第17話
ワンコが死んだ。
外傷があったし、しょうがないかもしれないけど生き物が死ぬのは悲しい。温かくて柔らかかったものが、固く冷たくなっていく時、暴力的にその死を理解させられる。
サヒラーさんの家の御用聞きをしている、セグさんに手伝って貰ってワンコを埋めた。
セグさんは、ドワーフかな?って思うほど背が低い
埋めた周りに、田んぼのふちから取ってきた彼岸花を植える。これで安心だね。
――――――ハリルちゃん、どうぞ安らかに眠って下さい。
カイくんは二日も意識が無かったのに、起きた途端にラムジさんを呼んでくむ会を開いていた。これで二日目ですよ! 本当は村長さん宅に行こうとしてたんだけど、サヒラーさんが止めた。
アミル君の痣も順調に薄くなってる。今日にも目が覚めるんじゃないかな?って、私は思ってる。誠心誠意拭いてるからね。
るるちゃんが最初の日から囁きが聴こえたり、夜になると回ってる影が見えたりするらしくサヒラーさんに泣きついてたよ。やっぱり叩いただけじゃ、祓えてなかったのかな?
実は私も見えたけど、「生きてるものが一番強い」を呪文のように唱えながらハタキで叩いたよ。 ただあのボソボソはね·····あれはないわ~。
「ユウナくむーくむくむ!」
あ、フィナちゃんが、呼んでる。
実は今フィナちゃんとサヒラーさんの三人で住んでる。元々朝から晩までサヒラーさん家に居たフィナちゃんだけど、晴れて住人になったわけです。サヒラーさんは両手に花だね。
フィナちゃんは明らかに年下なんだけど、どうも私のことを手のかかる妹か何かの様に思ってるみたい。色んなことを教えてくれる。
「フィナ、なに?」
フィナちゃんの遠慮のないくむりとボディーランゲージ?により私のくむ語に動詞が加わった! ってもまだ数個だけどさ。
「洗濯、する」
「わかった、せんたく、する」
私とフィナちゃんは柵の外の井戸へ向かう。
街の中へ行けば、引き込まれたあの池の清流が流れる用水路があって、分岐させて洗濯場も作られてる。すごく便利で、普段はそっちで洗ってたらしい。
でも今は穢れが移るからか、穢れたものを村に持ち込めないのか、村の柵の外にある井戸でキコキコしてお洗濯してる。村長さん家で体験済みだけど、洗濯って重労働なんだよねー。
まずは
汗ばんだ少女二人が頬を赤らめ(水を汲んでたから)、一つの盥に入り指を絡ませながら(バランスをとるため)ふみふみする。
綺麗になったやつを隣の盥に移して、また次を踏む。この時にもフィナちゃんは教育の手を弛めない。洗濯物の名前を連呼します。
シーツ、服は問題ありませんが、ふんどしを連呼させるの如何なものでしょう?
あ、フィナちゃんは紐パンみたいな可愛いふんどし持ってたよ!いいなー。
ともあれ、二人で手を組んで行う洗濯はしゃがんで手で行う洗濯よりよっぽど早いし、腰も痛くならない。コーディさんも足で踏めばいいのにね。
そしてここからが問題の絞り。
ジャジャーーーん! ユウナ·セグローラー!
このローラーは、夕菜が知恵を絞り考えたアイディアを、御用聞きのセグさんが原型を留めぬほど改造して作り上げた
めっちゃ使えるけど泣ける。なんか鉄をぐるぐるした、バネで閉じてる方がデフォになってるの。おかげでサクサク絞れて、皺もかなり軽減されてる。
今もう一個改良版を作って貰ってて、それが出来たら村長さん家に持っていくんだ。コーディさんも楽になるね!
うーん。干してパンパンしてたなびくのを見てると達成感が凄いね。気持ちいいー。
仁王立ちで洗濯物を眺めていると、るるちゃんが来た。柵の外側で呼んでいるので、フィナちゃんと叩きあって中に入った。
るるちゃんは毎日二回、拭うのを手伝いに来てくれている。
ふふっ、るるちゃんってフィナちゃんが、好きみたいなんだよね。あれから毎日、お菓子とか、ちょっと便利な日用品とかを貢物に持ってくるの。手伝ってもらえて、ご相伴にあずかれて、ニヤニヤ出来るという環境。最高だね。
今日のおやつは何かな?おお、小さい落雁だね!お花になってて可愛いのー。ありがたくいただきます。
んー、素朴な甘みが染み渡るね。
一生懸命フィナちゃんに話しかける、るるちゃんをニマニマ堪能したあとは、拭いのお時間です。
わんちゃん達は元気になって犬小屋に帰って行ったので、今は二人だけだ。症状の軽いカイくんからだね。
助手を引き連れた私が小屋に入ると、カイくんはおやすみの最中だった。あら、可愛い。
寝顔が可愛い人って良いよねー。私なんて白目剥いてたり、口空いてたりするらしくて、好きな人と添い寝する事を今から恐れていると言うのに······
左側に座って「カイ、カイ」って呼んでみても起きないので、そのまま拭くことにする。朝も拭いてるから、本当は痣の所だけ拭えば良いんだけど、あえて顔を拭いてみる。
生え際からおでこ、耳に耳の裏、首すじ。
起きないので鼻を拭いてみる。小鼻の横も丁寧に拭かないとね?
息を荒らげて飛び起きたカイくんにお礼のくむくむを頂いた私は、感謝されながら左上半身を拭き終え、アミルくんの部屋に向かった。
アミルくんの小屋はまだ空気の粘度が高い気がするけど、大分マシになった。ずっとこの部屋に居座ってるみうのお手柄かな?めちゃ舐めてるしね。
るるちゃんの決死の表情も、そろそろ見納めかもしれない。
怖がりなのに、好きな人に近づく為に勇気を振り絞るも、青ざめ震えるるるちゃん。美味しゅうございました。
額を生え際から丁寧に拭いていく。
るるちゃんがお湯にしてくれた、温かい手拭いで目の上のマッサージもしてみる。起きないなー。
流石にアミルくんの小鼻マッサージをする訳にはいかないので、大人しく痣を拭う。落ちろー落ちろー。
一心不乱に拭っていると、アミルくんの胸の上から肩の周りを動き回る、歪みを見つけた。
あ―――これ! 前にソラちゃんが出てきた時のやつじゃない?るるちゃんにつんつくして、コレコレと指さすも見えないみたい。
うぅ、気になる。透明だし、瘴気纏ってないし、触ってみてもいいかな?
1周拭き終えた私は、指をワキワキさせながら歪みを掴んだ。うーん、これこれ。ソラちゃんの時と一緒だね。
胸の前に持ってきて、じーっと見つめる。ん?耳があって、ずんぐりしてるって事は分かるんだけど······尻尾は短いね。
うんうん言いながら見つめていると、手元が光り、ばふっっってウリ坊が現れた。
硬直する私とるるちゃん。小さなウリ坊はお鼻をくんくんしながらアミルくんの元へ行くと、さっきと同じ位置でうろうろし始めた。
凄い小さいウリ坊、可愛いな。柄もいいねー、バンビみたい。
乗り上げまくってるけど、さっきは実態無かったからいいけど、今それするといくら軽くても痛そうよ?
って、そうじゃない私!
もう、あれは夢だったのかな?って思うぐらいソラちゃんも普通だし、その後何も無いしで忘れかけてたけど、出ましたよこれ!
でも何でウリ坊?ソラちゃんはペット(✕)だったみたいだけど、アミルくんイノシシ飼ってたの?
――――――くむくむーーーーー
石になってたるるちゃんが、悲鳴のような声を上げて駆け出して行った。
るるちゃん···こんな可愛いウリ坊なのに…
ウリ坊が、アミルくんの顔にお鼻ちゅっちゅしまくってる。やっぱりペットなのかな~。アミルを起こそうとしてるみたいに見える。
足の方に寝ていたみうが近づいてきた。おはよう、みう。
みうはウリ坊にお鼻でご挨拶した後、一緒になって顔に顔を擦り付け始めた。めっちゃ可愛いけど、可愛いけど病人にこれはどうなの?
引き離すか悩みながら心のシャッターを切っていると、アミルくんが目を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます