第14話

 

 お祭りの後、鍛えられた体のストイックそうなおじ様(35ぐらいかな?)ことラムジさんが、慌てた様子でやって来て村長フェリエッティさんと話してた。

 どうやら、カイくんが怪我をして、サヒラーさん家に運ばれたらしい。それぐらいの情報しか拾えなかった。


 カイくんは初村人で、村長夫妻に引き合わせてくれた、言わば恩人だ。初めに逢えたのがカイくんと村長さん夫妻じゃなければ、今のように平穏に暮らせていないと思う。

 話せない異邦人なんて、身ぐるみ剥がされて炭鉱行きでもおかしくないもんね。あ、一応女だし遊郭とかもあるのか。


 私は今日からサヒラーさん家に居候させてもらうので、出来るだけ看病させてもらおう。


 その前に、まずはお掃除だ! [立つ鳥跡を濁さず] 大したお礼は出来ないから、せめてお掃除ぐらいちゃんとしていきたい。


 ちゃっちゃと荷造りをして、使わせて貰った部屋を掃き、丹念に拭き清める。これで良し! さぁ、最後のご奉仕だコーディさんを探そう。




 コーディさんは中庭に居た。前掛けにほっかむりの何時もの格好で、タライに付けられてる茶碗をボーっと眺めてる。顔色も悪い。

 あれ、コーディさん、どうかしたのかな。お昼から、2時間近く経ってるよね?米粒を浸けておくにしても長すぎる。


「コーディ、おてつだい」


 私が話しかけると、我に返ったコーディさんは慌てて手を動かし始めた。

 何か心配事があるのかな?聞いてあげたいけど、動詞二つしか覚えていない私じゃ、聞いてあげる事すら出来ない。


 お手伝いさんで、私に話しかけてくれたのはコーディさんだけだった。出来ることならお役に立ちたい。遠くでくむくむされる中、コーディさんとのお仕事にどれだけ救われただろう。


 二つならんだ桶の、あわあわしていない方にしゃがみ、コーディさんが洗って入れた食器をゆすいでザルに伏せていく。

 小鉢が結構あるし、家人と奉公人の分を合わせたら、すごい量の洗い物になるんだよね。私には、黙々とお茶碗をゆすぎながら、コーディの心配事が解決するように祈るぐらいしか出来なかった。




  ◆◇◆




 お手伝いを終えた私は、奥様にご挨拶に上がった。


「二日間、本当にお世話になりました。お二人のご親切、決して忘れません。ありがとうございました《シュケーラ》」


 伝わらないのは分かっているけど、ちゃんと口に出して挨拶をした。村長ファリアッティさんは事故か事件で忙しいので居ないけど、お二人に感謝。


 髪を切る前から、鞄に入れっぱなしだった髪留めを奥様にプレゼントする。所謂バレッタってやつだね。


 奥様はくむくむ言いながら、髪留めを受け取り髪に付けてくれた。べっ甲の透かし彫りだから、華やかでありながらも落ち着いた風格があって、奥様に良く似合っている。


 良くしてもらった分には全然足りないけど、良いものプレゼントできて良かったな。


 奥様は旅立つ私に(歩いて十五分の距離)作務衣もどきと寝巻きに使っていた甚平もどきを持たせてくれた。


 この前お買い物でたくさん買って頂いたのにと、ありがたいばかりです。


 玄関で深々とお辞儀をして、奥様とお別れする。さようなら奥様、お世話になりました。




 あの、奥様。みうを渡して貰ってもよろしいですか?いや、エッ、じゃないですよ! 連れていきますから!




 奥様と涙ながらにお別れした私は、徒歩十五分圏内のサヒラーさんのお宅に向けて、るるちゃんと一緒に歩き出した。

 るるちゃんはわざわざ送ってくれるらしい。ありがとうるるちゃん。今日もくるくる天使だね!


 着替えなどで重くなったザックを担いでくれたので、腰のベルトを止めてあげるとおおー、っと感動していた。ねー、腰ベルト大事よね!


 サヒラーさん宅にはすぐ着いた。なんせ十五分だからね。豪快に開け放たれた玄関土間から入ると、心細そうな顔をしたフィナちゃんがいた。


「今日からお世話になります」


 お辞儀をしてから、お部屋に荷物を置かせてもらう。るるちゃんありがとう。


 るるちゃんとフィナちゃんがくむ談をして、こっちに来いとお外にいざなう。


 サヒラーとカイくんがお外にいるのかな?大人しくついて行くと、フィナちゃんは村を取り囲んでいる柵を開けて進んでいく。小道の先に小屋が二つ離れて建っていて、真ん中に井戸があり馬小屋もある。


 って、あの小屋おかしいよ! 漫画ならずももももーって黒いうねうね斜線で書くぐらい変な空気出てるよ!


 案内してくれたフィナちゃんが震える指で小屋をさした「カイ、アミル、サヒラー」ん?アミルって誰だろう、動詞?


 フィナちゃんは、背を向けるのも怖いのか、後ずさりしながら去っていった。

 顔を青くしたるるちゃんと、ビビりながら小屋に近づく。近づくと耳鳴りがして、耳元で呼吸音が······


 私たちは小さな悲鳴をあげて、お化け屋敷のカップルのように腕を絡めながら小屋への道を進んだ。


 意を決して戸を開けると、闇影闇影闇影、黒い影が身体中アザだらけになった少年を取り囲んで揺れている。言葉になってない、呼吸こき だけで呟くような音が耳元でずっと聞こえる。

 世界が歪んで、粘り気を帯びたように感じだ。




 何···これ。

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