最終章・未来への祈り
十年後、僕と辰子と十歳の息子と六歳の娘と四人で墓参りをしていた。場所は、福山家の墓。二次会の終盤でほんの一瞬だけ僕たちの知っている良二が戻ってきて、祝いの言葉を告げて眠るように逝ってしまった。良二が本当に死んで、葬式が終わってすぐに、また辰子のおなかに子供ができたことを知ったとき、誰もが口々に言った。
「良二のやつ、すぐに生まれ変わったんじゃないか、卓真と辰子ちゃんの元に」
僕もその意見に賛成だった。辰子もそうだった。僕は、良二に対してできなかったことを、この子にしようと思った。
「でも、勇気は私たちの子供であって、良二君じゃないわ。それは忘れないでね」
辰子は今日も、そしてこれからも僕を支えて励まして、時には怒ってあきれることだろう。そして僕は、僕自身のためではなく、彼女と彼女との間にできた子供たちの幸せを守っていく。きっとそれが償いになる。そうだよね、良二。
僕と辰子がひとしきり墓の前で祈り終えると、最近食欲の増してきた息子の勇気が僕たちを急かしだした。
「ママ、パパ、帰りにココ壱寄ろうよ、ココ壱。カレー食べたい」
すると、娘の愛子も一緒になってはしゃぎだした。
「わたちもわたちも、甘ーいカレー」
「はいはい、それじゃあ早速行きましょう」
僕は辰子と子供たちのやりとりを見つめて微笑んだ。すると一陣の風が吹いた。
「忘れるなよ」
一瞬、良二の声が聞こえた気がした。
「どうしたのパパ」
勇気の声に振り返って笑顔で応え、子供たちとともに歩き出した。前へと。
――忘れやしないさ。そうなったら、本当に良二が死んでしまう。それに、俺の犯した罪は消えはしないのだから。けど、前に進む。それでいいんだよな、良二。
また風が吹いた。まるで別れを告げるように、優しく僕の髪をなでていった。
【完】
幸せと償い 虫塚新一 @htph8739mstk9614
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