第39話 孤児たちの夢

温泉町の孤児院もでき、孤児たちも各地から温泉町にやって来た。

孤児院の開院式が行われ私たちも出席することになっている。

私とサオリは有給休暇を取って参加した。

カオリはちょうど大学の創立記念日だったようだ。

ユキノさんとウォルト王太子も参加している。

式典も終わり懇親会が行われている。


この新しい孤児院に入ったのは孤児は6歳から14歳の32人だ。

全員が希望してこの町の孤児院に移って来た。

今までにいた孤児院に強制されて移ったのではないことは確認してある。

当たり前だけど孤児になった理由は様々だ。

捨て子、親の暴力、親の死亡などだ。

受け入れるにあたって子供たちの選考にかかわったので知っているのだが親の暴力が原因になっているケースが増えているようだ。

受け入れの選考はしたが本人の希望ならば原則として全員を受け入れた。

ここの孤児院の受け入れの条件としての約束事は「人を傷つけない」ということである。

前にいた孤児院での行動から正直に言って不安のある子たちもいるが面接で人を傷つけないと約束させた。


この世界では仕事は世襲制が多い。

農民の子は農民、商人の子は商人、宿屋の子は宿屋、鍛冶屋の子は鍛冶屋。

新しい仕事を始める資金がないというのがその理由になる。

世襲以外では傭兵や採集者や鉱山労働者や日雇い労働者か。

資金がなく学校に行っていない孤児院の出身者は職に就くのが不利だ。

結果として定職を持てずスラムの住民になってしまうケースが多い。


この温泉町の孤児院ではしっかりと教育を受けさせることにしている。

今まで学校に行っていない子供たちだが孤児院では独自の教育も行っているところもある。

何年生がいいのか試験で調べその学年に入れることになっている。

この世界では1年生から4年生が初等学校、5年生から8年生が中学、9年生から12年生が高校、13年生と14年生が大学だ。

6歳から初等学校に入れるから実力さえあれば14歳は高校に入れる。

ここの孤児院は18歳になれば原則としてここから出ることになっているが学校に在学中は継続していることができる。


孤児院では子供たちが何かしらの仕事をやることになっている。

他のところの孤児院ではそれで得たお金は孤児院の運営資金と孤児院を出るときの僅かな餞別になる。

その餞別は1万円もないらしい。

一月生きていけるかどうかだ。

ここの孤児院では孤児院内部の仕事も労働の量に見合った給金が支給されるようにした。

孤児が得た収入のうち2割は孤児院の運営費用に回す。

ここから孤児院内部の仕事の給金が支給される。

3割は現金で本人に渡す。

これをどのように使うかは本人に任せる。

衣食に使うもよし、蓄えるのもよし。

お金の使い方も勉強だ。

5割は貯えて孤児院を出るときに渡すことにしている。


孤児院の運営費用は孤児院の行っている事業と助成で賄っている。

孤児院での3食と光熱費、衣類と日用品の支給、スタッフの給金。

孤児院では町民専用温泉公衆浴場の一つを運営することにしている。

畑と果樹園もあり、そこで作物も作る。

工房では加工食品を作ったり鍛冶もできる。

販売所と食堂もある。

だから外に仕事に行く子供は少ない。

孤児院にいながら職業体験ができるようになっている。

学校は午前中だけの子と午後だけの子と1日の子がいるのでうまく仕事を割り振ることができる。


懇親会の前半が終わると来賓の多くが帰って行った。

サオリが孤児たちに興味深い事を訊いている。

「みんなは将来なりたい職業って決まっているの?将来の夢ってあるのかな」

「僕は衛士になりたい。強くなってみんなを守るの」

「私は食堂屋さん。料理でみんなを幸せにしたい」

「魔法使い、王宮で働きたい」

「商人になってお金儲けをしたい」

「学校の先生がいい」

「孤児院で働きたいな」

色々な目標があるようだ。

もちろんまだ決まっていない子が大半だ。

英雄や勇者というのもあった。

お姫様という子もいた。

「どの夢に実現するにもしっかりと準備をしなくてはね。そのために今はしっかりと学校で勉強してね」

「うん、折角勉強させてもらえるところに来たのだから頑張るよ」


しかし、

「俺は強くなって復讐をしたい」

そんなことを言った子もいた。

それって人を傷つけることだとわかっているかな。

孤児院の中だけでなく社会に出ても人を傷つけないで欲しい。

「復讐は自分も不幸になってしまうよ」

「わかっている。でも今までに俺に意地悪をした連中や親に復讐をしたい」

「復讐をした後、君はどうするのかな?」

「わからない・・・・・・」

「すぐに復讐をしたいの?」

「今は弱いから無理」

「本当に復讐が必要なのかよく考えようね」

「う、うん」

心に闇を抱えている子もいるようだ。

この子は心配していた子の一人だ。

まだ想いを外に出すからいい。

心配していた子の中には何も話そうとしない子もいる。

どんなことを考えているのだろう。

こういう子たちのにしっかりと将来の夢をみさせたい。

孤児院にはこういう子たちの存在を考えて専門的なスタッフを配置しているのでその成果に期待しよう。

私たちも子供たちのと将来の夢について語り合う時間を作ろうと考えながら私たちは孤児院を後にした。

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