第14話 死んだ連携

ホシ達がゲームソフト連サカを完成させてから、約五年が経過している。まだ、それほど有名ではないが、プロの競技として一応成り立つレベルである。コン王国が再び蘇りそうな予感を感じ取った人物が、通称『オーナー』である。

『ヤマト』という小さな国で、『ホープリーグ』という連サカの大会が四年前から始まった。ヤマトの国は、兵器ではなく技術による快適な国を目指す。コン王国の失敗の教訓を生かそうとしている。

ホープリーグは、十二歳から十五歳が参加の条件である。それは、中学生ぐらいが条件を満たす。オーナーはスターのデータを解析し、優れた選手育成を目的としている。そして、九十点以上の成績を残した選手を、コン王国へと送り込む。チームナゴムやチームアローなどが参加している連サカの本場である。しかし、歴史が浅いため百点満点で九十点以上の成績を残し、契約した選手は十人程度に過ぎない。

ホシの放つヘルシュートは、どこまでも飛んでいく。ここにもいる? 物語の語り手は、十三歳の少年シュウへと移る……。

僕はユメを求めてホープリーグに参加した。オーナーが経営する学校の二年生だ。ここでは、ゲームソフト連サカメインの教育方針が採用されている。ここホープ学校では、伝説のチームナゴムが打ち破ったスターのデータが集まる。ホシ選手達のおよそ二年間のデータである。そして、そこにある選手のデータを個人ごとに手本とする指導だ。

僕はホシ達さんのデータを担当している。だからこそ知っている、ホシ選手もアロー選手も得点王クラスにも関わらず、ぼっち時代があったことを。そして、二人とも連携が出来なかった。僕はテツに言う。

「ということで、テツも連携を諦めるのはまだ早いだろう」

「俺は他のメンバーとは上手くいかない……」

と、口数の少ないぼっちテツが言う。

テツはワードさんのデータを担当している。猛威を振るう『最高のパス』を放つワード選手の得意技と実力差に、テツは苦しんでいる。僕との連携値は結構高いテツも、孤独に生きる。

いきなりテツは言い出す。

「シュウのヘルシュートは弱いんだよ。ホシさんのヘルシュートは、ユメを運ぶと言われるほどだ」

「ああ、凄かった。一度モニターで観戦したことがある。チケット代の二千円は痛かったがな。あれが連携の力かよって感動したよ」

と、僕はテツに語る。

ホシさんは、パスではなくドリブルだけで連携が成立するほど、メンバーから信頼されている。その力を連携値と呼ぶ。そして、チームサクラのキャプテンサクラさんの呼び掛けで、トレーニングが始まる。うちのキャプテンサクラさんは、八十点を超える成績を残し、プロもユメではない女子生徒である。しかし、もう三年生でタイムリミットは近い。

サクラさんは、いつものように愚痴る。

「私の手本が、何で赤山選手なの? 印象は地味。チームナゴムにはいるけれど、完全に脇役じゃない。兄の青山選手がいてこそなのに……」

サクラさんは、凄い才能を持つのに、オーナーから渡されたデータは何故か赤山選手だった。

シオとキーパー大地は、自信たっぷりに言葉をこちらへぶつける。

「来い、山川とシュウ! 止めてやる」

この二人は林選手が手本だ。総合力の高い林選手だが、一番の怖さは『意地』というスキルを持つことだ。シオも大地も、どうやったらこのスキルが習得出来るか解らず苦しむ。

山川と僕はワンツーパス。ボールは山川へ。

「行くぜ!」

と特攻するドリブラー山川の手本は、シロップ選手。チームナゴムに八対ゼロで勝った実績を持つが、チームシロップは終盤、歴史の闇へと消えていった。伸びを欠いた選手の何処を手本にしたらいいか、山川には良く解らないらしい。というか、僕達にも解らない。

チームサクラは、この六人である。本場コン王国のジュニア選手とのトーナメントも近い。僕達ヤマトは、本場でどこまで通用するか? 楽しみだな。ドリブル突破をやってのけた山川は、ゴールを決める。キーパー大地は悔しがる。ただのトレーニングだってのにな。

そして時は過ぎ、およそ一週間が経過した。そして、明日からトーナメントが始まる。コン王国の犠牲は大きく、ヤマトのような小国とも関係の改善を図ろうとするのだ。このトーナメントもその一環である。

チームサクラは入念にチェックを入れ、明日の試合に備える。サクラさんの檄が飛ぶ。

「ほら、データ通りに動く。連携のマニュアルは頭に入れると言っているでしょう。テツを仲間外れにもしないこと!」

「はい」

と、僕達メンバー五人。しかし、山川もシオも少しイラついているぞ。

「テツは自ら連携を拒否するんだよ。シュウとは仲良しだってのに……」

「すまん」

と、テツ。

そしてトレーニングは終了する。僕達チームサクラは、ホープリーグの上位チームだ。だが、明日からぶつかるチームは、本場のジュニアリーグのチーム達だ。果たして通用するのか? 僕は、ホシさんみたいなプロ選手に成りたいんだ。ボールに翼が生えたように、どこまでも飛んでいくかのように、ヘルシュートはゴールに突き刺さる。そしてチームサクラは、トーナメント一回戦を二対ゼロで突破する。

二回戦も、三対二で何とかクリア。僕達はジュニアリーグ相手でも通用するんだ、と思ってしまったよ。

三回戦の相手は、チームシズク。このチームは、ジュニアリーグ百チームを超える中で、去年七位だったほどだ。このチームといい勝負が出来たなら、プロもユメではない。

三十分の試合が始まった。えーと、キャプテンのシズクがゲームメイク担当で、得点源の多くはカケルのシュートから生まれる。サクラさんはつぶやく。

「思ったより攻めてこない。勢いのあるチームと聞いたけど、探られている?」

とにかくチームサクラは、連携パスを繰り返し、僕はホシさんのようにドリブル突破。ヘルシュートは相手キーパーに弾かれる。そこに詰めていたテツから僕へパスが来る。

もう一度だ。いけー、ヘルシュート! 今度はキーパーがキャッチ。並のキーパーなら動けないというぐらいの自信があったのに……。相手選手の間から声が聞こえる。

「ホシさんのヘルシュートかよ」

「あと、ワードさんの最高のパスのひな型」そして最後にシズク。

「理解した。死んだ連携に過ぎない」

おいおい、シズクは何を理解したってんだ? こっちはデータ通りに動けてんだよ。ボールはキーパーからカケルへ。スローなドリブルからパス。点取り屋と聞いていただけに、シュートを警戒していたチームサクラは面食らう。

凄いスピードでパス回しするチームシズク。そして、さっきとは桁違いのスピードで迫るカケル。山川が叫ぶ。

「シオ、大地、止めろー!」

無理だ。実力差がありすぎる。さっきの遅いドリブルはわざとかよ、カケルさん。

凄い連携の力がカケルのスピードとなり、キーパー大地は抜かれる。僕のドリブルとは凄い違いだ。一点、二点、三点。もう試合にはならない。結果はゼロ対七で、チームシズクの完勝だ。何が違うってんだ。沈んでいるチームサクラに、シズクが声をかける。

「あんたら個人の力は俺達以上だ。ヘルシュートに最高のパス、その二つは本物に遠く及ばなくとも、トレーニングの跡が見えるさ。だが、マニュアル通りこうしなさいと命令された、つまり『死んだ連携』だ。それでは、連サカで勝ち続けることは出来ない。連携値を無理矢理作る練習は止めた方がいい」

「参考になったわ」

とサクラさん。

カケルが言う。

「強かったぜ」

「また会いましょう。次は勝つ」

と、サクラさんが言ったところで解散となる。大きな課題が浮き彫りとなったな。教えて貰ったことは、ホープリーグの教えとは別のものだ。どうすんだよ。そう、僕達は連携値を形だけ作っただけだということに気づかされた。もう、全てを否定された気分だよ。しかし、サクラさんの目は強く輝いていた。

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