第8話 山の塩

ウォルト王太子を助手席に、5人の護衛は後部座席に乗せて街道を北に走る。

10kmぐらい走ったところで横道に入りさらに2km進む。

魔動自動車は池の岸辺に出た。

北側に山があり山肌からは水が湧きだしている。

池のところどころに析出物もある。

鉱泉か。

水質を鑑定する。

水溶液に有効な鑑定だが詳しい成分までわかるのが便利だ。

さらに便利なのは地下1000mの深さに存在する水溶液も鑑定できる。

池の南東側にある草原の地下に昔の海の海水が封じ込められた層を見つけた。

ただ厄介なのは。

「天然ガスと石油か」

封じ込められている海水を大量に利用した時、天然ガスと石油がどのような影響を受けるか不安だ。

山の方から湧きだしている鉱泉には様々な成分が含まれているナトリウムイオンも塩素イオンもマグネシウムイオンも。


車の収納から瓶を出した20L用だ。

20瓶を並べる。

草原地下の塩水の塩素イオンとナトリウムイオン、池の水分子を材料にして飽和食塩水を作り瓶に入れる。

材料を指定して水溶液を作る魔法だ。

瓶に入る瞬間に水分子を池に戻す。

水分離の魔法だ。

その作業を高速で繰り返す。

約2分、20Lの瓶に20瓶にそれぞれ25kgの食塩が満たされた。

よし、500kgの食塩ができた。

純度100%。

試薬特級以上の純度の塩化ナトリウムだ。

容器の瓶を入れ替える。

入れ替えに4分。

1時間で20Lの瓶で200瓶、5tの塩化ナトリウムができた。

続いてミネラルの入った美味しい食塩を再現してみた。

10Lの瓶に13kg入った。

30分で100瓶、1.3tの美味しい食塩ができた。

最後に見本用に純粋な塩25kgと美味しい塩13kgを用意した。

今日運んできた瓶ではここまでか。

王都の戻り、王城に向かう。

まだ15時。

夕方の営業までには時間的にも少し余裕がある。

30分ぐらいで片付けたいな。

商業ギルドからもエコノさんと塩を鑑定できる職員が複数来ている。


「これはすごい。最高の純度の塩です」

「こちらは純度が低いがすごくいい味を出している。こんなに美味しい塩は初めてだ」

「満足していただけましたか」

「これなら大丈夫でしょう。こらなら今の相場なら純度が高い方が1kgの卸値15000円、美味しい方が1kgの卸値20000円というところでしょう。瓶代は別です」

「卸値は純度が高い方が1kgの600円、美味しい方が1kgの1000円にしましょう。ただし、国民には純度が高い方が1kgの1000円、美味しい方が1kgの卸値1500円で販売してください。販売は200g単位で、店が横流しや売り惜しみをしない対策をとってもらえますか。そうすれば明日は600tを卸してもいいですよ。25kg入りのの瓶24000瓶ですけど」

「そんな沢山の瓶を用意できないぞ」

「瓶はこちらで用意します。瓶は返してくださいね。壊した場合は1瓶5000円頂きます。純度の高い方を22000瓶、美味しい方を2000瓶にしますね。明日19時にお持ちしたいのですがどこに運べばいいでしょうか」

「練兵場に仮設の小屋を建てよう」

「明日も護衛の方をお願いします。将来的には現場に屋根のついた作業場所が欲しいのですが」


昨夜倉庫の魔道具を調べていたら瓶が20万瓶ずつ入った収納の魔道具が24個、いや24セットも見つけることができた。

他にも様々なものが種類ごとに入れられた収納の魔道具が180セットもあった。

師匠が魔道具作りを得意としていたというのは本当だったんだ。

まあ、それに関しては後程。

1Lの瓶20万瓶が入った収納の魔道具が3セット、5Lの瓶20万瓶が入った収納の魔道具が3セット、10Lの瓶20万瓶が入った収納の魔道具が5セット、20Lの瓶20万瓶が入った収納の魔道具が4セット、40Lの瓶20万瓶が入った収納の魔道具が3セット、100mLの瓶20万瓶が入った収納の魔道具が4セット、200mLの瓶20万瓶が入った収納の魔道具が4セットあった。

こんな多くの瓶を何に使うつもりだったのだろう。

師匠は特に小さい100mLや200mLは調味料でも作ろうと思ったなかな?


今日納入した純度の高い塩5t、美味しい塩1.3tの代金430万円を受け取って水屋に戻った。

代金は小判43枚だったよ。

見本の内、純粋な塩20kgと美味しい塩10kgは王宮に献上しました。


16時から夕方の営業。

在庫は

 1L  80瓶

 5L  60瓶

10L 220瓶

20L  20瓶

計  2980L

売り切れました。

ごめんなさい。

外の行列の整理と販売のお手伝いを学生さんたちがやってくれた。

いや、一人の学生に指示のもと、やらされていた。

指示してくれたのがユキノ王女だ。

先代の頃から水屋に入り浸りだったらしい。

他の手伝ってくれた学生さんたちとサイダーを楽しんでいる。


「ふーん、タカシさんも5日休んで2日営業というわけね」

「原則そういうことになりますね」

「明日も営業するのよね」

「ああ、少し忙しくなるけどね」

「もしかしたら父上に何かやらされているの。賢者様みたいに」

「うーん、これをね」

見本から少し抜いておいた美味しい塩を出した。

「塩・・・・・・この塩は味わいがある」

他の学生も味わって美味しいと感想を述べてくれた。

「タカシさんはいいですね。こんなおいしい塩を持っていて。最近うちのような貧乏貴族は塩気のない食事ばかりですよ。力が出ません」

「あら王宮も薄味よ。塩が高いもの」

「もうすぐ安くなりますよ」

「ということは、これ、タカシさんが作ったの」

「はい、王宮を通して商業ギルドに卸します。量も十分あります。ただ安くて多いのはこちらです」

「あ、こちらはしょっぱいだけね」

「早速、うちの者に伝えなくては」

急いで帰ろうとする学生さんたちに100gぐらい紙に包んだ美味しい塩を渡してあげた。

今の相場なら時価2500円相当だよ。

みんな喜んでくれた。

ユキノ王女には王宮に献上してあることを伝えたら嬉しそうに帰って行った。

明日も頑張りますか。


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