行動

 白い部屋が崩れ落ち、溶けると、目の周りが少し赤くなっている蒼生が立っていた。

 泣いていたようだ…。何で…?


「どうしたの?」


「何でもない…もう、何でも…。ルイと何を話していたの?」


 これを聞いたら気分が落ち込むのでは?大丈夫かな…。軽く話すか…。


「これは、とある無茶ぶりの話だよ。」


 出来るだけ軽く、軽く話した…が、蒼生は顔をずっと顰めている。


 やっぱりどれだけ軽く話そうとしたってこの世界の無茶は受け入れ難いのだろう、話している僕自身いまだに受け入れていない。どうすればいいんだか…。


「こんな所で立ち止まっていても…何も起こらないから…何か…私達が何か行動しないと…。」


 下を向いたままで、俯いたままで、耳を澄ませてやっと聞こえる程度の小さな声で独り言のように言った。


 突然、顰めていた顔をスッと上げて、真っ直ぐ僕の目を見て言った。


「ねえ…私達の存在の理由を探すのだったら、私達の存在の元である親の場所として考えられる、『家』に行くべきなんじゃ無いの?」


 さっき呟いた声とは全く違った、流石生徒会長様と思える、はっきりとした声だった為、僕は少し驚いてしまったが、同じ事をずっと考えていた。


 でも、正直『家』に行くのが怖かった。

 家族のいない家、両親も、二つ年下のいつもは鬱陶しい程煩く、チクリ魔の妹でさえいない、多分、とても静かな家…

 僕が、本当に別の世界へ逝ってしまったのだと実感してしまいそうで怖かった。

 行かなくてはいけないとは思うが、頭の中で自然とその選択肢を除外していた。


「國里さんは、…大丈夫なの?」

「ええ、大丈夫よ。何れにせよ、いつかは行かなくてはならなくなる事ぐらい、あなたも分かっていたでしょう?」

 きっぱりと言った。その声はしっかりとしていて、悩みなんて一つも無さそうだった。――本当に、何故彼女は自殺したんだろう…。


「ここからだと、多分あなたの家が近いと思うし、あなたの家から行きましょう。怖いかも知れないけれど、先に私の家に行ったとして、その後はあなたの家に行く事になるし、先に言っといた方が多分、気は楽だと思う…。」


「……うん。」


「早く行こう、私達の身体が腐るまで、余り時間はないと思うの…。急ぎましょう…」


 だんだんと彼女の声は小さくなっていった。最終的には殆ど聞き取れない…。


 多分、ここからは独り言なのだろうけれど、僕の手首を掴んでカラオケの一室から出ながら呟いた。

「…本当に…わ…の………った………って…忘れてしまったの……?」






 そうして僕達は静かな街へと再び出たのだった…。

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