第13話 忘れゆく日々

疲れたー。少し休養が必要だな。そして二週間が経過した……。アローは、チームナゴムより先に彼らが、第二、第三形態のスターを倒すと言っていた。その方が僕も気楽だ。

しかし、アローの連携は僕達に毛が生えた程度だぞ。チームアローがそんなに強くなった訳じゃない。アロー達が敗れることも想定して、僕達もコンディションを整えている。

ナゴムの力は解放された。これで、第三形態のチームスターに勝てるだろうか? 恐らく無理だと思う。しかし、やるしかないだろう。つーか、アロー頑張れ! いけ、チームアロー。連携を手にしたチームアローは、僕達より多分強い。いってくれよ。

僕達は、いつも通り試合と練習を繰り返す。時は過ぎていく。チームナゴムの最近の勝率は。九割後半だ。僕達の初期の成績を思い出す。僕はスタメンでさえなかったんだよな。

この仲間達と何時までいられるのだろう? いつか別れの時は来るんだろうな。僕はいつかまた、ぼっちになるんだ。それでも今を心に焼き付けたい。

ユキが声をかけてくる。

「なーに暗い顔してんの、ホシ? わたしは何時もホシを応援しているよ」

「何だ、ユキか」

僕とユキはとりとめもない話をする。いつかこれにも終わりは来るんだな……。僕は今がきっと人生で最も輝いている。大切な思い出になるよ。

「そう言えば、アローがスターにもうすぐ挑むよな。俺達は特等席らしい。もしアローが勝利したなら、再びアローを倒さないと、最強のチームとは言いづらいな」

「そんなことはどうでもいいさ」

ナゴムはやっぱり連サカバカだな。青山はこう言っているけど、結構こだわるぜ。僕の出番がないなら、今のうちに最強シュートを放っておきたいよな。

そして、チームアローと第二形態のチームスターの試合当日になった。

「俺達は、まず第二形態のスターに完勝する。チームナゴムにはいつかリベンジするからな」

「年上のヤツにあまり指図すんなよ、アロー」

「俺はキャプテンだ」

アローとチームメイトの会話。アローもあまり変わっていないな。とにかくチームアローに頑張って貰おうか。

その時、スターが僕に話しかけて来る。

「やあ、まずホシに話があるんだ。キミは僕と同じような存在だ。ゲームの中で一生を終えよう。ホシは僕を超える天才だ。データを共に作っていこう」

「何だと?」

いきなりかよ。しかも、意識がスターにはある。一度死んだ人間のはず。体はなくても、データから人格を復活させたか。

コン王国の技術は凄い。

「ダメだよ、主スターよ。ホシはわたしが守る!」

とユキが叫ぶ。

「ユキ、キミは解っていないな。現実世界はそんなに甘くない。ぼっちに居場所なんて現実にはないんだよ。ホシそしてアロー、君達二人は痛いほど解っているだろう。僕達三人は、現実では生きられない生き物なのさ。僕はそれでも幸せだった。連サカは、ユメの塊だよ」

スターは、実に正しいことを言った。その通りだよ。アローも頷いている。

「ループの世界なんて認めない。コン王国の目的も許せない。データを消してきた過去もだよ。現実でもホシはやっていける。わたしが何とかする!」

「どうやってだい? 今気軽に会えるのは、ゲームの世界だからだよ。ゲームを維持するのに、どれだけの資金がいると思う?」

「くっ」

スターによって、ユキは黙らされてしまった。どういう展開だ。ここで試合だよね。余計な話をしている場合なのか。

アロー達は準備運動を始めた。

「目的は何だ、スター?」

「もちろん連携だよ。どんな強靭な肉体も才能も限界がある。当然、連携にもあるさ。しかし、連携の形は無数にあるのさ。上限も高い。僕は連サカを愛し続けるよ。憧れの選手達……。肉体もテクニックも大したことのないチームが、凄い連携で優れた能力を持つチームを倒していく。凄い連携と連携がぶつかる。ドラマが生まれる。連サカは最高のユメだ。ホシなら、それを超えることが出来る」

「解るぞ、スター。でも僕達は、いや、僕は現実から逃げない。現実でも、連携が存在すると信じる。今僕が持っている連携の輪は、現実でも残るんだ。連サカはユメの塊だ。だからこそ、卑怯な武器に使われたり、データを消して人生をリセットしたり、ユキの心を乱すことが許せない。ユキは大切な仲間だ」

スターの言葉に、僕は今の気持ちをそのまま吐き出した。

ナゴム達は言う。

「よく言ったぞ、ホシ」

「なら、全力で相手をしよう。僕、スターはホシが納得するまで勝ち続ける」

「望むところだ!」

スターの言葉にみんなが応える。

アローが気合いを入れている。

「倒すのは俺達だ。前座は黙っていろ!」

「アロー、キミも解っては繰れないか。見込みはあると思っていただけに残念だよ」

「ケリをつけようぜ」

スターとアローが火花を散らす。

チームスターはパワーアップする。つまり第二形態。何が変わったか解らないが、アロー頑張れ。試合開始。ここからは五十分間の試合だ。アローは、連携をここぞという時にしか使わない。中途半端な連携なら、何時も正しいとは限らないからだ。アローも頭を使ってくる。成長しているんだ。

チームアローは、やはりアローが中心だな。早速ゴールを決めた。一対ゼロ。だがパワーアップしたチームスターは、惨敗の前回とは違う。動きも連携もいい。しかしアローは、もう一発決める。

これで二対ゼロ。

「油断するなよ。みんなで勝つんだ。最強俺だがな」

と、アローはチームメイトを鼓舞する。チームスターの反撃が遂に始まる。

アローが抜かれた。残るメンバーは頼りない。一人、二人と抜かれた。凄いスピードで戻るアローも間に合わない。一点返されたな。二対一。

それで少し解らなくなってきたぞ。どうなる? 僕の心配をよそに、アローは連携を発動する。しかし、メンバーのボールがチームスターに奪われる。だがアローはすぐに取り返す。そして、ミドルシュート! チームアローが突き放す。三対一だ。

チームアローが優勢とみていいだろう。アローのドリブル。チームスターのメンバーを抜いていく。そしてまた、得意のミドルシュート。よく一人で練習したのだろうな。キーパー止められない。四対一。

最後にチームスターは意地を見せる。四対二。しかしここで、チームスターは力尽きた。アローは涼しい顔をしている。次を見据えているんだな。とにかく、チームアローの勝利だ。

「やったぞ、アロー!」

「当然だよ」

とアローは、チームメイトと喜びを分かち合う。しかし、第三形態のチームスターは、どれほどのチームだ? スターの力で、チームアローのスタミナは回復する。

さすがゲームだ。スターもフェアプレイを望んでいるということ。

「後悔すんなよ!」

と、アローは強気だ。そして遂に、第三形態のチームスターが現れるはず。ユキもループ世界でも誰も見たことのない姿。どうなっている?

少し興味はある。ところが、青年が一人出てきただけだ。他のメンバーは第二形態と変わらない。その分、一人の選手が引っ込んだぞ。

「舐めているのか!」

とアローは少し怒っている。

「残念。これはアバターのようなもの。僕が超人化しているんだね。体がまだしっくりこないよ。でもアロー、油断しない方がいい。このデータにはユメが詰まっている。そう、僕のユメ。今考えられる最高の連携値を誇るんだ。当然、身体能力も高く設定してある。ルールを変えるのはフェアじゃないのでね。ルール、つまり出来ることは余り変わらないということさ」

要は、スポーツの連携サッカーに近づけることも出来たと、スターは言っているのか? 他の五人は替わらなくとも、一人で打開出来ると……。それはアローが証明した。

しかし、違うのは連携か個人技かということ。スターは連携にこだわるのか? 面白い。しかし、戦うのはチームアローだ。いつでも行けるというようなアローの面構え。

試合開始だ。これも五十分だな。アローは連携を使われる前にと、速攻でミドルシュートを放つ。それは効果的で、あっさりゴールとなる。一対ゼロ。

チームスターの真の実力はどれ程だ? いけるのか、アロー? チームスターはパスを回す! 連携を高める。チームアローも連携を有効に使うが、ボールを奪えない。アローでさえもだ。

さて、どちらが勝つのか? 僕達はアローを応援する。スターのメンバーが、ドリブル突破をはかる。一人抜いた。アローが近づくと。パスに切り替える。そしてまた、スターのメンバーにボールが渡る。チームナゴムがチームアロー戦で見せた、どこにいても仲間だよ効果に似ている。

アローは対策を練っているだろうか? しかし、チームアローはシュートを止められない。一対一。同点だな。アロークラスのシュートだった。スター自身が打てば、どれほどの威力だよ。アローも連携を使うが、チームスターの方が押している。

しかしアローは、前線に来ているチームスターを見て、カウンターを狙う。アローの鋭いパスは、戻っていたスターさえもかわす。アローのメンバーは、キーパーと一対一の状況。もちろんシュートを打つ。詰める仲間がいないぞ。キーパーに弾かれたら終わりだ。しかし、ゴールネットは揺れる。二対一。

チームアローが再びリードすることになった。しかし、ここからがスターの本番だった。スターの意図通りに動く選手達。スキだらけのチームアローを翻弄する。そして、ゴールを奪う。二対二の同点だ。

再びリード出来るか、チームアロー。多角的に攻めるチームスター。連携が成功する度にスターの動きが良くなる。恐らく何らかのスキルだな。そして、スター本人がゴールを奪う。二対三。

遂に、チームスターのリードだ。どうする、アロー。それにしても強力なシュートだった。今まで見た中で、最高かも知れない。僕はそれを超えたいと思った。

残り二十分を切っている。二対三のまま、試合はあまり動かないぞ。アローが頑張っている。ディフェンスもかなりアローの負担になる。

「くっ、俺達の力不足か」

「それは今に始まったことじゃない。俺に任せろよ」

「くっ!」

チームアローは、キャプテンに連携という力を注ぐ。

スタミナは奪われていく。アローの動きが少し悪い。働きすぎだろう。だが、アローは諦めない。アローは連携を知っているから。そのパワーを今、アローは使う。渾身のアローのシュート!

「決まれー!」

と、チームアローの全員が叫ぶ。しかし、スターのブロックによりボールの勢いは落ちる。キーパーがキャッチだ。

アローは次を見据える。 僕達と対戦した時より、アローはメンタル面も強化されたみたいだな。連携の恩恵か……。しかし、ダメ押しのゴール。二対四でチームスターがリードを増やし、突き放す。

残り七分。はっきり言って、チームアローの逆転は無理だ。しかし、アローは最後まで戦う意思を見せる。メンバー達もそれに呼応する。しかし、残酷にも時間は過ぎていく。

「クソッ」

とアロー。結局チームスターが、パス回しで逃げ切った。

アローが負けるとはな。僕達より強いはずなのに……。

「くっ、みんなで負けるとここまで悔しいのだな」

「アロー……」

とチームアロー。

「なかなかいい連携。そして、試合だったよ」

と、スターは褒め称える。しかし、それは勝者の仕事ではない。

チームスターは、さっきの要領でスタミナを回復させる。こうなったら、僕達が打ち破る。

「みんな、いくぞー」

「おー」

僕は、キャプテンのセリフを奪ってしまったようだ。

スターが言う。

「今ならまだ間に合うよ、ホシ。データに想いを込める、素晴らしいとは思わないかい。僕は、いかなる選手も超えるデータを作れるのさ。再現だって出来る。無限なんてものは存在しない。しかし、それに挑むのは楽しい。どんな連携も記憶出来る。その記憶が動き出す喜び……。現実はいいところだけ盗めばいい。それで補完できるのだよ」

「僕は、人形ごっこを楽しいとは思わない。その連携は『本物』ではないんだよ。どれほど凄かろうとな。本物は誰にも予測出来ない。そして、現実がなければゲーム世界は成り立たない。『偽物』が生んだ世界は、僕に大きなパワーをくれた。僕は、それを糧として現実を生きる」

「僕は現実をまっとうした。これ以上の言葉はメリットがない。キミにはまだ早すぎたのだろう。解ってくれるまで、僕はいつまでも待つ」

僕とスターは意見が分かれた。

スターが言うように、僕は現実を知らないガキなのかも知れない。しかも、ぼっちだ。どんな言葉も、幻想かも知れない。思いでさえも嘘かも知れない。現実を前に、僕の信じた世界は崩壊するかも知れない。

でも僕は、戦うことを選びたい、本物と思っていたものも嘘で固められたものであるかも知れない。連携の輪さえも……。ガキでぼっちだから。でも目の前にある連携の輪は、例え嘘でも僕には輝いて見える。

現実の世界は今、戦争中で、金の世界だと聞いている。それがどれほど大切なものかも僕は解っちゃいないだろう。コン王国は例え間違っていても、覚悟は本物のような気がするんだ。凄く苦労して、ゲーム大国を築いたのだろう。金も注いだ。そして今もだ。

「僕はスターと戦う。本物の最強シュートを打つために!」

「それなら俺達も楽しむぜ。何と言ってもゲームの世界だからな」

僕の覚悟に、青山と赤山が答える。

「最強チームは今日入れ替わる!」

と、ナゴムは言いたいことを言った。

林も続ける。

「俺は、みんなから貰った意地を、いつまでも大切にする。この記憶は失う訳にはいかない」

ユキが最後に締める。

「もう忘れられるのは嫌! みんなの記憶を守ってみせる」

コウとホラーも準備が出来ているようだ。

ナゴムが合図を送る。ユメと輪の戦いは遂に始まる。

「さあ、連携世界の始まりだ」

「今なら楽にユメが手に入ったというのに……」

と、スターはまだ諦めない。僕達は離れていても連携が発動する。

試合時間は五十分だったな、よし。僕はとりあえずヘルシュートを打つ。しかし、ブロックされる。人形どもがうざい。

「この人形達とは古い付き合いでね。愛着があるんだよ」

スターはそう言ってニヤリとする。

そして、ドリブル突破がくる。僕は抜かれた。赤山でさえ無理か。スターの連携が乗ったシュートが放たれた。これは決まったか。いや、林が止める。良くやったぞ、林。

「ふう」

と言いながら、林はボールを前線に送る。僕とスターの競り合い、意地と意地との戦いだ。しかし、僕は押し負ける。ボールはスターが持つ。スターは、ボールをメンバーに散らしていく。

連携が高まり、僕達ではどうしようもない、その時、人形がシュートを放つ。ボールだが、今の林はのっている。ゴールは守られた。このプレーでムードが変わる。

連携が繰り返される。ここで凄いパスがくる。ユキの最高のパスだ。最高の環境で、僕はヘルシュートを打つ。完璧だ。これこそ僕の求めたシュート。いける。決まる! ……しかし、キーパーにキャッチされた。

何故? これほどまでのインパクト。それほどなのに決まらない。

「へえ、それが本物か。完璧なシュートだとでも思ったかい?」

と、スターは嫌みを言う。ちっくしょー。何がいけなかったんだ?

ナゴムの絶好のチャンスでのシュートも決まらない。僕達は今、一丸となっているはずだ。連携で繋がれている。それでもゴールは奪えない。赤山もユキもダメだった。

もしかして、チームスターはとてつもなく強いのか。手も足も出ないほどに……。

「なんて面してやがる、ホシ。まだこれからだ!」

と、林はマイペースだな。

ここでスターのシュートが決まってしまう。ゼロ対一。先制を許してしまった。やばいな。しかし、何故か緊張の糸が切れた気がする。

調子が出てきたぞ。しかし、時間は刻々と過ぎていく。リードを保たれたまま……。残り二十七分か。まだ、どう転がるか解らない。

僕のところへパスが来る。チームみんなが僕は託したボール。みんながこちらを信じて見つめる。それだけで僕は力が湧くんだ! いけー、ヘルシュート! しかし、さっきより足のインパクトは弱い。これはブロックされたか? いや、キーパー届かない。遂に同点。一対一だよ。

みんなが祝福してくれる。これが最高の瞬間なのかも知れない。

「こんなものは本物ではないと僕は思うよ」

と、スターがつぶやいた。聞こえているぞ。なめるな! 次々とシュートは放たれる。シュートの応酬だ。

しかし、どちらのチームも均衡を破れない。どうするんだ! とにかくシュートを打たないことには勝てないぞ。残り十六分かよ。半端な数字だ。

「くっ、何故決まらない」と、スターにも焦りが見える。

スターはきっと、連携に絶対の自信を持っていたんだ。データというものにな、何処かで聞いたセリフだな。そうか、あの時のナゴムだ。二勝十八敗で絶望していたナゴム。懐かしいな。

ところで、どうすればチームスターに勝てる? それは相手チームも同じだろう。均衡はまだ破れない。残り十一分だな。いけるか? 勝つんだよ。

僕はまだ最強のシュートを放っていない。今日が最後だ。いけー、ヘルシュート! しかし、ブロックされトラップのパターン。今度は、人形のシュートをナゴムがブロック。止めた! 良くやった、ナゴム。

ナゴムが空を指差す。空は青い。いい天気だ。少し気分が晴れた気がする。そしてまた、連携が始まる、僕のところへボールが来る。何だ? この重さは……。凄まじい想い、そして連携を感じる。チームメイトだけじゃない。アロー、ワード、サトル、クロキ……。様々な感情が、このボールに込められている。

まさか、今までもそうだったんじゃないか? 僕は最強のシュートにこだわり過ぎて、逆に見えていなかったんだ。どんな想いも受け取って貰えなければ、機能しない。僕は何をやっていたんだ……。アローじゃないけど、もったいない。

自分勝手だから気が付かなかった。なら、今僕はわがままになる。このシュートは決まらなくとも、最強のシュートを狙う。何故なら気が付いてしまったから。いけー、ヘルシュート!

「いっ」

みんなの言葉が出かけて止まる。

何て美しいシュートなんだ! 僕の足に、インパクトなど残っていない。それ以上の嬉しさだ。みんなそのシュートを見つめる。これが最強のシュート。キーパー届かない。決まった!

二対一。リードしたぞ。あと残り六分。逃げ切れるか?

「まだ終わってはいないよ」

とスターが遂に余裕を解く。

僕達も気を引き締める。同点も逆転も許す気はないぞ! みんなの顔もそう言っている。僕は、得意のドリブル突破だ。一人で何度も、そして時にはみんなで練習した。思い出達よ、力になってくれ!

一人抜いた。スターも抜け。突破出来たぞ! 食らえ、ヘルシュート! さっきのことを忘れるなよ。いけー! しかし、人形キーパーも意地を見せる。ゴール成らず……。

ここで点をやるわけにはいかない。スターにボールがいったか。ドリブルで攻めてくる。確実に一点取るつもりだろう。させるかよ。青山と赤山がダブルで止めにかかる。しかし、スターはそれさえかわす。

しかし、スターは体勢を崩す。

「くっ」

とスター。スターは体勢を持ち直そうとする。しかし、ユキとナゴムが潜んでいた。ボールはクリアされる。残り二分。早く終わってくれ。カップラーメンが出来上がる時間より短いんだから。しかし、ラーメンを待つ時間よりはるかに長く感じる。終われ、終わってくれ、このまま……。

ボールはまたスターへ。スターがロングシュートを放つ。凄いパワーだ。スピードだ。

「終わってなるものか」

と、スターは熱くなっている。勢いのあるボールは僅かに的を外す。

ここで終了の笛。勝った。勝ったぞー。みんなが集まる。長い戦いは今終わったんだ。

「ホシとキミの打ったシュートが本物だったか、確かめられずに終わるのは残念だよ。僕達は本物ではなかった」

「スター!」

「主スター!」

「ホシ、ユキ。僕はとっくの昔に死んだ人間さ。潮時だね」

スターはにっこりと微笑んだ。

データ管理システム・スターは崩壊を始める。同時にゲーム世界も崩壊しだす。

「これでお別れか。チームナゴムは最強チーム。誰が欠けてもそうはならないまた会おうぜ」

と、ナゴムは少しの間スターを見つめる。

何を写しているんだろう?

「まあ、縁があったらな」

と青山と赤山。

「次はスタメンを狙う……」

とコウとホラー

「まっ、仲良くな」

と林。

「ホシ、わたしは諦めないよ」

「何を?」

「さあね」

とユキは、僕の問いをかわす。

僕はみんなに言う。

「僕は今日のこと、正しいと信じるよ」

みんなが頷いてくれた。そして、お別れの時のようだ。世界が歪む。僕はゲーム世界から現実世界へと戻ったんだ。

今日のことを胸に頑張るぞ。しかし、現実は甘くなかった……。あれから、およそ五年が経過した。僕は何をしているんだ? そう、僕はあの時から大した時間よりも経たずに引きこもりになっていたんだ。ここ三年間は家から外にも出ていない。

菓子パンを食べる日々。みんなと一緒だったのはユメなのか? 過去にすがる醜い僕という存在。忘れゆく日々達。僕は誰だ? もう誰にも見られたくないんだ、墜ちた自分を。周りの視線と声が気になる。スターは正しかった。間違っていたのは僕の方だ。ぼっちに生きる資格何てない。特に僕のような人間はな。僕が人間かどうかも、もう解らなくなってきたぞ。

およそ一年前から徐々に有名になってきた、レストランのチェーン店がある。店の名は『ぼっちホシ』。間違いなくユキが僕を探している、この現実の世界で……。

ユキは料理が得意だったっけ? 会いに行くのはそこまで難しくはない。ユキの顔は見たいかも知れないな。でも、絶対に会いたくない。見られたくない。この墜ちた僕をね……。

ユキは絶対に僕を、今の僕をバカにしたり、笑ったりはしないだろう。むしろ手を差しのべてくれるはずだ。しかし、その優しさが僕を更に苦しめる。辛い、惨めだ、逃げ出したい、ほっといてくれ、追い詰めるな。ユキの優しさがここまで憎いとは思わなかった。

僕の親ももう投げやりだ。僕は何の才能もない。ただのぼっち。もう嫌だ。死んでしまいたいんだよ。過去は美しく輝く。しかし、それもいつかは風化する。やめてくれよ。

更に、僕宛に手紙が届く。差出人の住所や名前はない。しかし、この字は間違いなくナゴムだ。『連サカ一緒に作ろうぜ』と、一文だけ書いてある。連サカ? 何年経ったと思っているんだよ、もう遅い。

コン王国は、データ管理システム・スターを失った。その被害は大きく、今は他国から攻められる日々だ。非難されている、最低の国だと。ゲームまで非難されるのは少し傷つくけど……。当然の結果だ。

ナゴムは今、三十歳ぐらいか。その年齢でまだユメを追っている。僕はやり直せるかな、ナゴム。もう一度、最高のパートナーと言ってくれるかな、僕のことを、

手掛かりは、ユキの『ぼっちホシ』だけ。ナゴムは僕を試している。きっとそうだ。僕の方から来いということか。玄関のドアノブに手を掛けて、僕の動きが止まる。恐い。何もかもが恐い。

でも、やり直すチャンスなんだ。僕はドアを開け放つ! あっ、地図はあっても僕は方向音痴だった。どうしよう。とにかく、適当にレッツゴー。あれ? ループしている! 僕はまだゲーム世界にいるのか? そんな訳がない。行くんだ、大切な大切な人達のところへ!

「相変わらずぼっちだね、ホシ。パジャマのまま来るし。でも、勘違いしないでよ。待ってたんだ。天才ぼっちホシが、今必要なんだ」

「ユキ……。ショートカットだったよな。髪伸ばしたのか、少し。って、僕が必要? あと、ぼっち言うな」

ユキと久し振りの再会。こいつ、変わってねえ。

そして、ユキが指差す。そこには、チームナゴムのメンバーが揃っていた。コウとホラーまでいる。

「今度はスタメンを譲らない」

と言っている。

「けっ、引きこもりが。オレはニートだ」

青山か。こいつも苦労してんだな。

「オレは仕事をしている」

と赤山。林はフリーターか。

この国も変わったからな。

「ここに集まって貰ったのは、目的があるからだ。天才ぼっちホシの力で、連サカを再び作る」

ああそう言えば、スターが僕に才能があると言っていたな。で、ナゴムもニートか。

ユキは言う。

「わたしは金銭面でサポートするよ。その代わり連サカが売れたら返してね」

ユキはレストランのオーナーだったな。しかし、成長し続けている。今はそこまでではないけれど。

「みんなやってやるぞー」

僕は何となく叫んだ。

「おー」

みんなも何となく同意してくれたようだな。

そして、数年が更に経過した。引きこもりと兼任だったけど、充実していたと思う。ゲーム連携サッカーが完成したのだ。もちろん、ユキの連携を記憶する機能も、フル活用だった。

そして僕達は、ゲーム世界に再び突入する。後ろめたいことは何もない。そこには、サトル、ワード、ヒカリ、エントツなど、多数の知り合いもいた。

チームナゴムは、練習施設を目指す。そして練習開始。さすがに前回の連サカのデータは使えなかった。僕達のパラメーターは元通り低い。パス練習が開始される。データを失っても残るもの、それはユメ。そして、連携値という名の強いつながりの輪であった。

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