ハイヒール
ハイヒールを履いたその女性は、黒いレースがふんわりと膨らんだスカートの裾や、袖口、飾りなどにふんだんにあしらわれた真っ黒な服を着ていた。
いわゆるゴスロリというものだろう。僕は初めて見た。
「誰?」とは聞いたものの、聞いたところで意味はないと分かっていた。
「私の話を聞いて……」
突然その女性は話し出した。
今よく見ると、黒と赤のしっかり引かれたアイラインでぱっちり開いた青いカラコンの目は涙で潤っていた。
可哀想だと思った。そして、興味を惹かれた。
蒼生も同じ気持ちらしく、
「どうぞ、話して聞かせてください。」
と、優しく言った。
女性は自分の考えを整理しながら言葉を口にした。
「私は、自分の意思で死んだのではないんです。世の中には、私のこの個性を気味悪がったり、怖がったり、分かってくれない人が多いのです。
私はあなた達が死ぬその時、駅のホームで人にぶつかって線路上に転落し、足を挫いてしまって……うずくまってしまって……動けなかったんです。でも、誰も助けてくれなかった……。電車がやってきて私の体を一瞬でスクラップにして行ったんです。
だから私には遺体が無いの。そろそろ私を死の世界へ連れて行ってくれる使いが来ると思う。
こんなくだらない話を聞いてくれてありがとう。私はこの話を聞いてもらいたかったの。ただのかまちょなの――」
ここまで女性が語ったところで、一人…いや、一匹の人の様な姿をした者が現れた。
「死の世界からやってきた
死の世界へ逝きましょう――」
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