第17話(最終話) 広げる世界
あれから、チームサクラとチームシズクの差は、どれ程縮まったのか、それとも開いたのか? 僕達もチームナガレ戦をいい状態で迎えたい。勝つまではいかなくても、見せ場が欲しいものだ。そしてオーナーは、数人のコーチを雇ったとのこと。その一人が、チームサクラを期間限定で見てくれるという。
チームサクラがホープリーグではトップクラスと、認められた証拠でもある。大地と山川は、期待を隠せない。
「コーチって、どんな人だろうな」
「強いんだろ。コーチってぐらいだ」
と、大地。シオはそれに対し言う。
「コーチといっても、ただの教え上手かもよ。どちらにせよ、チームの強化になるか? ここが問題だ」
そして、僕達はトレーニングを続ける。しばらくすると、三十代くらいのおっさんがやって来る。新しく来たコーチとみていいだろう。
「えーと、俺はサトウだ。チームサクラのコーチをすることとなった。チーム力は見させてもらった。テツに見せたいものがある」
サクラさんが考え込む。
「サトウ? どっかで聞いた名前だね」
ここで山川はきっぱりと言う。
「サトウコーチは、元チームシロップのメンバーだった」
シオは別のところに興味を持つ。
「テツに見せたいってぐらいだ。元プロ選手の実力はどんなもんだ?」
「確かに、これは知りたい!」
と、大地も続ける。テツに見せたいとコーチは言ったが、呼ばれたのは僕だ。
サトウコーチは、僕に強力なパスを繰り出す。何だ? シズクのパス能力には驚いたが、元プロ選手の実力はケタが違う。僕のヘルシュートは稲妻と化す。今までで最高のインパクトだ。大地は動けない。
「すげー! 俺が全く動けなかった。ヘルシュートが凄いのではないぞ。秘密は、あのパスだろう」
テツはすごく驚いている。
「あれは、ワードさんの最高のパスじゃないか。これが消え去った選手の出来ることなのか?」
サトウコーチは首を振る。
「ワードのパスは、この程度ではない。俺はかつて、シロップの最高のシュートにつながるパスを模索した。二流のままで終わる選手ではないと信じて。ホシ、ワード、アロー、ヒカリ、ナゴム、クロキなど数々の名選手には、その選手の能力を引き出すパートナーがいた。つまり、俺はそこに辿り着けず、シロップの才能を破壊した」
コーチの登場で僕達が騒いでいる中、サクラさんはコーチに冷静に聞く。
「つまりコーチは、数々の名選手と対戦を繰り返し、最高のパスを模索した。しかし、そこには辿り着けなかった。そんな人のパスが手本となるのでしょうか?」
コーチはうなずきながら言う。
「そういうことだ。俺のパスは手本にはならない。まあ、張りぼてのチーム力の底上げぐらいにはなるがな。しかし、そんなことを教えに来たのではない。俺がかつてシロップに見たもの、それは俺のパスがヒントになる。俺はそのヒントを届けに来た」
そうか、ホシ選手の最強の連携の発動条件は、最高のパスだった。そのヒントが、パスに隠されているということだ。そこで、テツの鋭い質問がとんだ。
「サトウコーチのパスに、ヒントがあるとは思えない。確かに、今より成長するヒントは見せてもらった。よく考えれば、ホシ選手の相棒ナゴム選手が、最高のパスを諦めたことは、この世界では有名すぎる」
そこでサトウコーチは、見透かしたようにテツに答えを返す。
「テツ、お前はワードのようになりたいのか? 違うだろう。チームの核となりたいととっていいな?」
「出来るのか?」
とテツは驚いていた。
そして、チームシズク、チームナガレとの対決の前の猛特訓が始まる。やはり最高のパスを求め辿り着けなかった、サトウコーチの副産物の数々が、チームサクラを強化する。これがコーチの力なんだ。
「おい、サクラ。赤山のクセが出ている。お前は赤山とは違う。まず、そこを直せ。山川は、シロップのスタイルから調整する必要がある。シロップのスタイルは、パス待ちだ。しかし、チームメイトを信頼するあまり、失敗してきた。山川は自ら動くことも知れば、シロップ以上の選手になれる。だが、その動きは難しいぞ。大地は、シオのディフェンス能力に頼っているだけだ。もっとシオを使いこなせ!」
コーチは的確な指示を出していく。そして一生懸命な僕達は、テツが昔からの親友だったかのような錯覚を受ける。そうか! サトウコーチは、テツを馴染ませることも計算に入れていた。それは、サクラさんの選択肢を増やすことになる。
今までチームサクラは、サクラさんのゲームメイクに頼りすぎていた。しかし、このトレーニングにより、サクラさんは別の仕事も出来るようになったのだ。そして、サトウコーチはつぶやく。
「ホシ、お前はこうやって世界を広げてきたのだな。ヘルシュートとは『可能性の翼』。多くの少年少女を魅了し、このチームも例外ではない。じかにそう感じることが出来たよ。俺はシロップの才能をつぶした。しかし、俺はホシの可能性の翼の引き立て役になれたと、今自信を持って言えるよ」
そして、サトウコーチは次のホープリーグの所へと向かった。
大地は感心しながら言った。
「コーチの力って凄いんだな。二流選手で終わっても、サトウコーチは違う道を歩めている」
「さあ、それは試合で試させてもらうわ」
おっ、サクラさんはトレーニング効果を、早く結果として見たいという感じだ。シズクそしてカケルよ、僕達は前とは違うぞ。
チームシズクもこの間、何もしなかった訳ではないのだろう? 試させてもらうぜ。そして、チームシズクとの四十分間の試合が、始まろうとしていた。シズクが声をかけてくる。
「連携はまだ死んでいなかったか。どういうトレーニングを積んで来たかは知らないけど」
そして、カケルがシズクに注意する。
「俺のプロ入りがかかってんだ。シズク、冷静になれよ」
「解っている。弾みをつけるぞ!」
「おう!」
と、チームシズクは一丸となった。
さあ、試合開始だ。前とは違うのは、両チームとも同じだ。それぞれのスタイルは強化されており、試合は動かない。試合開始からまだ五分だ。カケルのスピードは凄いぞ。
連携はパスで強化されることが基本だ。しかし、カケルのドリブルはそれだけではない。それだけ連携値が高ければ、パスはいらない。連サカ本場のレベルの高さが伺える。
山川は、ピンチの場面でも戻らない。シロップ選手のスタイルを、そこまで気に入ったのか、山川。しかし、こちらの大地とシオの連携を突破出来るのか、カケルさんよう。えっ、本命はシズクか? カケル、まさかのバックパス。シオが機能しない。この戦略が、プロレベルではないというのか? ゼロ対一。シズクのシュートに、大地の腕は届かなかった。
シズクの表情は、何故か険しい。
「この一点はでかい」
と、シズクはつぶやく。
「もう通用しないってか?」
と、カケル。そして、ジュニアレベルでは高いやり取りが、繰り広げられる。得点はゼロ対一のままだ。シオと大地の連携は、林選手のスキル『意地』とは異なるが、強力な関係へとパワーアップする。大地は、シオへの指示を的確に出来るようになっている。
成長したサクラさんでも、チームシズク相手では自由に動けない。しかし、僕達はジュニアリーグ上位のチームと、互角に戦えているんだ! 試合時間の半分が過ぎていった。ヘルシュートで連携強化というトレーニングで、僕は自信を深めていたが、相手チームにスキがないぞ。
シュートチャンスがない。これでは、トレーニングを活かせてない。山川がドリブル突破を行う。チームシズクが、アタッカーの一人山川を警戒する。しかし、警戒したのはシュートとドリブル。山川は狙っていた。
ボールの行方はテツに託された。ここが山川とシロップ選手の違い。このトレーニングには、サトウコーチも力が入っていたんだ。テツには重いボールが届いている。その最高のパスは、更に重さを増す。
「いけー、ヘルシュート!」
これが最強の連携の再現だ。キーパーは動けず。一対一。同点だ。
しかし、シズクの読みは僕達の士気アップをも上回る。一瞬の出来事だ。僕達がゴールに酔いしれているスキをつかれた。ボールを持つのはカケル。誰もカケルに追い付けない。シオの動きが戻った。どうか間に合ってくれ!
大地は覚悟を決める。
「ちっ、コーチのアドバイスを無視しちまった。この責任はとる」
「それは無理だ」
と、カケルの気合いも凄い。どうなる? 意地と意地がぶつかる。どちらのスキルが強力なのか? サクラさんがいつの間にか戻っている。そしてその分、カケルのシュートの精度は低下する。しかし、強力すぎる! 一対二になる。
残り三分。だが、みんなの目は死んではいない。最後まで粘り続けたが、チームシズクを陥落出来なかった。決着は一対二で着いた。シズクがつぶやく。
「勝ったには勝ったが、チームサクラの成長スピードは異常だ。やはり、サクラとテツが機能していたということか」
「気が抜けねえ。この試合を踏み台にして、俺はプロのフィールドに立つ」
と、カケル。この対決で、サクラさんの成績は九十点に達した。
山川と大地が祝福する。
「キャプテンは来年からプロだぜ。凄い」
しかし、サクラさんは喜びを表には出さない。
「まだホープリーグでの仕事は、終わっていないの。私は、浮かれてチームに迷惑をかけるということはしないわ」
さすがキャプテンを任されるだけのことはある。僕達に時間が残されているといっても、今のうちに点数稼ぎをしておいた方がいいのは、当然だもんな。
チームナガレとの対決は近い。ナガレのパス能力と、万能タイプのサトシが怖いところ。二人とも成績は九十点をクリアしている。チームシズクとどっちが強いのだろうな。チームサクラは、テツを中心に連携が強化されていく。それに対しチームナガレは、マニュアル通りに戦う。安定感が生きるのは、格下だけだぜ。
カケルはサクラさんに声をかける。
「サクラ、来年からはプロとしてのライバルだぜ」
「望むところと言いたいけど、次の試合に集中したい」
と、サクラさんは答える。
「そういうことか」
と、シズク。どういうことだよ? テツが僕の腕を引っ張り、チームメイト達と距離を置く。
そこでテツは僕に言う。
「サクラさんは、次の試合でチームサクラとして最後だ。残しておきたいものがあるのだろう。全力でサクラさんに応えるぞ、シュウ」
「そういうことなら」
と、僕。そして、チームナガレとの対決の前に、最終チェックを行う。これでよし。気分良くサクラさんを送り出す。
チームナガレとの対決が近づく中、僕達チームサクラはオーナーに呼び出される。何事だろう? オーナーは、生徒達と会うことは滅多にない。サクラさんのプロ入りを祝う訳でもなさそうだ。
そんな時、シオが沈黙を破る。
「知っているよな。ホシ選手が、最近試合に出場することが減っている。コンディションの問題という説も覆された。出場した試合での活躍は凄い。それに、ユキ選手の出場機会も減っているぞ。そのため、ホラーさんとコウさんが結構活躍している」
山川もその話に乗る。
「関係があると? しかし、このままではアロー選手が得点王だ」
「それどころの問題かどうかは、オーナーの話次第かもね。どちらにせよ、大きな『何か』が生じている」
と、サクラさんも関係の可能性を否定しない。
集合場所は学校の教室の一つだ。何故、校長室とかではないのだろう? これも関係ありなのかもな。そして、オーナーは説明を始める。
「話というのは、チームナガレについてだ。ここならヤツらに気付かれない。実は、チームナガレのメンバー達は、ドーピング会社『ケンサイ』の社員であることに間違いない。チームナガレそしてケンサイの目的は、『未来砂漠計画』とみて間違いないだろう」
それに対して僕達が驚く中、大地がオーナーに質問する。
「ドーピングなんていいのかよ。そこまで解っていて、どうしてチームナガレを追放出来ない?」
テツが答える。
「ヤマトの国では、いやほとんどの国では、ドーピングゲームを罰する法律がない。悪いことと解ったとしても、それが覆るには数年を要するだろう。そしてドーピングは、ソフトとして今まで行われてきた。その代表格こそ、ゲーマーの『超人化』である」
サクラさんは、納得したように言う。
「超人化を否定されたら、ゲームソフト連携サッカーが否定されることとなるわけね。それで、もたついている。それよりオーナー、現状は?」
オーナーはうなずき、続きを話す。
「ケンサイが行っているドーピングソフトの内容は、トレーニング効果を前借りすることだ。本来あるトレーニングを想定し、その約八十パーセントを現在に上乗せすることだ。そして、その期間中どんなにトレーニングを積んでも、効果はゼロだ。そしてゼロになれば、他人の未来が欲しくなる」
「未来砂漠計画ということか……」
と、みんな。
オーナーの話によると、ヤマトの国で潰れかけた学校があるという。その学校はドーピングソフトを使用し、大きな成果をあげた。しかしそこに連携サッカーはなく、ただ今の自分を強化するだけだ。最初は、ソフトを使わない生徒を優等生と呼んでいた。しかしその優等生達は、点数を稼げず消えていったという。みんなが使えば、優等生達は自然と不利になる。
だが僕は、未来は彼らにこそあるのだと信じた。僕はオーナーに尋ねる。
「僕達の学校もそうなる可能性があると?」
「いや、問題はそこだけではないのだ。ホシ選手を中心に、九十九、八パーセントのブロックに成功した。しかし、それを維持することは、チームナゴムが試合放棄することへと繋がる。彼らが残した功績は大きく、失えば連サカのユメは消える」
「それがホシ選手がおかしい理由か。しかし、九十九、八パーセントのブロックは凄い」
そこで、サクラさんは考えるポーズをとって言う。
「確かに九十九、八パーセントという数字と、ホシ選手の対応力は凄すぎる。だけど、よく考えて。実際は0、二パーセント被害があったということなの」
僕も強く言う。
「ホシ選手の活躍が見られないのは嫌だ。可能性のツバサは、ツバサをもがれ連サカは衰退するぞ」
そこでオーナーは、ゲームハードへアクセスする。
「これを見てくれ。チームナガレが、この学校で何をなそうとしているか。『今が無ければ未来も無い』と、ドーピングソフトを売りさばいている。百パーセントのブロックに成功するも、興味を持った生徒もいる。コン王国は、当然金も欲しい。ヤマトの国程度では、完全には拒否できないのだ」
僕は重要な部分を問う。
「解決法はないのか? 僕達学生レベルでどうこう出来る問題ではないぞ」
オーナーは答える。
「そのあたりは、ユキ選手にも相談している。学生レベルという意味では、チームナガレも同じ条件だ。大きな問題の一つに、資金不足があげられるだろう。私は連サカ製作に、三億円の支援をしている。はっきり言って、これ以上は厳しい。プロリーグの大きな成長が必要ということだ。チームサクラとチームナガレ戦では、とりあえず五十万円規模のプロモーションを組んでおいた。大規模に宣伝し、未来砂漠化は必要ないとアピールするというのが目的だ」
テツは驚く。
「学生の試合に五十万円規模だと! 俺達がいい試合をしなければ、凄い損害だ。更に、注目を集めるということは、逆の効果もあり得る、チームサクラのプレー内容次第か」
「責任重大ね」
「望むところだ」
キャプテンの言葉に、みんなは気合いを入れる。僕達は、まだ大したことは出来ないが、未来があることを示すのだ。
小さなことだけど、その積み重ねが大きな山となると信じて……。僕は、ホシさんのようなプロ選手になることがユメだ。テツと共にね。サクラさんは、プロ入りが決まっているのに、燃えている。ああいう選手もいいかもな。
決戦は近い。それまで、それぞれ異なる調整を行った。さあ、試合開始まであと一時間だ。何時もより遥かにギャラリーが多い。そして、そのギャラリー達の目的が遂に登場する。
「おー」
「初めて生で見る!」
と、会場から声があがる。そして、オーナーが実況席に座る。
「えーと、私がオーナーですが、今日は実況を担当します。ワード選手とユキ選手、サービスで解説担当ありがとうございます」
オーナーが実況かよ。ケチるなよ。それにしても、トップクラスの選手のワードさんとユキさんが解説とは凄い。まあ、連サカという競技はそれほど有名ではないけど。
ナガレがつぶやく。
「マニュアルという指導。実に素晴らしかった。俺達が活躍すれば、上層部も認めるだろう。プロリーグで浸食しもチームナゴムも粉砕する。未来は、今ここにあるということだ」
「ああ、ケンサイのドーピングソフトを売りさばき、俺達だけの未来を作る」
と、サトシが言う。
サクラさんは、適当にさばく。
「未来を作るのが今。未来が今を作る訳ではないということ」
「言ってろ!」
と、チームナガレは流す。ここで、ワードさんが何か言うぞ。
「この学校は、連携を教えていないのか? 両チームとも大した連携値ではない。学生レベルと見てもだ。身体能力はあるかも知れないが、プロということを考えると厳しい」
オーナーは聞き返す。
「プログラムには連携は入っています。足りないところがある、ということでしょうか? うちのトップクラスの選手なのですが、サクラ選手の印象は?」
ワードさんは決意の目をして言う。
「学校トップクラスであれっていうのは、どうかと思う。しかし、新人の中では平均レベル。このクラスの選手の年俸は、四十万円がいいところだろう。普通に考えて、それだけで飯を食っていくのは無理だ。俺達トップクラスですら、一千万円から二千万円に過ぎない。俺達が連サカを盛り上げ、このクラスの選手でもやっていけるようにしたい」
「そうだねえ」
と、適当にうなずくユキさん。
ここでオーナーが告げる。
「いよいよ試合開始です」
そろそろか。チームナガレの実力はどんなものだ? うわさでは凄く強いらしいが、対決してみないと本当のところは解らない。とにかく、五十分間暴れてやる。こっちのボールからだな。僕はドリブルで駆け上がった。山川と同じドリブラー。ナガレとサトシを避けて、奇襲をかける。一人、二人とドリブル突破。チームナガレなど大したチームではないさ。いけー、ヘルシュート! ボールはゴールへ吸い込まれる。一対ゼロ。
ワードさんは一言。
「ノーマルゴールだ」
「どういうことでしょうか?」
と、オーナー。かわりにユキさんが答えた。
「ワードが言いたかったのは、連携のない普通の一点ってこと。チームメイトとの関係がいまいちだわ」
「なるほど。つまり一点の価値は大きい。しかし、チームサクラのモチベーションが上がらない。ごく普通のシュートということですね」
「うむ」
オーナーとワードさんのやりとりだ。やはり僕は、ホシさんにはなれないのか。しかし、最後の時まであがいてやる。
十分が経過した。試合は一対ゼロのまま、ほぼ互角の勝負が繰り広げられている。ワードさんは、あくびをしながら言う。
「シュウ選手だっけ。あれは、ただホシに憧れているだけの選手だ。ホシとはタイプが違う。ドリブル突破を、無理に狙うタイプでもない。ヘルシュートも形だけだ。ホシは、孤独からあのスタイルを獲得した。シュウ選手は違うだろう」
ユキさんも続ける。
「ホシみたいになりたいのは解るけど、無謀なドリブル突破を可能にしたのは、シュウ選手ではなくホシの才能なんだよ。シュウ選手からは違うプレーが見たいね」
くっ。やはり僕は才能がないんだ。山川もいくが、サトシを突破出来ない。
大地が叫ぶ。
「シオー、止めろ!」
シオは、ナガレからサトシへのパスのカットに成功した。試合は、まだ大きくは動かない。両チームにチャンスがある。連携が高まったところで、テツは絶妙なパスを僕にくれる。ヘルシュートよ、いかずちになれ!
しかし、相手キーパーはこれを弾く。追加点にはならなかった。ワードさんは解説する。
「サクラ選手は、赤山の執念を受け継いでいる。これは、マニュアルだけで出来ることではない。理由は知らないが、赤山のしぶとさには苦い思い出があるぜ。それよりも、チームサクラにはいいところがない。何故なら、テツ選手が足を引っ張っている。俺のスタイルだが、俺ではない。実力はあるのに、かつてのホシのようだ。ぼっちで連携値が低い。そういう選手は、能力があっても俺なら捨てるね」
ユキさんも続いて解説する。
「テツ選手のパスルートが、シュウ選手に偏っているのが、チームナガレにバレバレだよ」
「うーむ、勉強になります」
と、オーナーが感心して言う。今度は、大切な友人テツを見捨てろだと。ノーマルシュートだと。普通のゴールシーンだと。プロモーションの効果出来ない注目が集まっているのに、僕は力不足を嘆くことしか出来ない。
二十分経過。ここで、チームナガレの動きが大きく変化する。来るぞ!
「マニュアルの恐ろしさを知るがいい」
と、ナガレが言う。ドーピングを使ってやがる。何時か後悔することになるさ。手本としていた選手のバックアップデータを、ドーピングソフトに入力しやがった。こんなもの認めてたまるかよ。認めようが認めなかろうが、チームナガレは強化される。
「へえ」
「うん」
と、解説の二人。一点追加される。
「まだまだ」
と、大地。もう一点追加される。
「まだだ」
しかし、一対三。残り二十分。これはやばい。大地が叫ぶ。
「テツのせいだからな」
山川とシオは、大地をなだめる。サクラさんは言う。
「自分の仕事を忘れないこと」
そうだ。二点差ぐらいひっくり返してやる!
しかし、どうする? テツのパスコースは塞がれた。僕にはホシさんほどのドリブルの才能がないことも、明らかになった。でも、憧れのスタイルなんだよ! 『他の選手を見なよ』というユキさんのビデオを思い出す。テツは強い。しかし、それだけのぼっちだ。何かないのか?
オーナーが実況を忘れて言う。
「これはいかん。シュウに迷いが出て、プレーが悪化した」
「そうだね」
とシオ解説の二人も同感する。どうしろってんだよ。みんなの言う通り、テツを捨てるしかないのかよ。僕はドリブル突破を試みる。体勢が崩れる。そこで僕は、ボールを山川へと戻し、連携を維持する。なんと言っても、サトシさんが中心でなくては。
残り十五分。誰だよ、辛口の解説呼んだのは? それとも、僕達が甘すぎたか? だから勝てないのか? 僕は再びドリブル突破を図る。いくぜ! いや、やはりテツの連携値を信じよう。ワードの意味不明な解説が入った。
「これは、ノーマルゴールではない。ホシと同じタイプの効果を、違う手段でやり遂げやがった。シュウ選手は覚醒した」
「ゴールって、まだ全然シュート体勢にも入っていません」
と、オーナーは驚く。
いくぜ、テツ。僕はホシ選手のスタイルを改良したんだ。本当は違うことは解っている。だけど、今だけはそう思わせて欲しい。何故なら、憧れのスタイルに傷をつけたから。僕は、ドリブルとパスを使い分ける万能タイプへとシフトした。悔しい。このスタイルは絶対だったのだ。そして、今までで最高のテツのパスが来る。これを決めなければ、このスタイルにした意味がない。
「いけー、ヘルシュート!」
これをサトシがブロック。しかし、カバーが間に合わない。山川のシュートが決まる。これでは二対三だ。
これなら、まだチャンスはある。僕は、連携のためにユメを捨てたんだ。ユキさんは少し鼻声で解説する。
「ねえ、シュウ選手。周りを見てよ。ホシは、ドリブル突破にこだわっていた訳じゃないんだよ。誰もいなかったから、ホシはドリブルに固執するようになった。キミは違うでしょう。ホシの『体の傷』のひとかけらを見せてもらったよ」
チームメイト達は、みんな笑顔だった。連携が機能した。ホシさんとアローさんが、かつてすごく『欲しかった』ものだ。それは、連携という名の親友達。僕は、何時でも手に入れることが出来たんだ。初めから持っていたんだ。
それは、後にホシさんとアローさんが『手に入れた』ものより、小さいかも知れない。だけど、僕はそれを武器にホシさんと同じ世界を見る、みんなと一緒になって。ユメとわの戦い再び……。ホシさんに何時かは僕達は挑んでやる!
ワードさんがつぶやく。
「チームサクラの士気が上がっている。テツ選手の連携値が、かつてのアローとように広がっていく」
決まれー、ヘルシュート! 三対三に追いついた。残りは三分だ。次の一点で勝敗は決まる。
「いきましよう!」
「おー」
とサクラさんが号令をかけ、僕達はそれに応える。
ナガレがつぶやく。
「データ管理システム・スターは、まだここにある。ドーピング会社『ケンサイ』の技術は、世界を再び利用する。この試合がどうなろうと、俺達の理想は死なない!」
驚異の粘りを見せるチームナガレ。彼らを支えているものは何だ? ただのドーピングかよ。それとも金かよ。自由かよ。そんなもの、貴様らから取り上げてやる。
スターのデータは、完全ではないが残された。受け継がれた。それが、僕達ホープリーグ選手だ。根っこは、チームナガレも僕達と同じ。だけど、未来は大切なもの。今が切り開けたとしても、そこに『よろこび』はあるかい? テツが叫ぶ。
「全員で、攻めろー! ドローの必要はない」
あのテツが、連携値が低いなりにパスを繰り返す。最後のチャンスだ。
「いけー、ヘルシュート!」
と、サトシさん以外のみんなが叫ぶ。しかし、ゴールはならず。キーパーがキャッチした。結局、三対三でドローだ。
「十分に未来を見せることは出来ただろう」
と、オーナー。サクラさんも叫んでくれれば、ゴールだったような気がする。まあいい。
あれから、チームナガレの人気は上昇した。僕達の人気も同じく上昇した。決着はプロになってから、ってことだな。ドーピングソフトの脅威は変わらない。だけど、未来を支援してくれる人々は増えた。
テツが話しかけて来る。
「何をやっている?」
「何していようがいいだろ」
と僕。テツは語る。
「俺は、ぼっちスターのデータのかけらだった。俺は孤独を感じなかった。だから、スターに成れなかった。次は何処へ向かう、親友?」
「僕は、テツをぼっちにできなかったよ。だから、行き先は二人で決めよう」
それが、ヘルシュートの広げた可能性のツバサ。 (完)
ユメわわわわ 大槻有哉 @yuyaotsuki
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