第2話
「いってきまーす!」
昼食の素麺を食べ終えた祐は、急いで家を飛び出した。
「たっくん、あんなに急いで、どうしたんかねぇ。」
「お友達と遊ぶそうですよ。昨日友達ができたって嬉しそうに話すもんですから、もう嬉しくて…。」
「あら、荒井さんとこもお孫さんが遊びに来たんかねぇ。何がともあれ、お友達が出来たなら嬉しいねぇ。」
祐が出かけた家の中ではそんな話がでていた。
息を切らしながら鳥居を抜けると、既に少女は来ていてブランコに揺られていたのだが、祐に気がつくとブランコを降り、こちらに駆け寄ってきた。
「ご飯食べるの早かったんだね!ごめん、遅くなっちゃった!」
「いいのよ、ついちょっと前に来たところだから。」
何をしようか、何をしよう、2人で話していると、あっ、と祐が声を上げた。
「そういや名前聞いてないや!ぼく祐。湊川祐!」
「祐くんね。私は麗子(れいこ)だよ。」
名は体をあらわすとはこの事なのだろうか。まさにピッタリな名前だと祐は思った。
自己紹介のあとは、この場所の事について話し合っていた。どうも、麗子も昨日たまたま見つけ、気になり進んでみると、そこに祐がいて驚いたらしい。
「小さな祠に木のブランコ、なにが目的で作られたのか分からないわね。祐くん、ちょっと見てまわろっか。」
そう声をかけてくれた麗子は足を進めた。祐はあわてて後を追った。
あれからどのくらい経ったのだろうか、生い茂った木々が太陽の光を遮ってくれているものの、太陽が真上にきているのだろう、歩き回って汗ばむくらいに気温は高くなっていた。
「おかしいね、他にも何かあっていいと思うんだけどな。」
探し回った結果、祠にブランコ、麓に繋がる道も鳥居の並ぶ階段以外に何も見つけることはできなかった。祠に何かが祀られているのだろうが何故こんな所に、ひとつだけぶら下がっているブランコ。ますます2人の謎は深まるばかりだった。
「もう少し奥も行きたいけどね。」
「山の中に入るのはやめておきましょう。迷子になったらきっと、帰ってこられないもの。」
2人は行きたくてうずうずしていたのだが、周りが同じような木ばかりで、帰り道の目印になるようなものがないこの場所では遭難することも考えられる。それが正しい、と2人は見て回ることを諦めブランコで遊んだり、だるまさんがころんだをして遊ぶことにした。
少し暑さも落ち着いた頃、2人は遊ぶのに夢中で帰らなければならない時間になっていた事に気が付いた。
「もう日が暮れる。ごめんね、私お母さんに早く帰ってくるように言われてたの忘れてた。先に帰るね。」
「明日も会える?」
「ごめんなさい、明日はお祭りの準備があるの。明後日なら大丈夫よ、またお昼にここで。」
「分かった、またね。」
走っていく麗子の後ろ姿をぼんやりと眺めながら、明日は宿題しなきゃな、明後日は何か遊べるもの持ってこようかなと、早くも明後日を待ちどうしくて仕方がなかった。
どこかで寺の鐘が鳴り、遅くなると怒られるな、と慌ててブランコを降りて祐も麓に降りていった。
ブランコはしばらく揺れながら、祐の後ろ姿を見送っていた。
蝉時雨響く今日この頃 @yu_ichi_go
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