第6話 お忍びの王様

「本日は美味しい水1L10円とさせていただきます」

開店時に外で待っているお客の数を見て値下げを決心した。

いや、お金の扱いをよくしただけだ。

1L  10円小銅貨1枚

5L  50円小銅貨5枚

10L 100円大銅貨1枚


1L15円だと鉄貨がじゃらじゃらとかお釣りとかは大変だよね。

1L10円なら使われるのは小銅貨か大銅貨になるよね。

銀貨が出てきたら困るかな。

あ、学生さんが鉄貨10枚で支払った。

空気読んでよ。


よく売れるのが10Lだった。

学生さんは革袋に1L買っていくんだね。

さっそく水を飲んだ学生さんが

「美味しい、なにこれ。賢者様の水より美味しいわ」

それを聞いた他の学生さんたちも飲み始めてちょっとした騒ぎになった。

「学生さんたち。早くいかないと学校に遅れるぞー」

行列の整理をしてくれているライトさんが購入を終えた学生さんたちを学校へ向かわせてくれたよ。

いや、水屋って行列ができる店だったのですね。

近所の皆さんが交代で行列の整理を協力してくれたお陰で何とか営業再開初日の朝の部を乗り切った。


売れた数は

 1L 162瓶

 5L  40瓶

10L 201瓶

20L  38瓶

計  3132L


瓶は20個売れた。

朝の部の売り上げ71320円。

瓶の売り上げも大きかったけど水だけでも31320円だった。


9時過ぎ、朝の部を終えてライトさんら行列の整理に協力してくださった皆さんを労う。

お金を渡そうとしたら断わられた。

昨晩、倉庫からイスとテーブルを少し出しておいた。

労うと言っても出せるのは水だけど。

「しかし、何度飲んでも美味しいな。賢者様の水以上だね」

「賢者様って先代の事ですか?」

「そうだ。知らなかったのか」

「はい、遠くにいましたので」

「水だけでなくいろいろと便利なものを作ってくださる賢者様だったのじゃよ」

「そうでしたか。あ、少し待っていてくださいね」

作るっていう言葉で思い出したよ。

作業場に行き、倉庫から出しておいた材料と容器を用意した。

少し変わった水溶液をつくる。

昨晩、創ってみたらできたものだ。

冷やしてコップに入れて店に戻った。


「お待たせしました。これを飲んでみてください」

「お、ありがとう。泡がでているな。シャンパンか?」

「いいえ、お酒ではありません」

「えー、甘くてしゅぱしゅぱして香りがいいわ」

「これは美味しい。この香りはりんごかな。酸味も程よい」

「ええ、まあ」

創ったのはサイダーもどき。

二酸化炭素とクエン酸とショ糖を何種類かの香料とともに美味しい水に溶け込ませて温度を下げた。

「これも売ったらいいじゃないか。と、言っても今に状況では無理か」

「ええ、まあ」


そんな時、入り口から一人の男性が入ってきた。

「お、エコノさんじゃないか」

「こんにちわ、ライトさん。彼が水屋の新しい店主ですか」

「あ、はい。初めまして、タカシと言います」

「初めまして、商業ギルトのエコノと言います」

「エコノさんですか。先代から手紙を預かっております」

「そうですか。拝見いたします」

師匠から預かった手紙をエコノさんに渡し、サイダーもどきを出す。

ライトさんたちは仕事があるということで帰って行った。


「お手紙を拝見いたしました。水屋の店主の交代の商業ギルドの方の手続きは私の方でやっておきましょう。ところでこの飲み物も売るのですか?」

「いいえ、今のところその余裕も予定もありません」

「わかりました。販売する時には商業ギルドへの届けが必要ですから私の方へご連絡ください。税金の問題などもまた後程説明させていただきます。おそらく無税ということになりそうですけど。水は1L10円に値下げされたという話を聞いたのですが」

「はい、その方が販売の時に楽ですので」

「確かに。その方が小銅貨と大銅貨だけを扱えばいいでしょうから。中には鉄貨や銀貨で支払う空気の読めないものも必ずいますが」

「そうですね。商業ギルドへは販売する物と金額だけを届ければいいのですか?」

「はい、それで結構です。今、水屋さんでは水1L10円、10L用の瓶2000円で販売していますね。情報はそれだけで結構です。試験販売は届けなくて結構ですよ。営業日や営業時間の届けも不要です。商売に関する事で何かありましたらご相談ください」

「はい、ありがとうございます」

「おや、次のお客が来ますね。私はこれで帰らせていただきます」

「はい、これからもよろしくお願いします」

その時、扉が開いて二人の男性が入ってきた。

一人はナイスミドル、もう一人もイケメンだ。

質素だが仕立てのいい服を着ているな。

「ウォータ様、ご無沙汰しています」

「エコノ殿か。邪魔したかな」

「いいえ、私は帰るところです」

「そうか、それなら商業ギルドの方の手続きは問題ないのだな」

「はい、お任せください。ではお先に失礼します」

「では頼むぞ。店主失礼した。私はウォータという」

「初めまして、タカシと言います。先代から手紙を預かっております」

ウォータ様に手紙を渡した。

エコノさんの雰囲気を見てもウォータ様が高貴な方だとわかる。

ウォータ様は隣の男性にも手紙を見せた。

そして、

「タカシ君、ようこそこの世界に。歓迎するよ。わたしはウォータ=アクア。この国で国王を務めておる」

流石に驚いた。

王様だったよ。

護衛も一人でせいぜい貴族かと思ったのだが。

「そして、こちらが王太子のウォルトじゃ」

「ウォルト=アクアです。タカシさんどうぞよろしく」

同行しているのも護衛でなくて王太子様だった。


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