第6話

 

 くむ。


 くーむくむ。


 くむくむーむくんくめ。


 くむぬーむ。くめくむ、くむくむくーむ。





 朝、私はくむくむ達のさえずりで目覚める。

 くむくむ達の朝は早い。


 日が昇り始める前には起きて熱いお茶飲み、少しのかりんとうを摘むと、葉っぱに包まれた握り飯を持って畑仕事に出る。


 早朝の冷たい空気の中、くむくむ達は挨拶しながらそれぞれの畑へ渡っていくのだ。



 多分。




 今が何時か分からないけど、6時前なのは確かだ。くむくむさん達はだいぶ前からくむくむしてらっしゃった。


 結局、ジュノィ村長のお家に泊めてもらった。おっさん家に行くのは、明日かららしい。行くのは確定事項だ。くむくむとさとされたのでしょうがない。


 アーラ奥様が今日一緒におっさん家に偵察に行ってくれるらしい。晩御飯の時に、おっさん家に行くことになったと伝えると、あーらあらと心配そうにして下さった。




 多分。




 顔の横でアンモナイトと化しているみうを撫でながら、朝起きてもくむくむ星だったと言う現実を噛み締める。


 ――嘘でしょ?夢じゃなかったの?だって私、空間からエゾリス生み出したんだよ?


 脳内でミニ夕が大騒ぎだ。(ミニ夕とは、ミニ 夕菜の略である)


 そうなんだよねー、起きたら家のベットなんだろうなと思いながら寝たんだけどなー。


 はぁ、顔でも洗わせてもらおう。

 この浴衣は顔を洗うぐらいならこのまま着てても許される類のものかな?きっと大丈夫だよね。このまま行こう。


 北のトイレの近くに井戸があって、そこで顔を洗うんだって。昨日お風呂の時に教えて貰った。


 お風呂は、蒸し風呂ってやつだった。

 大きな桶に焼いた石を入れて、水をかける。あれはやばいね、1回でやめて貰いました。死んでしまいます。

 お湯には浸かれなかったけど、何かの粉で髪も体もスッキリ洗えたから割と満足。でも、普段シャワーに頼ってるからか、桶で筋肉痛になったよ。もう、頭を流してる途中に面白いぐらい腕がブルブルしてた。


 北の中庭に出ると、お手伝いさんが手ぬぐいを干していた。顔を洗う仕草をすると1個だけ焼き石を入れた桶をくれた。ありがたや。


「シュケーラ」


 ふふっ、お礼を言うのは大事ですよ!因みに彼女の名前はコーディー、裸の付き合いをした仲なのです。

 最初に晩御飯ですよって奥様呼びに来た方と、コーディーさんの2人が家の中のことをしてるみたい。あ、コーディーさんはお子さんも手を離れたお年の、貫禄ある淑女ですよ。


 ぬるま湯で顔を洗って、歯磨きもするとだいぶシャッキリした。


 ささっと着替えて、台所に向かう。なにかお手伝いさせてもらおう。



 主屋の北西にある台所に、意気揚々と向かった私は開け放たれた台所前の竿に逆さに吊されて、血をダラダラ流す二羽のチャボとご対面しました。


 そうだ、私たちは命を頂いて生きているのです。決してパックの肉が歩いてる訳では無いのです。


 半泣きになりながら、台所に入りました。


 コーディーさんにお野菜を切るジェスチャーして、お手伝いをしたい旨を伝えます。定番のいもの皮むき等、どんとこい!


「くむ? くむくめくむむ。くむくむ、くめーるんく」


 あら、そんなのいいのに。でもそうねー、ならいもの皮むきでもやって貰おうかしら? っと言うコーディさんの声が聞こえた気がしました。


 芋を持ったコーディーさんに、たらいを持って付いてくるように促されたので、付いていくとかまどからから大きめの焼き石を一つ入れてくれました。


 ん? 湯使うの? 手洗いなら私は水で充分ですよ。薪もただじゃないしね!




 裏に出たコーディーさんは「くむくむ、くーむくんくる」と言いながら吊されたチャボを指指さしました。


 えっ……


 いや、あのコーディーさん?

 あなたじゃがいも持ってましたよね?



 えっ……







 え?




 



 鳥の羽をむしるときに大切なのは、熱すぎないお湯です。


 熱湯に浸けても毟れますが、お肉を痛めないためには、やはりぬるめのお湯に浸けるのが良いでしょう。


 銭湯好きの頑固じじぃなら、体を真っ赤にしながらも「中々気合いの入ったお湯じぁねぇか!」と笑いながら、入れる程度の温度です。


 軽く毟れる毛は毟ったあと、血や汚れを洗い流してからお湯に浸けます。熱湯なら5秒程度で良いですが、じじぃ湯ならば15秒は浸けましょう。


 丁寧に毛を毟りとったら、取り切れない産毛などは直火で焼きます。これでやっと見慣れたチキンの完成ですね!




 解体?

 恐ろしいことをおっしゃらないで下さい。

 私みたいな三下が板前に立つなんて出来るはずが無いではありませんか!



 あ、コーディーさん毟り終了致しました。


 え、いいえとんでもございませんわたくしが包丁を握るなど、恐れ多い事でございます!


 あ、奥様がわたくしを呼んでいらっしゃいます。


 子供の手伝いで、煩わせてしまいまして、誠に申し訳ございませんでした。


 今度は洗い物など、お手伝いさせて頂きますね。それでは御機嫌ようコーディー様。




 私は逃げるようにその場を後にした。




 お部屋に飛び込んで、お布団の中に潜んでいると何かがベットに飛び乗ってきた。


 って、みうしか居ないじゃんね。


「みうー、怖かったよー」


 ガバッと布団を跳ね除けると、目の前には鳥の生首を咥えた猫が! ひぃぃい

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