第一章:少女と少年

交通事故

 僕はクラスでも全く目立たない。それによって陰湿ないじめを受けたこともあったような、そんな地味な高校生で、世に言う「リア充」とは間逆の人種で、二年になったというのに友達らしい人は一人もいなかった。

 地味なこと以外に、僕には悩みがあった。その悩みとは…

 一年生の時の春から冬まで、ほぼ一年間の記憶が全く無いのだ。まあ、だからと言って困っていることは無いのだが、自分にとって、とても大事なことを忘れている。これだけは分かるのだ。推測ではなく、確かなこととして。でも、これ以上思い出そうとすると何故だか涙が溢れ、止まらなくなるのだ。

 

 そんなことを考えているうちに家を出る時間になってしまった。慌てて着替えて準備を済ませ家を出る、いつもより遅くなってしまった。

「やばいやばい、乗り遅れる」などと言いながら自転車をこぎ、駅の近くの駐輪場にやや雑に止めると、いつもの電車に駆け込み乗車した。瞬間、サラリーマンの汗と香水と早朝のうんざりするような空気に包まれる。

 間に合った…。いつもの時間だ…。


 乗車駅の次にある橘駅で電車から降り、バスに乗るために横断歩道を渡る。早朝独特の白に近い露草色の空に車道の円い赤信号が何かの警告を僕に発するかのように光る。しかし、僕はそれには気付かない。そして僕はいつも通り、横断歩道を歩く。

 今日は、とても晴れた夏の日だというのに不思議と涼しかった。そんないつもとあまり変わらない日、僕は事故で死んだ。

 筈だった。


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