少女の独白

綿麻きぬ

プロローグ~第二日目

 プロローグ


 最初に書かせてもらうが、これが読まれてるってことは私はもう人間ではないのだろう。

そして、いきなりこの文章が目に入った君は驚くかも知れない。

だが、時間があるなら最後まで読んでいって欲しい。

途中、読んでられなくなるかもしれない。

それでも、読んでくれたら私は嬉しい。

私がちゃんとこの世界に存在したという戒めに。

前置きはこのぐらいにしとこう。


 僕が本屋の中で手にとった日記は凄く重厚で表紙はきれいな細工が施してあった。

なんで日記がここにあるのだろうか。

そんな事には気づかず、本屋のおじさんにこれを買いたいと伝えた。

すると、おじさんは少し寂しそうな嬉しそうな顔をして、

「君が手にとったんだね、お代はいらないよ、持っていきな。」

と言った。

家に帰る途中で開いてみると、その中には、今のような文章が書いてあった。



これはとある少女の独白と少年の交流の物語。





 第一日目


 最初だから、何を書けばいいのかわからない。

とりあえず、今思ってみることを書いてみることにする。

この世界は異常ではないか?

こう私は君たちに問いかけたい。

何を君は言ってるんだい?

そう君たちは私に問い返すだろう。

それは当たり前の反応であるはずだ。

ただ、私はそうとは思わない。

そもそも、正常とはなんだろう?

字面から読めば常に正しい、ということだろう。

辞書によると、変わったところや悪いところがなく普通であること、正しい状態であるさま、を指す。

めんどくさいだろうが、しばし付き合ってくれ。

では、普通や正しい状態ってなんだろう?

君たちはこう答えるだろう。

普通は普通だろ。

(もし、違う人がいたら申し訳ない。)

たしかにおっしゃる通りだ。

普通は普通だ。

でも、自分にとっての普通は他人にとっての普通ではないかもしれない。

まぁ、これは当たり前だろう。

そのズレをなおすために言葉があるのだから。

結論から言えば、どうやら世界はおかしくなくて私がおかしいらしい。

結論を急ぎすぎだ、と思うだろう。

聞いて欲しい。

まず、らしいと使ったのは私自身がそれを認めたくないからだ。

自分がおかしい、それは私にとって世界と違うことになる。

そんなことを認めたらまるで自分は異物ですと宣言してるようなものではないか。

どの生き物も社会も世界も異物は排除しようとする。

異物を排除しないものだってあるじゃないか、君たちはそう言うかもしれない。

だがどうやら私のいる世界は異物を排除する世界のようだ。

この表現は正しいかもしれないし、正しくないかもしれない。

正確に言えば異物を正常にし、できなかったら排除する、そういう世界だと思う。

そんななか、私は異物化し始めてるのだ。

それは、いつか正常になる可能性を秘めながらも、きっと排除されるのだろう。



 本屋からの帰り道、これはゆっくり、しっかり読まなければならないと思った。

そして、寝る前に僕はこれを読んで唖然とした。

今まで僕はこんなことを考えてきたことはあったのだろうか。

せいぜい自分に才能がないかもと思った時ぐらいじゃないか。

ましてや、それを文章にしたことはあるだろうが、いや、ないだろう。

今僕は考えてる、世界がおかしいのか、君がおかしいのか。

多分、僕には答えが出ないだろう。

きっと、君が言ってることは正しいのだろう。

なんか背負ってしまったみたいだ。

もう、寝よう。



 第二日目


 昨日飛ばした世界は異常だって話を付け加えたい。

なぜ異常なのか、それを話していなかったな。

この世界は正常じゃないものを排除する。

でも、正常とは社会によって違う。

その社会がいくつか集まって世界ができる。

その世界での正常は何個あるのだろうか。

不思議ではないか。

何個あったって大丈夫だよ、そんな意見もあるだろう。

しかし、たくさんあればどれかぶつかるものがある。

そしたらそれは正常じゃない。

もうその時点でパラドックスが生じている。

これは子供が書いてるものだ。

単純に前提が間違ってるかもしれないし、本当にあってるかもしれない。

君たちの思うように処理してくれ。

これは表向きの話だ。

実際は私を助けてくれない、救ってくれない世界に対しての反抗期だ。

実際に助けてと叫んでいるのに周りが騒がしくて届いてないかもしれない。

他の人が優先的に救われていて、後回しになっているのかもしれない。

しかし、現実はそうではないかもしれない。

そもそも、私が助けて欲しいと言ってないのかもしれないし、声が小さいのかもしれない。

又、さしのばされた手を振り払っているのかもしれない。

誰かがもうこの世界を救っているのに気づかないだけかもしれない。

それを自分のせいにしたくないだけだ。

きっと私は自分の凝り固まった殻の中でいつまでもいつまでも閉じ籠っているのだろう。

殻を破ればそこは殻の中から見ていた世界とは全く違う世界かもしれない。

まぁ、見ていた通りの世界かもしれないが。

しかし、殻は分厚く、硬い。

自分で破くのは怖いし、勇気がいる。

そして、意地もあるから自分ではもう破けない。

破こうと思えば破けるのだろう。

だが、それをしていればこんなにはなっていなかっただろう。

外から破いてもらうなんてことはないだろう。

昔は殻に籠ったときは誰かが否応なしに破ってくれた。

今はどうだろう。

誰も破ってくれやしない。

殻を破ろうとしてくれた人はいたが誰もが途中で諦める。

単純に私が破らせないだけなのだろう。

こうやって他人を試し、私の意思に関係なしに破ってくれる人を待っている。

そういう他人任せな部分が今の私を作ってるのだろう。



 僕は一つ君に声をかけたい。

僕は君のことをなんも知らない。

知ってることと言えばこの日記を書いてることだろう。

僕の考えは君にとってきっと浅はかであろう。

だが僕は伝えたい、ありきたりな言葉だけど。

君が思ってるよりももっともっと世界は美しいよってね。

僕はこの日記を1日に1日分だけ読むことにした。

この日記の持ち主がどんな人なのかじっくり読んでみたくなった。

基本、本を読まない部類の人間だが。

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