第4話

 

 ヨヨヨとばかりに横座りをしていた私を助け起こしたアーラ奥様は、私の手を取って、付いてくるように促した。


 確かに此処で涅槃ねはんに達したおっさんと、高速でくむくむ言い合う二人を見ていても得るものはないであろう。だがしかし、くむくむの中身はほぼ私のことだろうに、私が離席してもいいものなのか?

 

 ジュノと奥様を交互に見詰めると。アーラ奥様は大丈夫です、安心しなさいとほほ笑みを浮かべた。 多分。


 まぁ、居てもどうせなんにも分からないしね。みうは、探検に行ってしまったし、私もおいとまさせてもらうとしよう。ザックは一応持っていこうかな、失礼かもしれないけれど全財産なんだしね。

 

 すぐ隣の部屋に通されて、椅子を勧められた。椅子とテーブルあるんですね。

 

 旅館の窓際に置かれてそうなテーブルの上には既に急須が置かれていて、奥様がまたまたまたお茶を注いでくださった。かりんとうのような物を茶請けに一服する。素朴な甘さで大変美味しゅうございます奥様。


 アーラ奥様の心遣いは大変ありがたく、お茶もお菓子もほんとに美味しい。昼前からおにぎり3分の2で散々歩いた私には、体の隅々まで染み渡る糖分がありがたいです。


 ですが奥様、人間食べれば出るものがございます。

 

 子供に教えるように優しく指をさしては、テーブルやら椅子やら、兎に角単語を教えようとして下さいますが、私の心は厠に飛んでいます。


 しもを指刺せばアーラ奥様はすぐにでも厠に連れて行って下さるでしょう。ですが、私は現代っ子。和式どころか、ウォシュレットがないだけでも回れ右をするような生活を送ってきたのでございます。

 そんな私にはくむくむ星のトイレが恐ろしいのです。


 ポットんは確定事項であろうことは理解しています。匂いにも、和式方式にも耐えてみせましょう。私の気掛かりはことの終わったあとなのです。

 

 もしも、もしも古代ローマの様に壺に海綿が入れてあってそれで拭けと言われたら?インドの様に左手で拭けと言われたら?そう思うとなかなか腰が上がりません。ですが、私の下着には変えは無いのです。



 って、私トイレットペーパーとウエットティッシュ持ってるんだった。手のひらを2回奥様の方に押すように振ってから(待って待って)ザックからトイレットペーパーを取り出す。


 そしてジェスチャーゲーム。お茶を飲む動作をしてから、下腹部を両手で抑える。足踏みもしてみる。奥様はすぐ察してくれた。


 連れていかれたトイレは案の定、はなれのポットんだったけど、意外なことに臭くなかった! 公園の公衆トイレのがよっぽど臭い。

 

 奥様のジェスチャーによると、藁を軽く一掴み取り中に落として、致したあと四角い陶器に入っている、水に浸された薄い楕円形の、それこそスライスした海面のようなもので拭き、それと共にまた一掴みの藁を中に投じるのだとか。納豆作れて、屋根作れて、ミノ作れてわらじ作れて、トイレを消臭できるのだ! ほんと藁っってすごいね!


 

 消費社会バンザーーーイ、海綿もどきバンザーイ、稾バンザーイ! リサイクルなんてクソ喰らえだ!

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