第18話 婚約と参戦決定

毒の塗られたナイフで刺されたようだ。

毒が急激に体内を蝕んでいく。

魔法毒か。

解毒しなければ。

間に合わない。

視覚が、聴覚が、感覚が閉ざされていく。

闇の飲み込まれていく。

意識が・・・・・・。

ああ、死ぬのか・・・・。

タカ・さん・・・・。

タ・・さ・。

名前を呼ばれたような感じがする。

何度も。

唇に何かが押し当てられたような。

そして何かが流れ込んでくる。

これは解毒薬?

覚醒してくる。

意識がはっきりしてきた。

頭の下が柔らかい!?

目も見えるようになってきた。

目の前には涙を流して目を腫らしたユキノ王女がいた。

その背景には星空!

え、ユキノ王女に膝枕をしてもらっている。

ナイフによる傷は・・・・・なくなっている。

「間に合ったね。これも飲んだ方がいいだろう」

内服用の病気治癒薬と体力回復薬をユキノ王女の横にいたウォルト王太子から渡された。

これは私がウォルト王太子から渡した魔法薬。

病気治癒薬と体力回復薬を飲んだ。

回復してくる。

傷によって生じた状態異常も回復してきた。

でも解毒薬は自分で飲めたのか?

「傷薬と解呪薬は傷口にかけたよ。解毒薬は飲もうとしないので、口移しで」

「え、」

このイケメンに唇を奪われた!

「そのう・・・私が口移しで飲ませようと言ったら『タカシさんが汚れる』と言ったユキノに取り上げられてユキノが口移しでタカシさんに飲ませたよ」

ユキノ王女が真っ赤になっている。

私も真っ赤になってしまった。

「ユ、ユキノさん、ありがとうございました。ユキノさんは命の恩人です」

「いいえ、どういたしまして。すみません私で」

ウォルト王太子がニマニマしている。


「犯人はタカシさんが無力化したので拘束した。死んではいないが低体温症を治すのに大変だったよ。後遺症でないだろう。あとタカシさんの様子を見て怒り狂ったユキノがもう一度凍らせようとしたのを止めるのにね」

「おおお兄様!」

ユキノ王女は氷属性の魔法が得意だったな。

怒らせると怖いんだ。

覚えておこう。


魔物は回収されていた。

解体され、王宮に買い取られるということだ。

素材や肉が色々に使われる。

軍を出しているから肉は必要だ。

どのようにして倒したのか訊かれた。

毒で倒した場合、食用にできない場合もあるからね。

一応は鑑定もするらしい。

カリウムは回収したから大丈夫だろう。

カルシウム不足の肉かな?


ウォルト王太子とユキノ王女とともに王宮に向かった。

王様に報告をしなくてはいけない。

色々と・・・・。

変な所からおかしな情報が入る前に正確な情報を伝えるよ。

王様と面会して魔物を倒すまでを私と警備隊長が説明した。

私が刺されてからの事は主にウォルト王太子が説明した。

ユキノ王女は顔を真っ赤にして、私は体を強張らせている。

王妃様は「あらあら」とか「まあまあ」とか言っていたが王様は無言で聞いていた。

ウォルト王太子の話が終わるとニィっと笑った王様が、

「タカシ君、命がけで王都を守ってくれてありがとう。心から感謝する。ウォルト、ユキノ、2人ともよくやった。賢者様からのタカシ君を守るように頼まれている王家としての務めをよく果たしてくれた。私は二人を誇りに思う。しかし一つ困ったことがあるなあ。わかるとは思うが年頃の王家の女性が緊急時とはいえ、男性に薬を口移しで飲ませたこと。つまり口づけをする形になったことだな。多くの者が見ているようだからな」

「やはり、ここは私が口移しをすればよかったのでは?」

「ウォルト、それは別の意味でまずいだろう」

「残念」

(おい、何だ残念って)

「そこでタカシ君、ユキノと婚約してくれないかな。いや、してもらう」

「え、」

「まあ。君もいろいろあるかもしれないがこの世界では一夫多妻だから問題ないよ。いやめでたい。ユキノもいいよな」

「ユキノ、幸せになりなさい」

「お父様、ありがとうございます。お母さま、私幸せになります。私、タカシさんのお嫁さんの一人として頑張ります」

あ、これってもう決定事項ということですか。

「まあ、結婚はユキノが大学まで卒業してからということでな。それまでは節度ある関係でな。発表は明日行う。王都を魔物から守った英雄と英雄を救った王女の婚約だ」

「はい、お父様」

「タカシ君」

「はい、陛下」

「私がタカシさんの義理の兄か」

ウォルト王太子にポンポンと肩をたたかれた。


「さて、もうひとつ報告があるようだな。犯人は何と言っている」

王様の顔つきが変わった。

警備隊長が書類を出して説明を始めた。

「そうか、やはり魔物もタカシ君への襲撃もボウリ伯爵か。これからも王都とタカシ君を狙ってくるね。早く元を絶たないといけないな。ボウリ領の領都の住民も大変のようだしな」

「王都からボウリ伯爵の領都まで250kmでしたよね」

「ああ、馬車で急いでも5日はかかる」

「ウォルト王太子、魔動自動車が運転できる衛士は何人いるかな」

最近、塩を作りに行ったとき頼まれて魔動自動車の運転の練習をさせていたんだよね。

私が何かで運転できなくなると困るからちょうどいいと思っていた。

運転できるようになった兵士が他の兵士に教えていたよね。

「そこは義兄さんと言って欲しかったけど。まあ、私以外に20人はいるよ」

「それでは元を絶ちに行きますか」

私は口角を上げて参戦を宣言した。

あれ、私はスローライフを目指すんじゃなかったかな?

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