しっとりひんやり
白羽 くれる
濡れたら全部関係ナイナイ!
「あーあ、結局決まんねーじゃん……」
「しょうがないでしょ? 皆全然意見出さないんだもん」
時間が無い事は皆分かっている。でも、課された問題が難題すぎる。結論なんて誰も出せない。
文化祭のクラス企画……企画自体は決まったのだが、なかなか許可が下りない。
その企画とは……
「湿度百パーセント! しっとりひんやり水鉄砲合戦!」
*
「ねえ、ちょっと! なんでクラスの意見は決まってるのに、まだ話し合いが続くわけ!?」
「いや……。これで先生に許可貰おうとしてるんだけど、全然許可がおりないんだよ……」
見るからにキツイ性格の女子達に文句を言われようが、どうにもできない。何か言い返す事すら、出来ない。
「流美? そろそろ妥協しないか? 間に合わなくなるのが一番まずいだろ?」
断られる事を分かっていながらも、俺は流美に提案してみた。
「そんなこと出来るわけ無いじゃん……。だってクラスのみんなに、この案で絶対通してみせるから、って言い切っちゃったんだよ!?」
「それは……。クラスの奴らに、やっぱ無理だった、って言えばいいだろ?」
「嫌です。私、負けと妥協は嫌だよ?」
まあ、こんな感じで諦めて考え直そうとする気配も無い。
しかし、クラス全員が水鉄砲合戦に賛成していた訳ではなかった。単に他に案が出なかった、それだけの理由で決まった企画だ。
みんな、クラスの出し物よりも自分が所属しているグループの発表が大事だ、そう言って休み時間の話し合いにもろくに参加せず。人がいない話し合いで案も出ず。そんなわけで、流美が提案した案。水鉄砲合戦しか案が出てこなくて、結果的にこれに決定してしまった。
それに、文化祭で行う水鉄砲合戦は暑くなってきたこの季節にはピッタリじゃん、とクラスのお調子者どもが盛り上げてきた。まともな人の気も知らずに……。
「…………。あ! 分かったぁ!」
「ん? 新しい企画か?!」
「違うよ! あのね、実践してみればいいんだよ!」
「…………は?」
恐らくこのまま流美に付き合っていれば、俺の平穏な優等生生活が幕を閉じてしまうだろう。
それから俺は、流美の無謀な計画に関わるのをやめてしまった。
さて、それから数日後の事だった。
一日の授業も終わり、部活も始まってきた時間。なにやら、教室の真上が騒がしい。
「まさか……な?」
そういえば流美の姿が先程から見えない。嫌な予感を胸に抱えながら、上の階に行くことにした。
「真上……ここだ」
ドンッ……バシャッ……ガッシャッ……ドンッ……バンッ……
ドアについた窓から流美の姿が見える。これでは、見て見ぬふりをして逃げ帰る事も出来ないではないか。まあ、先生がいい加減ストップをかけて下さるだろう。
「ど、どうですか!? 先生! 夏なのに清々しくひんやり出来るでしょう!?」
「確かにな……。でも……。まあ、いいか……。せいぜい頑張って下さい」
「え……。ということは……やったぁぁぁぁぁぁ!」
止めてくださらなかった。
え、まじですか。俺……どうなっても知らないよ?さすがに。
そろそろオチが、文化祭後の自分達が見えてきた。
それから、俺達は毎日準備と称して水を他クラスの前にこぼして来たりなどした。それ以外には、水鉄砲を大量購入して教室内で撃ち合ったりした。教室に水溜まりを作っても、自分達できちんと片付ければ、基本的に放任主義な先生は見逃していてくれた。
他には……。ああ、ルールも決めたな。ゲーム時間や対戦人数、それに得点等はみんなで決めた。しかし、その他のオプション的なルールのほとんどが流美が決めた為、どうなっているかは察してほしい。
*
更に十日が経ち、俺達は無事に文化祭を終えた。
お客さんの入りも上々で、それなりに評判も良かった。ただ、それも最初のうちだけだった。流美の作ったルールを誰も確認していなかったことが一番の後悔である。
そして……そして今。俺達は職員室の前にいる。
「本っっ当にすみませんでした!!!」
今まで見たなかで一番心のこもった土下座であった。
しっとりひんやり 白羽 くれる @shiraba_kureru
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