第40話 合成樹脂を使いたい
「やはり不便よね」
サオリが容器を見ながら呟いた。
水を入れている陶器の容器だ。
「私たちが地球で使っているプラスチックは環境の事を考えれば問題が多くあるが、素材としては優秀だからね」
「そうよね。重さと丈夫さを考えるとプラスチックの容器は必要よね。こちらで作れないの?」
「作れるよ」
「作れるの?石油はあるの」
「石油はあるけど利用はほとんどしていないようだ。燃える水といって厄介なものらしい。だけど石油がなくても有機化合物を使えばプラスチックは作れるよ。特に私の魔法で有機物の材料はいろいろ用意できるからね」
その魔法を付与した魔道具ができれば必要な素材の量産もできる。
「どんなのがつくれるの?」
「PET樹脂はできたよ」
PET樹脂はフィルム状にしたりペットボトルのような容器にしたりと用途が多い。
また合成繊維としても使える。
PET樹脂はある程度は耐熱性や耐寒性や強度に優れている。
透明度が高く、強靭で耐薬品性もある程度はある。
この世界で作ったPET樹脂は石油由来ではないので環境にやさしいと言えるだろう。
「どうやって作ったの?師匠の魔道具?」
「私の溶液をいじくる魔法だよ」
「そうなんだ」
PET樹脂-ポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸とエチレングリコールを原料にしている。
本来はテレフタル酸は石油を原料にするが生物由来の有機物を原料に溶液魔法で合成できてしまった。
この魔法を付与して魔道具を作り、PET樹脂を作ることができる。
問題はプラスチックが生態系や景観に与える影響。
野生動物が間違えて食べてしまったりするのは困る。
地球では海亀が食べてしまって問題になっているよね。
ごみが分解されずにいつまでも自然界に残り景観を壊すのも厄介だ。
しかしプラスチック素材のもつ素晴らしい機能をこの世界でも活用したい。
リサイクルを徹底することで環境への負荷は減らすつもりだがうまくいくかが不安だ。
「PET樹脂以外にはどんな素材ができそうなの?」
「植物由来の生分解性プラスチック、特にポリ乳酸を少し研究はしているのだがまだ研究が必要だね」
「そのような研究を行う場所を作ったらどうでしょう」
「王宮とも相談するといいかな。ついでに生ごみなどから原料になる有機物を集めるのもいいしね」
生ごみや木材などのごみは王都などでは燃やしている。
これをうまく利用できないだろうか。
今一つ研究しているのはPET樹脂など生分解性でないプラスチックを魔法で分解すること。
PET樹脂は有機物を溶質にした水溶液を作るときの材料にする形で魔法で分解できたがあまり効率がよくない。
他の魔法使いが行うとかなり魔力を使うだろう。
水溶液を作る以外の直接物質を分解できる魔法をもっと使えるようになってプラスチックを分解できる魔道具を完備できればいいのだがまだ時間がかかりそうだ。
手始めに水屋で扱う容器をPET樹脂の広口の瓶にすること目標に試作してみた。
地球では蓋はポリプロピレンなどだがここではPET樹脂で作った。
スクリューでなくひもで蓋を本体に固定する形にした。
強度や重さなどを考慮しながら師匠が残した瓶を作る魔道具を改良しながらPET樹脂の瓶を作った。
水屋の店内だけで使うようにする。
その後は登録されたお客に貸し出す形にした。
法律が整備されたら美味しい水の容器ごとの販売、そして塩の出荷に使いたい。
ただこの素材を広めてことを後悔しないようによく考え、よく相談してから実用化していくつもりだ。
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