奈落の天界 Ⅱ

 

「喜多野主任代理、柴田所長がお呼びです」

 九月九日の午前九時、分類の神谷から未決囚の経歴についてこっそり相談を受けていた時に、見知らぬ看守から声が掛かった。

「所長が俺に?」

「はい、処遇部長もお待ちになられていますので速やかにお願い致します」

「名拘の二大重鎮が君を名指ししたって事はまた誰か逃走したかな」

 看守が消えると神谷は意地悪そうに片頬を上げた。

「冗談に聞こえませんよ、神谷主任。それでは至急らしいですから、半ばで申し訳ありませんが一旦失礼させて頂きます」

「ああ、その代わり暴力団組織の詳しい情報が入ったらまた頼むな。君のは局が金を捻出して掻き集めたものより正確だから分類調査会議に役立つ。ま、下へは小走りでいけよ。柴田所長は小型砂時計で時間を計る人らしいから、砂が落ち切ったら解雇クビかもしれんぞ」

 冗句を重ねる神谷を後に苦笑した直樹は閉じかけていたエレベーターへ飛び乗った。

 そこには面会に向かう未決らが奥に背を向けて立っており、その内の一人が身の丈のある影にうっかり首を捻った。

「こらッ! 五一二番、扉に向くな。面会させんぞ」

 と、同乗していた面会係の刑務官が違反を声高に叱った。

 廊下西側に設置された、中で仕切りのある大型エレベーターは収容者と刑務官が利用するのだが、搭乗にも規則が細かく定められている。雑居房では面会の収容者を纏めて一階に降ろすが、先にエレベーターを待つ者は待機帯で黙ったまま肩幅程度に足を開いて起立する。全員が揃ったら二列に並んでエレベーターに乗り込み、その際には壁に顔を向けて立ち、決してドアの方を覗き見てはならない。

 一階に着いて程なく、収容者は面会室のある北へ、直樹は南へ進んだ。

 そして木目が鮮やかな所長室の扉を二度ノックし、入室した。

「喜多野直之、只今参りました」

 正面に鎮座する頑丈そうな木製机にでんと腰を下ろしている柴田修へ直樹は敬礼した。

 向かって所長の左には村上が腕を後ろに組んで慄然と立っている。

「迅速にやってきたな。まあ楽にしたまえ」

 金無垢のロレックスで到着時間を確かめた柴田は、机上の保管箱から葉巻を取り出すとギロチンカッターで吸い口を作り、軸の長いシガーマッチで着火した。

 直樹は腕を下げ、足を半歩横に開き、初めて入室した名拘の所長室を一瞬で観察した。

 効き過ぎる冷房で締め切られた窓からは外の騒音は一切聞こえず、右へ目を遣れば本革製の応接セットが並べられ、ソファーの脇でエアコンの冷風に揺れるドラセナとストレリチアの葉が壁に立てかけてあるゴルフバッグを隠しているようにも見えた。

(そういえば前田矯正管区長のスコアはシングルだと誰かが喋ってたな)

 直樹は、管区長の随伴をし、ご機嫌取りする柴田を想像した。

「どうだ、少しやってみるかね。モンテクリストのナンバー4だ。かのチェ・ゲバラも愛飲していたハバナブランドだぞ」

 三つの金色桜花が厳めしい階級章を付けた柴田は弛んだ二重顎を揺らし、葉巻の保管箱を直樹に向けた。

 高級葉巻ブランド、モンテクリストはもともと大デュマの小説『モンテクリスト伯』から由来したもので、文中には脱獄も含まれており、その意味を知ってか、知らずか現代の拘置所長が美味そうにたしなんでいるのは皮肉であった。

 直樹は硬い表情のまま申し出を断った。

「勤務中なので結構です。第一、どなたよりお勧め頂いても私は煙草を吸いません」

「ははは、村上君が推挙するだけあって聞きしに勝る堅物だ。ところで、この間の確保は見事だった。あれで名拘は随分面目が立った。その礼を直接伝えておらんかったのでな」

 香ばしい紫煙を濛々もうもうと吐き出した柴田は灰を皿に軽く押し付けて落とすと、葉巻を口にくわえなおして右肘をアームレストへもたれさせた。

 直樹は奥の壁に掛かった「らしむべし知らしむべからず(人民はただ従わせればよく、理由を明らかにする必要はない)」との行刑らしい額飾りを目で追いつつ辟易した声で応対した。

「村上部長にも申し上げましたが、逮捕は当然の任務です。これ以上のお気遣は却って気詰まりです。それより何のお呼び立てでしょうか」

 自分は上官の面子の為に有沢を捕まえた訳でもないし、刑務官として適切な行いを果たしたまででわざわざ所長から礼を述べられるのは違うと感じていた。まして身から出た錆とはいえ、この事件では一人が降格、二人が辞職しているのである。胸を張って自慢もできず必然煩わしい口調になった。

「これ、所長に対し口が過ぎるぞ」

 村上は直樹の心中を察したが、相手は拘置所の最高位であるので、部下の非礼を窘めた。しかし柴田は怒りもせず愉快げに片笑んだ。

「いやいや、構わんよ、村上君。これくらい強固でなければ今から伝える特別任務は務まらん」

「特務!」

 時あれば転勤の深意を推考していた直樹は反射的に部長を見た。

 村上は独居担当こそが本来の配置だと話していた。独居房はいわば組員や幹部の溜まり場である。近年暴力団同士の抗争が激化し、行刑施設にもその影響が現れているというから、東海のあらゆる組織に精通していて、尚、収容者との間で私語が認められている自分は内偵的な使命を負わされるか、もしくはアドバイザーとして担当配属されるのではないかと思っていた。

 それがいよいよ明かされる時が来た。

 柴田は葉巻をガラス製のシガー灰皿へ一旦置くと気概に逸る直樹に命じた。

「眼鏡を取りたまえ、東君。さ、いいから取りなさい。これから余程必要なくなるだろう」

 直樹はこの時何故か急に的を外されたような胸騒ぎを覚えた。

 元々正体を隠すためのサングラスはこの男の指示であり、任務に要らないと言われれば余計意味が分からない。官舎以外常に着用していた直樹は心ならずも指図された通り素顔を晒した。

 その途端、柴田は身を乗り出し、獅子鼻の鼻翼を忙しく動かした。

「ほう、何と何と。いや、誠にたまげた」

「──私の顔がそんなに目新しいですか、所長」

 直樹は半歩下がって疎ましそうに瞼を少し下げた。

「おお、これはすまん。こう直に見ると意に違わず瓜二つだったのでな」

 椅子に座り直すと所長は厳として言い付けた。

「特務とは配置替えだ、東直樹主任代理。来週、九月十六日を以て九階正担当に任命する」

「く、クラウド・ナインの!」

 予想を遙かに超えた命令に直樹は思わずあの名称を叫んだ。

 再び葉巻を口にして、柴田は部長へ目線を送った。

「いやはや、『ゼロ番区』というのはもはや私ら年寄りだけの表現なのかね、村上君」

「各階より死刑囚を九階へ纏めてからのようです。東京も呼び方は変わっておりません。ここでは彼らの番号末に二桁のゼロが付きますからダブルゼロと揶揄やゆする職員もおりますが」

 名拘の死刑囚はおおよそ七階から九階にかけて分散して収容されていたのだが、数年前から九階へ一堂に集められていた。

「ならばいい。しかし、クラウド・ナインか。改めて聞いても死刑囚舎房には似つかわしくないハイカラな通称だ。それで東君、下命かめいは了解したかね」

 柴田は硬直していた直樹へ訊いた。

 直樹ははっと我に返り所長に詰め寄った。

「無理です。了解も何も──第一、私の身上書は既にご覧頂いているはずです」

「確かに総務部からメンシキも受け取っている。戸籍上、君があの竹之内嘉樹とだとも委細承知の上だ。その兄が東の家から扶桑會の竹之内家へ養子に入った事も全てな。何よりこれは私の一存でなく局直々の旨意しいでな」

 思い掛けない官命に固辞を求めた直樹は戸惑いを示した。行刑では収監されてきた者が顔見知りであった場合、接触させぬよう房の担当から外す「知己面識届ちきめんしきとどけ」という書類を提出せねばならない。

 その慣例を破り、担当に任ずる矯正局の意図が解せなかった。

 まして竹之内嘉樹は只の収容者ではなく執行を待つ死刑確定者なのである。

「納得の行く事由を教えて下さい、村上部長」

 直樹は不可解な眼差しで処遇部長を見た。そもそも直樹は以前嘉樹が起こした異なった傷害事件のせいで刑務官を辞めるよう一部の人間から遠回しの勧告をされた事があったが、免官させる権利がない上官は取り沙汰しなかった。しかし美浜事件だけは見逃す訳にはいかなかった。今度ばかりは直樹も辞職を覚悟したが所はマスコミに騒がれないよう勤務地を移しただけで事を済ませた。

 そのため事実上絶縁状態にあった竹之内嘉樹と東直樹は接点が無い赤の他人と判断されたのだろうとの噂が流れた。それから騒ぎは一旦収束したもののこうして再び美浜事件に巻き込まれようとは考えもしなかった。

 すると村上は左壁に据えてある本棚から黒い表紙で装丁された厚い単行本を抜き出し、直樹に手渡した。

『東拘エニグマ通信記録』の金字タイトルが微光に反射した。

「一昨年の忌まわしきベストセラーだ。君の事だ、しっかり読んだろう」

 直樹は記憶に新しい「東京拘置所暗号文書漏洩事件」について回想した。

 その本は東京拘置所の死刑囚が姉宛に送った手紙を綴ったものであったが、書面には墨塗りを免れるため巧妙に暗号が隠されており、死刑に臨む心情や仲間の具合、施設の内部構造や刑務官の行動までもが克明に盛り込まれていた。

 そしてくだんの手紙は通信記録としてルポ作家の手により解説刊行されてからは大反響を呼び、醜態を露呈した東拘の面子は丸潰れになった。

 ところが、事は威信だけに止まらなかった。

 通信記録には暴行や死亡事故と察せられる内容が実名入りで暴露されていたため内輪揉めを嫌う検察も調査に乗り出さないわけにはいかず、死亡帳から何人かの職員が芋蔓式に起訴される事態となり、その結果、芝井矯正局長は更迭こうてつされた。

 こうして一連の騒ぎはいったん沈静化したが、溝口新局長の体制の下、刑務官に対する徹底した管理教育の改善命令が出されたのは言うまでもなかった。

 村上は本を取り返して言い及んだ。

「溝口矯正局長は君も知っての通り、新任の挨拶で新行刑構造改革の具体案を打ち出した。今度の君の配置替えはその一環だ」

「一環?」

 一向に話が分からず眉を寄せる直樹へ村上は補説した。

「エニグマ通信では死刑囚への待遇の悪さが極端に問題視された。局長は、本省からの命もあって、国際的な人権団体からの批判を逸らすため差し当たり死刑囚の処遇改善を公約した。そして各施設へ、『死刑囚には所内規則を緩和し、信書・面会以外の希望を可能な限り取り入れるように』と密かに通達してきた。故に君を名拘へ転勤させたんだ」

「?」

「まだ思案に落ちないか。死刑囚の希望に沿う事、つまり君の舎房担当任用を求めたのは他でもない、実兄である竹之内嘉樹だよ」

「は!」

 毛筋ほどの想像も出来なかった事態に直樹は再度驚愕して固まった。

「さすがにその望みは立場上叶えかねると本人に伝えたんだが、そうしたら困った実力行使に出た」

「何をやらかしたんですか、奴は。まさか他の死刑囚を煽動して暴動でも?」

「いや、そうではない」と、ここで多量の煙を吐き出しながら柴田が竹之内嘉樹の名前と称呼番号が記載されている「保護房使用簿」を直樹に見せた。

 使用簿の「収容要件の自傷又は自殺のおそれ」に丸印が打ってあり、その隣の備考欄へ書き込まれている「ハンスト」の文字が視界に飛び込んできた。

「この通り不食願も出さず飯を食わなくなった。無理矢理鼻から栄養を注入しようとするんだが、その度にあの巨体で抵抗され警備隊も往生している。名刑の事件以降、革手錠の使用は制限されたし、保護房に入れたら尚更食事を取らない。栄養失調で病死されたら杜撰な管理だとまた世間から責められる。だから矯正局に君の異動を打診したら局長自らが了解を出した。今や竹之内は舎房の顔だ。彼が暴れては他の者の心情にも影響が出る」

 異動の真意を聞き、直樹は即座に全てを察知した。

 死刑確定者は、病気でなく刑の執行によって大人しく死んでもらわねばならない。

 拘置所は彼らの「心情安定」を金科玉条きんかぎょくじょうとしている。そのためには監獄法に掛からない程度の願いを聞き届け、穏やかな執行を迎えるよう仕向ける必要がある。

 溝口局長も死刑囚に事故や自殺が度々あってはこれからの栄達に係わる。

 新行刑構造改革とは崇高な標語だが帰する所、己の欲に過ぎない。以前、川瀬が「溝口局長の裏の顔」と口にしたのはこの事例を指していた。

 局長は法務省の下で改革の御旗を掲げながら何度も廃案に追い込まれた「刑事施設法案」の国会通過を虎視眈々と狙っているのである。

 刑施法とは監獄法の条項を明確にして受刑者の人権を取り上げる法律となじられるほど施設の長と職員に逆らえない内容が目白押しで、仮に立法化されれば絶対的な権力を持った行刑への訴訟はぐっと減り、管理は容易になり余計な支出も減る。

 また、法務省には「赤煉瓦組」と呼ばれる典型的な出世手順がある。

 普通、官房長から刑事局長を経て事務次官、そして東京高等検察庁検事長、最後に検事総長となる誰もが羨む栄光のコースとなっている。溝口は矯正に就く前は刑事局に勤めており、それも有能な参事官で通っていたので今度は名古屋か大阪の高検検事長、東京高等検察庁検事長を経て最終的に検事総長の椅子を狙うのだろう。

 以上が直樹と川瀬が看破していたシナリオであった。

 死刑囚の処遇改善も法案を通過させる前段階のアメで、直樹はアメ玉役に選ばれた。とどのつまり、そういう経緯いきさつらしい。

「とはいえ転勤したての君を、村上君が抜擢する者であっても、急に九階へ送り込むのは局長も私も躊躇ためらった。だから暫く雑居房に置き勤務状況を観ていた。そして我々は君の処遇における敏腕を買い今回の転換となった。どうだ、理解してくれたかね」

「──理解は致しましたが、どう応じてよいのか判りません」

「ふうむ、前例が無いからな。だが、君は国家公務員だ。どんな命であれ服属してもらうぞ。でなければ最悪、職をこの場で解かねばならん」

 所長は看守と看守部長の任免権を保有している。柴田は鼻息荒く赤く点った葉巻を向けた。解雇か拝命かの二者択一を迫られた直樹は腹を括った。

「畏まりました。不肖ながら来週火曜より九階へ参ります」

「うむ、結構だ。但し、この配置替えは呉々も内密にな。九階の元担当と、モニター室、警備隊、副担当、それに代務(交代担当)には私直々箝口令かんこうれいを敷いておいたし、君は今まで通り面会立ち会いは免除、出廷警備にも出なくて良い。夜間巡回も九階だけ、いわばじょうめだ。非常事態を除き担当舎房からは離れないでもらいたい。後は一般職員の夜勤巡回だが、九階へは口の堅そうな川瀬太と阿佐田啓一の二名を選出しておいた。今回は事情が事情なだけに男五人の少人数編成となる。君と副担当の鮫島たかし、代務の相馬公一、そして川瀬と阿佐田、これだけいれば夜勤も週一で済むだろう。直属の上司は私と村上君だ。君達の待機室は一般職員と接触しないよう別に設けておいた。身分帳もそこに移動してある」

「細心のお心遣い有り難うございます」

「まあ、これは当所のみに適された矯正局の指示でもあるんだがね」

 柴田は名古屋拘置所だけ死刑囚を一ヶ所に集中させるよう局から内命を受けているため、九階は現在空室の多い階になっているとも説明を足した。

「とにかく『双子の兄は死刑囚、弟は担当刑務官』なんてのは騒がしいワイドショーやゴシップ好きの週刊誌が喜んで食いつきそうなネタだ。油断無きよう厳重に注意してくれたまえ」

「はっ」

「それにしても、これだけ人生の明暗が分かれた一卵性も珍しかろうな」

 柴田はギロチンカッターを手で弄びながら丸い目を半分閉じた。

 直樹は明らかに憐憫を含む顔様かおざまへ「所長」と冷静に切り出した。

「私にもはや兄弟は存在しません。舎房に収まっているのは私の父を殺した憎き犯罪者です。ましてあの男は竹之内へと養子に入った身。国家公務員の私とあの不逞の輩とは一切関係ございません。故に口幅ったい事を申し上げますが、私と竹之内を兄弟扱いなさるのはこれきりにお願い致します。ですから無縁の立場を踏まえた上で一つ要望がございます」

 直樹は真率に条件を提示した。

「何かね」

「私は如何なる類の不正も嫌悪しております。ただ、面識ある者の、まして大組織のヤクザの担当ともなれば必ず根も葉もない噂が立ちます。いくら箝口令を敷かれても首席や統括はご存知なのでしょう。誹謗中傷に関与している暇はありませんので不当行為の噂は一切お聞き流し下さい。その保証をして頂かない限り特務の遂行は難しいと思います」

 柴田も今の地位に上がるまで似たような経験を幾度となく積んできた。少なくともそしられていたら所長職には就いていないのだから、もしかすると仲間を蹴落とした側かもしれない。だから余計噂の火元を発見するには聡く、信憑性の判別は容易だと考え直樹は念を押した。

「分かった。極力耳は塞いでおこう」

 にやりと柴田は頬を緩ませた。忌憚なく自分を値踏みしてきた刑務官は初めてであったが、こう明確に釘を刺されると却って清々しい。それに私に何かあると困るのは局と貴方ですよ、と言外に匂わせる駆け引きもあって頼もしくも感じた。

 直樹は次いで村上に視線を投げた。

「この任に当たってはもう一つ重要な問題が残されています。掃夫そうぷはどうするのですか。九階に収監されている者は無期懲役か死刑を裁判で争っている者、または死刑確定者です。彼らには面会の制限と信書の検閲で秘密は食い止められますが、雑役囚は一般確定区の者です。仮出獄の恩典を差し止めると脅した所で口止めは困難でしょう」

 拘置所には未決を収監する未決区と掃夫を収監する確定区があるが、品行方正な確定であっても興味ある逸話にはつい口を滑らせてしまうだろう。因みに掃夫(舎房衛生夫)とは雑用に従事する懲役囚(自所執行受刑者)を指す。多くは模範囚から選ばれ、刑務官の指図の下、収容者の食事の用意や配食など諸々を一手に引き受ける。また職員食堂の「官炊」も作っている。そのため掃夫は刑務官には欠かせない貴重な存在であり、彼らなしには拘置所の運営は成り立たない。

 不安を隠しきれない直樹に村上は顎髭をさすって笑った。

「並の掃夫では無理だろう。だが案ずるな。君にとって最良の者を選んであるし、彼らなら絶対約束は守る。いずれ紹介しよう。取り敢えず本日午後から九階の下見へ行ってくれ」


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