第7話 王様の依頼

「あの、跪いた方がいいのでしょうか」

「そのままで問題ないよ。楽にしてね」

「私が違う世界の人間だということは」

「賢者様からの手紙にあった。タカシ君、君がこの水屋を引き継いでくれるということを嬉しく思うよ。ここは王都でも大事な店だからね」

「はい」

「賢者様からの手紙では君がここを引き継いでくれるからよろしくとある。つまり私たちが君と君の秘密を守れということだな」

「あ、よろしくお願いします」

「大丈夫だよ。今までも賢者様の秘密を私と王太子で守ってきたのだから。しかしタカシ君の魔法が限定的で特殊なようだけど魔力はものすごく多いね。私も鑑定で多くの人を見てきたが今までで一番多いのが賢者様だ。その賢者様の20倍ぐらいあるよ」

「はい、そのようです」

「そこでタカシ君に依頼したいことがあるのだが」

「依頼ですか」

「かなり大事な内容だよ」

「はい」

「この国が内陸にあるのは知っているよね」

「はい」

「この国では塩が不足して困っているんだよ」

「塩ですか」

「そうなんだ。この国の塩は100%輸入に頼っている。その多くは隣国ソルト王国からなのだが昨年の嵐で塩田の多くが壊れ、さらに今年は大雨が続き残った塩田も使えず、海水をそのまま煮詰めて生産している。しかし雨で海水は薄まり、燃料の木材も湿り思うように生産できない。魔法使いに加熱してもらうとコストもとんでもなく高くなる。その魔法使いもすぐに魔力が切れてしまう。そういうことで生産量は減り価格も高騰、こちらにもその影響が出ているというわけなんだよ」

「この国では岩塩は産出されないのですか」

「賢者様にも指摘されて探したのだが駄目だった」

「他の国からは塩を輸入できないのですか?」

「カルテ王国からも輸入しているのだが理由をつけてこちらへの輸出を制限し、価格を引き上げてきている。ロクソ王国は岩塩を産出するのが直接この国に入るルートは魔物が多く危険で使えない。カルテ王国を経由すると法外な関税がかけられるというわけだ。カルテ王国の嫌がらせも一部の貴族と塩商人が行っているようだが王宮も彼らをうまく御することができないようだ。さらに我が国の中にもそれに便乗しようという貴族や商人が買い占めをしている」

「最悪ですね」

「何かいい知恵はないだろうか」

「そうですね。ないわけではないというところですが」

「おお、アクア国民1200万人を助けてくれ」

「1200万人ですか。そうすると1日60tは欲しいですね。月に1800tは欲しいですね。家畜にも必要か」

「昨年までの月輸入量が2400tだった。今は600tしかない。価格は10倍だ。まだまだ上がっている」

「やってみましょう。今までの塩の価格はいくらですか」

「1kgで1000円だよ」

「えー高い。それでは塩を2種類用意しようと思います。それをいくらで買い取るかは塩ができてから決めてください。いかがですか」

「わかった。しかしどうやって塩を作る。タカシ君が海に行くのか」

「ちょっと違いますね。昔海だったところに行って温泉を利用するというのがいいかな」

「そうか。こちらで手伝うことはあるかな」

「はい護衛をお願いします。それから塩を作る土地を貸してくださいね」

「わかったいつから始める」

「12時から13時に昼の営業を行いますから、13時に馬で護衛の方に来てもらえますか。私は魔導自動車で行きますから」

「おお、賢者様の魔動自動車か」

「それから外壁を通るための通行証明を欲しいのですが」

「王宮で通行可能な身分証明書を発行させて持たせよう」

「お願いします」


さて忙しくなる。

まず地図を見る。

食塩泉のが湧出しそうなところで近くに川があって、王都から20kmぐらいまでと。

あった。

王都の北12kmか。

それでは庭にある倉庫に行こうか。

あったあった。

魔動自動車。

師匠が使っていたらしい。

中には収納がある。

お、20Lの瓶が244瓶と10Lの瓶が124瓶も入っている。

出してみた中も汚れていない。

広口で問題なし。

あ、11時だ。

急いで美味しい水を用意しよう。

夕方の分も含めて準備しなくては。

朝の残りも含めて

 1L 100瓶

 5L 100瓶

10L 400瓶

20L  60瓶

計  5800L


1時間弱で約4900Lも美味しい水を創ってしまった。


「こんにちわ」

あれまだ開店前ですよ。

見ると3人のメイドさんと3人の近衛衛士がいた。

あ、このメイドさん朝も水を買いに来た人だ。

「王宮からお手伝いに来ました。13時からタカシ様は大事なお仕事があるということでお手伝いします。私たちが販売、近衛衛士の皆さんが行列の整理を担当します」

「あ、よろしくお願いします」

「朝の営業再開が知れ渡って、昼は大口が多いと思いますが大丈夫ですか?」

「朝より多い在庫を用意してあります」

「それなら1時間なら大丈夫ですね。時間で区切ってよろしいでしょうか」

「そうしましょう」


12時から13時は店が戦場と化した。

1時間が終わって売れて数は、

 1L  20瓶

 5L  40瓶

10L 180瓶

20L  40瓶

計  2820L


残りが

 1L  80瓶

 5L  60瓶

10L 220瓶

20L  20瓶

計  2980L


夕方の分は足りるかな。


「タカシ様、余韻に浸っているところ申し訳ありません。表でウォルト様がお待ちです。お早く」

「え、王太子様が」

「はい」


外に出るとキラっと効果音が出そうなイケメンがいた。

ウォルト王太子だ。

「僕も行くよ。魔動自動車の助手席に乗せてね」

「あ、はい」

「これ、身分証明書ね」

護衛は先程の3人と王太子についてきた2人か。

全員魔動自動車に乗れるな。

外壁の北門に護衛の馬を預けて目的地に向かって出発した。

夕方の営業まで3時間。

どのくらい塩を作れるかな。

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