだろうか?

 ジーと視る。


 ん?あ、カイくんにもなんか見えるよ!ただ、めっちゃちっこい。それこそお団子サイズ。しかも全然何かわからない。


 ワラドくんのは犬だと思うんだけど……

 視ろって言ったからには、出すことを期待されてるんだよね?


「いぬ、だす?」


 尋ねると、ワラドくんがクワッっと目を見開いた。怖っ、めっちゃ目開くやん!

 にじり寄ってくむってくるワラドくんを、カイくんが止めてくれる。


 びっくりしたなーもう。


「悪いもの、ダメ、犬、だす」


 カイくんの許可が出たので、ワラドくんに向き合う。

 うん、ガッツリ居るね。でもこれ、カイくんたちの連れてる犬のサイズじゃないんだよね。カイくんたちのワンコは柴犬よりは大きいけど、中型犬の枠に入るサイズで、これは明らかに大型犬だ。


「いぬ、おおきい」


 ワラドくんの目が輝く。もう、出しちゃいますよ?手を差し出して、ワンコの頭に触れる。うん、エアおっぱいな感触。でも形はワンコ。ワンコの顔を両手で抱える。

 おいで。


 ぶわっと風が吹いて、光を放ちながら収縮して戻ると、そこには黒と焦げ茶の入り交じった美しい毛皮と、真っ白な手足を持つワンコが·····瞳が真っ青だよ。


 ······えーっと、これワンコ?


「チビ!」


 ワラドくんが興奮してワンコに抱きつき、私は突き飛ばされた。またかい!


 って、名前チビなの?でっかいけど?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る