終章
終章
二〇〇五年五月十八日、刑務官暴行事件を受け、参議院にて改正監獄法と刑事施設法案の一本化ともいえる「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律(後に刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律と改め)」が全会一致で可決成立した。
規律の緩和、外部交通の拡大、視察委員会の創設など画期的内容を含んではいるが、旧刑事施設法案の死刑確定者を(有益と認められる場合を除き)相互に接触させてはならない旨は第三十六条第三項で認められた。
また、死刑執行の記載も旧監獄法の条文とほぼ同じく、第百七十八、百七十九条に依然盛り込まれたままになっている。
そして二〇〇七年十二月、国連総会が採択した「死刑
日本における死刑確定者の総数は百二十三人(二〇一七年十二月十九日における数)。
窃盗を除いた一般刑法犯の認知件数は平成十四年をピークに徐々に下がってきており、行刑施設における収容率もそれに伴って平成十八年の百二パーセントを最後に過剰収容は収まってきているが、それを理由に死刑を廃止し、無期懲役へ推移するという是非が問われる事は無い。
対して名古屋拘置所は二〇〇七年十一月に千人を収容可能な東棟(新館)を増設し、冷暖房設備も整えたが、現在その新館の地下に処刑場が存在しているという。
今も拘置所地下では絞縄が密やかに鳴り響いている。
了
追記
二〇〇五年の刑法改正で有期刑の上限が十五年から三十年に引き上げられた。そのため無期懲役の仮釈放もおおよそ三十年が経過しないとその候補となる事が認められない風潮になっている。また仮釈放より前に長期服役が原因で所内で死亡するケースが多く、一種無期懲役は終身刑と同列に見なされる事が多い。その上、万一仮釈放が認められてもそれは飽くまでも仮であり、一生保護観察が付き、微罪を犯せばまた刑務所に戻される。
相対的終身刑と言われる所以である。
但し、国際連合総会で採択された「市民的および政治的権利に関する国際規約第二選択議定書(通称死刑廃止議定書)」の「本議定書の締約国の領域において、何人も死刑に処せられない。各締約国はその領域内における死刑廃止のため全ての必要な措置をとる」という条項に日本政府は国民世論と凶悪犯罪が後を絶たない現状から死刑は廃止しないと主張した上で、「仮釈放を認めない終身刑などの代替刑については一生拘禁されることにより受刑者の人格が破壊されるなど、刑事政策上問題の多い刑である」と絶対的終身刑においても否定的な立場を述べている。
また、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」では旧監獄法施行規則にあった二十四時間経過しないと施設から死刑囚の遺体は出られないとの条項は見られない。更に法務省矯正局は「最速で執行後一時間後に遺体を遺族へ返還出来る」とする返答をしているらしいが、残念ながらそれが実施された事はないようである。
ちなみにC型肝炎については現在「ハーボニー配合錠」という治療薬で完治出来るようになっている。また、生体肝移植に関しては、術前、レシピエントにリツキシマブ(リツキサン・免疫抑制剤)を投与する事により、血液型不適合の患者の手術成功例が高くなっている。
そして日本臓器移植ネットワークにおける臓器移植の登録希望者は心臓六百八十四人、肺三百二十五人、肝臓三百十三人、腎臓一万一千九百三十一人、膵臓二百六人、小腸三人となっており、対して移植件数は心臓二十二件、肺二十五件、肝臓十九件(肝腎同時移植は二件)、膵臓一件、(膵腎同時移植は十二件)、腎臓五十七件である。(JOT・二〇一八年登録データによる)。ドナーが絶対的に不足しているのが現状である。
参考文献
『元刑務官が明かす死刑はいかに執行されるか』坂本敏夫著 日本文芸社
『元刑務官が明かす刑務所のすべて』坂本敏夫著 日本文芸社
『脳死と臓器移植法』中島みち著 文春新書
『死刑囚の記録』加賀乙彦著 中公新書
『殺人と犯罪の深層心理』福島章著 講談社+α文庫
『失楽園』ジョン・ミルトン著 平井正穂訳 岩波文庫
『四つの署名』コナン・ドイル著 延原謙訳 新潮文庫
『聖書』新世界訳
『キーツの内部世界』本堂正夫著 北海道大学文学部紀要
『イギリス名詩選』平井正穂編 岩波文庫
『死よ墓より語れ―詩画集』ロバート・ブレア著 出口保夫訳 早稲田大学出版部
『ハウスマン全詩集』アルフレッド・エドワード・ハウスマン著 森山泰夫・川口昌男訳 沖積舎
『ロバート・バーンズ詩集』ロバート・バーンズ著 ロバート・バーンズ研究会編訳 国文社
他、インターネット等を参照にしました。
※作中の「めくら」という表現(本来ならば視覚障害者)は昔の罪状を説明する上で必要上敢えて使用しています。御了承下さい。
ヤコブの梯子 宮坂俊行 @clockworking
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