これって、もしかして恋?
朝凪 凜
第1話
子供の頃、よく遊んでいた男の子。
しょっちゅうお互いの家に遊びに行き、日が落ちるまで遊んでいた。
しかし、今は滅多に会うことも出来ずにいる。
その男の子は家では無く、少女の住んでいる町から少し離れた大きな総合病院の病室にいるのだ。
小学校一年からずっと同じクラスで、学校を休むと必ず私がプリントを届けに足を運んだ。
当時は渋々としていたが、今では何かあるたびに顔を見たいと思う様になっていた。
「今週もまだ半分あるなぁ……」
独り言に反応したかのように携帯電話が震えた。
『今はまだ学校だよね。ヒマしてるかと思って連絡した(笑)』
いつもヒマな人が、と内心微笑みながらいると
「こら、授業中の携帯は電源を切りなさい。緊急の用事なら学校に連絡が入るから、生徒のみんなは電源を切っておくこと。校則違反だぞ」
怒られてしまった。携帯電話が禁止なんて校則も時代に合っていない。みんな持ってきているし、電源を切っている人はほとんどいない。
仕方なく、電源を切って授業を聞くことにした。
授業が終わり、ようやく返事を書いていたら
『返事なかったけど、もしかして携帯見つかった?』
こちらを見透かしたようなメールが先に届いた。
『週末勉強教えて貰うから覚悟してなさい』
さっきの返事は無視して、いつものやりとり。
週末になると、いつも少女は病院に向かった。
これは彼女が中学に入ってから一年以上続けている週課だ。
男の子はいつも病院にいる。小学校卒業するまではなんとか学校に通うことが出来ていたのだけれど、中学からはそれが難しくなり、入院となったのだ。
それでも今までと同じように少女は遊びにいく。行き先が家から病院に変わっただけで。
何の前触れも無く病室を開けて
「勉強を教えてもらいにきたぞ」
開口一番に言い放ったところで、いつもと違うことに気づいた。
手を上げて「よっ」と挨拶されなかったのだ。
中を覗いてみると個室のカーテンを開けたまま眠っていた。静かに、瀟々と。
寝ているところなんてほとんど見たことが無かった。私が来るときにはすでに手持ち無沙汰で本を読んでいることが多く、日が落ちるまでずっと話をしたり、勉強をしたり、笑い合っていた。
「せっかく勉強道具持ってきたのにな……」
独りごちて、ベッドの脇までそっと寄る。テーブルには本が数冊積まれていた。きっとさっきまで読んでいて眠ってしまったのだろう。
男の子の顔をまじまじと見ると、とても幸せそうにも見えるし無表情にも見える。
「いつもどんな顔で話してたっけ」
どんなときも顔を見ていたはずなのにどういう風に笑っていたか、神妙な顔つきで真面目に話を聞いていたか、間違ったことを怒っていたか、うまく思い出せない。
普段気にも留めないことに気づいてしまい、いつものように笑いかけてほしくて、ただ笑顔が見たくて、手を伸ばしたところで思いとどまる。
「私はこの自然な
そのまま三十分か一時間か時間を気にしないでただ時が過ぎるのを感じていた。
看護師さんも気を利かせていたのか、単に入りづらかったのかは分からないけれど、誰も入ってくることは無かった。
「今日はお休みの日にしよう」
飽きもせず頬杖をついて眺めていたところで、ようやく満足したのかおもむろに腰を上げて個室の入り口へ向かう。
「じゃあまたね」
振り返るとまだ朝の日差しが真っ白なベッドに光を落とし、病室に雪が降ったように見えた。
これって、もしかして恋? 朝凪 凜 @rin7n
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