第19話 住民救出作戦

翌日の早朝、王都の北門前には4000人のボウリ伯爵討伐軍の第2陣が集まった。

すでに第1陣3000人はボウリ伯爵領の領都を包囲して3日が経つという。

第2陣の指揮はウォルト王太子が担うはずであったが騎士団長が代わりを務めることになった。

私とウォルト王太子は10台の魔力自動車に120人が乗車して先行することになった。

なお、第2陣本体には物資を収納に納めた魔力自動車2台が同行することになっている。

そのお陰で馬車に積む物資は当面必要なものだけで済み、これだけ行軍速度も速くなりそうだ。

加えて馬用の栄養剤と栄養食も配ってある。

副作用がなく体力と持久力が大幅に向上する。

1日80km以上進軍する予定になっている。

普通の進軍の場合、早くても6日かかるところを3日で進軍できそうだということだ。

朝6時に王都を出発した私たちの先行部隊の内2台には今日の第2陣の本体の宿営予定地で別れ、宿営地を設営を行ってもらっている。

8台の魔力自動車は11時に第1陣と合流した。


ボウリ伯爵の領都は周囲を長さ約6kmで高さ4mの外壁で囲まれている。

中心には長さ約3km高さ6mの城壁で囲まれたボウリ伯爵の居城がある。

領都の人口は約2万人。

ボウリ軍は2000人だがそれに加えた無理やり徴兵された住民が2000人いるらしい。

残りの住民1万8千人は外壁近くでテント生活を強いられている。

外壁を破れば外壁内側すぐの場所でテント生活を強いられている住民に被害が出る。

まさに住民を盾にしている。

特に外壁の東西南北にある門の内外には足の踏み場がないように住民が配置されている。

「門の外側の住民は逃げ出さないのですか?」

合流してすぐに行われた作戦会議の場で第1陣の司令官に尋ねた。

「はい、柵が設けられており簡単にその場から離れられないようになっています。さらに逃げ出そうとした者には容赦なく矢を射かけております。すでに20名ぐらいの住民が犠牲になっております。それでも脱出に成功したものが数名おり、その者たちの話では水や食料の配給は少なく、衛生状態も悪くなっており多数の病人が出ている状況のようです。以上です賢者様」

「大変わかりやすく説明してもらってありがとうございます。が、その最後の賢者様というのは何?」

「は、タカシ様は先代賢者様の後継者ですから新しい賢者様ですよね。皆そのように呼んでいますが」

ウォルト王太子が「アチャー」というような顔をした。

私がそういうのを嫌がっているのを知っているからね。

「司令官、タカシさんはそういう呼び方が嫌いなんだよ。先代と同じで」

「も、申しわけありませんでした。では何とお呼びすれば?」

「タカシでお願いします」

「わかりました。タカシ様。そう言えば先代にも言われました。それでも賢者様と呼んだら、不機嫌になり3日も話を聞いていただけなくなりました」

師匠もそういう子供っぽいところがあるからなあ。

「しかし、住民を何とか救出しなくてはいけませんね。外壁に住民を監視している兵がいるのですよね」

「はい、20mごとに2名、約600名が配置されているようです」

「ウォルト王太子、まずは住民の救出ということでよろしいでしょうか?」

「そうだね、タカシさん。それが先決ですね」

「でも外壁が邪魔で救出と言っても簡単にはいきませんよ」

「指令官殿、邪魔だったら消してしまえばいいでしょう」

「そうだね、タカシさんなら消せるんだよね」

「「「外壁を消す!」」」

ウォルト王太子以外の出席者が驚いている。

まあ消すと言っても消失という訳ではない。

外壁を「外壁だった物」にするだけだ。

「それでは準備しましょう。あ、私が仕切っていいのでしょうか」

「「「「「ご自由に」」」」」

「ではまずは住民の保護施設を設営してください。遅くとも明日には住民の皆さんには家に戻っていただきますが、劣悪な環境にいた住民の回復が必要でしょう。保護施設ではまず経口補水液を飲んでもらいます。飲みにくいかもしれませんが、脱水状態の改善です。その後は水と栄養ドリンク。さらに食べられる人たちには栄養食を与えてください。病人以外はそれで回復するはずです」

栄養ドリンクには回復の魔法薬を混ぜてある。

私が作る回復の魔法薬は100倍に薄めても上級の回復の魔法薬以上の効果があることが比較することで分かったので今回は栄養ドリンクに混ぜてある。

栄養ドリンクは3万本も用意がある。

栄養食は様々な成分を混ぜたパウンドケーキだ。

徹夜で王宮の料理人と5万食をつくった。

お陰で眠い。

車の運転は王太子たちに任せて寝ていたけどね。

「病人はどうしますか?」

「私が用意する病気治癒の魔法薬の10倍希釈版を飲ませてください。それで駄目でしたら私を呼んでください」

「わかりました。それ以外に準備することはありますか?」

「捕らえた兵を収容する施設を造ってありますか」

「はい、あります」

「全員収容できますよね」

「残念ながら戦争では死者が出ますので全員分は用意しません」

「全員捕縛しますので準備してください」

「は、わかりました」

その後どのように兵を無力化するか、外壁を消失させるかを説明した。

聞いている皆さんは唖然としていたけどね。

「では作戦は14時に決行します」

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