第5話 本日営業再開

サオリさんが作ってくれた朝食を食べてから師匠のところへ行く。

今日はこの世界の事を教えてもらう。

政治の事、経済の事、安全情報、ご近所さんの事。

ここアクア王国王都ブルーは割と治安がいい国のようだ。

隣国との紛争もない。

貴族と平民がいる。

貴族には公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵がおり当主を女性でも務めることができる。

王都ブルーは王城を中心に貴族街がありその外は平民街だ。

平民街の外には高さ7mの外壁がそびえ、王都の60万人の住民を守っている。

平民街には住宅街と工房街と商業街がある。

水屋があるのは商業街1区の貴族街に近い場所だ。

近くには王都一の学校と言われる王立アクア学園や神殿がある。

王立アクア学園には優秀な子供なら身分に関係なく入学できる。

アクア学園の生徒もよく美味しい水を買いに来るそうだ。

この店には近くの住民だけではなく、貴族や王宮からも水を買いに来るということだ。

師匠は1日3000Lぐらいまでは美味しい水を用意できたらしい。

営業時間は朝7時から9時と昼12時から13時と16時から18時の5時間だそうだ。

「3000Lの瓶に入れた水をどこに置くのですか」

「それはこれだよ」

練習して書斎から作業場に案内された。

広さが60cm×60cmで厚さ20cmぐらいの箱のような物が2つある。

白い箱の方には4つのボタンが付いている。

そこには1、5、10、20と数字が書かれている。

「1のボタンを押してみなさい」

箱の上に1Lぐらいの容量の瓶が出てきた。

「これは収納と洗浄の魔道具だよ。店頭で空の瓶を収納してそれを洗浄保管してくれる。ここで容量を指定すればその容量の瓶が出てくる。美味しい水を1L入れてくれ」

魔法で瓶の中に1Lの美味しい水を入れた。

「それではこちらの青い箱の上に載せて赤いボタンを押してくれるかな」

ボタンを押したら瓶が消えた。

「これで水の入った瓶の収納場所に瓶が移動したのじゃ。それではもう一度1Lの空の瓶を用意してくれるかな。そして空のまま青い箱の上に置いて赤いボタンを押してみなさい」

今度は収納できなかった。

「適正な容器に適正な量が入っていないと収納できなくなっている」

空の1Lの瓶に美味しい水を入れると今度は収納できた。

師匠に言われるまま5L、10L、20Lの瓶にもにも水を入れ4種類の瓶を2瓶ずつを収納に入れた。

「この魔道具を持って魔力を込めなさい」

机の上にあるタブレットのようなものを示された。

タブレットのような魔道具に魔力を注ぎ込むと文字が現れた。


空の瓶

  1L  398瓶

  5L  498瓶

 10L 1245瓶

 20L  148瓶


水の入った瓶

  1L    2瓶

  5L    2瓶

 10L    2瓶

 20L    2瓶

   計   72L


「用意するのは1Lを100瓶と5Lを40瓶と10Lを200瓶と20Lを50瓶ぐらいで大丈夫かな。実際に準備するのは当日の朝と休み時間だね。朝は1Lを100瓶と5Lを40瓶と10Lを100瓶と20Lを30瓶ぐらいで残りを休み時間に行うのがいい。朝5時から2時間は忙しいぞ」

瓶に入った水を客が持ってきた瓶や魔法処理されている革袋の水筒に移して売るということだ。

容器がなければ瓶も売るという。

水は1Lで15円、瓶は10Lで2000円だそうだ。

水の入った10Lの瓶が2150円だ。


店の方にも行ってみる。

「そういえばこの照明は?」

「光の魔道具だよ。どの部屋も人がいれば点灯するようになっている」

店の窓は木の扉で閉められていた。

結構余裕がある広さだ。

喫茶店でもできそうだ。

カウンターの横には収納の魔道具があり、そこから水の入った瓶を取り出し作業場から持ってきた空の瓶に入れる練習を行った。

革袋にも漏斗を使っていれる。


「様になってきたな。これなら次の土日は営業できるだろう」


昼食を挟んで行った開店のための練習もひと段落した。

店や作業場を清掃してから書斎へ。

ここが私の世界への扉のある部屋だ。

他にもリビングとダイニングとキッチンと倉庫と寝室が3つ。

寝室には寝具もあった。

トイレと風呂もある。

「そうだ、カギになる腕輪は後2つそこの引き出しにあるからな。腕輪やペンダントをつけていなくてもつけている人と手を繋いでいれば転移して来れるから。それとそこの机にある手紙を見てごらん」

一通には「ウォータ殿」、もう一通には「商業ギルド エコノ殿」と書いてあった。

「その二人はここに来れば名乗るだろう。そしたらその手紙を渡しなさい。今日はこの後、両隣と向かいの3軒には5Lの水を持って挨拶に行った方がいい。そして次の土日、こちらでは2月13日14日からの営業を予告しておこう。2月13日営業再開だ。あとは任せて私は消えるよ」

「師匠、消えてしまうのですか」

「姿は見えないがこの書斎で頭の中で呼びかければ答えるよ。書斎の机の引き出しは君にしか開けられないから。こちらのお金もそこにいくらか入っているから使いなさい。それでは任せるからね」

師匠の姿は消えてしまった。


呆然としてしまったが確かに姿を見られるわけにはいかないよね。

師匠が死んでこの水屋を引き継いだのだから。


気を取り直して瓶に5Lの水を入れて挨拶回りに行った。

向かいの食堂の店主さんがライトさんだ。

何かあったら相談に乗ると言ってくれた。

他の4軒も親しみやすい人たちだった。

隣のおばさんが「賢者様が亡くなったのね」と呟いたのが気になったけど。

店の前には営業再開予告の掲示をした。

そして戸締りを確認して私の世界の屋敷に戻った。


1階に下りると私が戻ってきたのを見越したように玄関のチャイムが鳴った。

こちらでは魔法が使えないのにわかる。

サオリさんだ。

かすかに魔力を感じるようになったようだ。

扉を開けると案の定サオリさんがいた。

「夕食を一緒に食べるために来ました」

また彼女の手料理をごちそうになった。

「明日の朝からはマンションに戻って金曜日の夜にこちらに来るのですね」

「はい、その後、書斎に籠ることになると思います」

「頑張ってください」

「ありがとうございます」


月曜日の朝早くマンションに戻り出勤する。

同僚に師匠の遠戚や弁護士に呼ばれた理由を聞かれたがはぐらかせた。

屋敷がたまり場にでもなったら困るよね。

宴会に使われそうだ。

私的な研究を引き継ぐように頼まれたことにしたよ。

そして金曜日の夕方、屋敷に着いた。

玄関の前には手提げ袋に夕食と明日の朝食と昼食が入っていた。

サオリさんが置いていってくれたんだね。

そして一緒に一冊の本が入っていた。

水魔法を操る魔法使いの物語だ。

「読んでみてください。サオリ」

メモが入っていた。


夕食を終えて水屋の確認に行く。

『師匠』

頭の中で呼びかける。

『おお、明日は早いから寝坊しないようにな』

『はい』

『これからの予定も掲示しておきなさい』

『わかりました』


店の前に予定を掲示する。


営業予定日

2月13日14日

2月20日21日

2月27日28日

3月4日5日


「いよいよ明日営業再開だな。頑張れよ」

ライトさんに声を掛けられた。

「はいよろしくお願いします」



翌朝4時30分。

目が覚めてしまった。

サオリさんがくれた朝食を食べて朝5時、水屋への扉を開いた。

『師匠、おはようございます』

『おはよう。よろしくな』

『はい、がんばります』


作業場で水を創っていく。

材料の水は上水道、砂も十分にある。

倉庫には砂が1年分ぐらいあった。

軽快に創っていたら。


 1L 182瓶

 5L  80瓶

10L 218瓶

20L  68瓶


計  4122L


作り過ぎた。。。。。

仕方ない。

まだ6時だよ。


簡単に掃除してお釣りも用意した。

6時58分。

外に出た。

うわー、沢山の人が待っている。

100人ぐらいはいるよ。

「おはようございます。本日から水屋の営業を再開いたします。先代の店主同様よろしくお願いします」

拍手が起こった。

さあ、水屋の営業を再開します。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る