第12話 これぞ連携サッカー
あれから十日が過ぎたが、いつもの日々が続く。スターはどうなった? まだ世界は動いている。アローは僕達に、試合を申し込んできたんだよな。しかも、テレビ中継付きでな。
ナゴムは、それをあっさり受けた。チームアローを倒してこそ最強ということだろう。連携無視のアローが気に食わないか。僕はどうでもいい。
アロー戦までおよそ一ヶ月になっている。勝てるわけはないぞ。それと、ユキに聞きたいことがあるな。僕はフィールドへと向かう。練習用のフィールドだ。そこには、チームメイトだけでなく、チームサトルとチームワードもいた。何故だろう?
それよりも、僕はユキに用がある。僕はユキに向かっていう。
「ユキ、どうなっているんだ? チームスターが負けたのに、この世界は何故正常に動いている。いるんだ?」
ユキは僕の問いに、言ってなかったっけ、みたいな感じで答える。
「チームアローは、チームスターの第一形態を倒しただけだよ。修復には時間がかかるみたい。アローがいくら強くても、第二形態を倒すのは厳しいだろうね」
「はあ? 第二形態も、ということは、まだ上があるのか?」
「第三形態が本当の最後だよ。わたしも見たことがないほどのものよ」
僕が困惑する中、ユキはとんでもないことを言った。
待てよ、ということは……。
「アローは僕達より遥かに強い。アローにスターを倒して貰うしかないんじゃないか?」
「そうね。わたしもそれは考えたことよ。第二形態はまだしも、それより上はアローでさえ連携が必要だわ。しかし、アローみたいなぼっちが、連携に目覚めると思う? それは奇跡だよ。それに、今からアローが連携を身に付けたのでは遅すぎる」
もう、どうしたらいいか解らないな。ユキがそう言うなら、僕達がやるしかないかなあ。僕の体の傷達が暴れだす。やれってことかよ? 僕の傷はループを望まない。僕の未来を望んでいる。無念達を払うことを……。何も出来ないことも。僕が背負うなんて本当は嫌なんだ。でも、僕は後悔したくない。
どの選択がそうなのか、考える必要があるんだ。
「アローには託したくはない……」
サトルとワードがほとんど同時に言う。
「残念だが、俺達よりアローは強い。しかも、アローはナゴムを指名した。ホシが楽しそうにプレーしているのが、気に食わないのだろう」
と、サトルが唇をかみながら言う。
サトルでも確かにアローは厳しい。それは、チームワードもチームナゴムも同じこと。
「最強の連携以上のものが、ナゴムに潜んでいることは、ユキやヒカリから聞いている。心は近づくが体は離れていく……。おそらくそれは二人だからだ」
と、ワードが叫ぶ、しかし、ユキは顔をしかめたままだ。
ワードの理論は、的はずれということなのか? というか、ワードの理論も僕には理解出来ない。
「オレもワードの意見が完全に間違っているとは思わない。それよりも重要なのは、林じゃないのか?」
と、サトルが言う。
同じようにみんなが、それぞれ意見を出す。チームサトルとチームワードが集まっている理由はそれか。悔しいんだよな、アローみたいなのが出てくることが……。届かないことがな。
だから僕達に託した。
「理論的に完成形は、ホシとナゴムの二人しか関係ないよ。何故なら、心が急激に近づいているのは、その二人だから……。もし他の選手の心が近づいたら、体はもっと酷いことになるよ。壊れてしまう」
「ウーム、どうなんだ?」
ユキの言い分に、サトルもワードもこれ以上アイデアが出ないようだ。
エントツが分析結果を言う。
「ホシとナゴムの連携値を百とすると、ホシと青山は三十、ナゴムと青山は五十、ホシとユキは九十といったところか……」
「えっ? わたし、ナゴムに負けているの?
そんなことないよ! 」
と、ユキが文句を言う。
しかし、エントツのその分析は何を意味するのだ? 数字も大体の予想だろうな。
「もしこれらが全て百を超える力が、ナゴムに眠っているとしたら? まず可能でも、体を壊す」
「そうだよ。ここが問題なの。でも、発動するのは難しくないと思う」
サトルとユキがいろいろと話し合うが、結局答えは出なかった。
基本テクニックとランニングの練習を中心に、僕達チームナゴムはやってきた。とにかく、チームアローに勝てないようなら、真のチームスターに勝つどころではないということだ。ハードルが高すぎだよ。僕達は、楽しくプレーするだけでは満足出来なくなったんだよな。
そして、試合当日になる。
「足を引っ張るな。オレが一人いれば楽勝だ」
「くっ、こんなガキに俺達が指図されようとは……」
アローはチームメイトに対して、こんな態度を取っている。しかし、僕は知っているんだ、これがアローの本当の姿ではないことを。
ナゴムが気合いを入れる。
「勝つ! 最強チームのためだ」
「それなりにやるさ」
と青山と赤山。しかし、その目は燃えている。林はいつも通りかな。ユキも気合いが入っているな。
僕は何がしたいのだろう? 最強のシュートを打つことだ。仲間達と共にだよ。それが僕のユメ。アローがそれを阻むなら退けるぞ。僕はそれ以外考えるな。
もうすぐ、五十分間の試合が始まる!行こう。そして笛が鳴る。青山から赤山へボールは向かう。しかし、それさえもアローは止めた。嘘だろ。この二人のパス能力と連携を考えると、普通は無理だろう。アローの恐ろしさを改めて知ることになった。
ミドルシュートを打たせるな。ユキが抜かれた。僕もだ。ナゴムまでやられたか。そのアローのシュートは、余裕でゴールへ入っていく。ゼロ対一。いきなりかよ。
どうするんだ。勝てる相手ではなかったんだ。
「諦めんな、クソヤロー」
と青山が僕に声をかける。その言葉に僕は救われた。しかし、アローの勢いは止まらない。林じゃ無理だ。他のキーパーでも無理だろうな。ゼロ対二。
強力過ぎるぞ、アローのシュート。その時だった。僕と青山が光って見える。アローのボールを僕は何故か奪えたんだ。
「何っ! あり得ない」
とアロー。僕と青山が近づいている。
チームアローは、アロー以外の選手はそれほどでもない。今度は僕と赤山が連携する。連携が高まる。パスでボールは赤山に。そこからナゴムへ。チャンスとみたナゴムは、シュートを打つ。決まれー! しかし、何時の間にかアローがゴール前へ戻っていた、ブロック、そしてトラップされる。
やはりボールはアローに集まる。まだ試合開始後六分だ。ミドルシュートがまたゴールネットを揺らす。何だ? 林の目付きが変わる。
「好き放題やりやがって……」
と林は悔しそうだ。ゼロ対三の現実はそれでも変わらない、何故か僕達のスタミナが、いつもより早く減っている気がする。何故だ? しかもこの試合は、いつもより長い五十分だ。本当ならヤバイぞ。
また、アローボールかよ。アローは得意のミドルシュートをまた放つ。しかし、何と林がこれを止めた! 奇跡だ。いや、アローほどのシュートが林に奇跡で止められる訳がない。何か、からくりがあるんだ。
とにかく林はよくやった。
「そんなはずはない。おかしい。オレが最強だ!」
とアロー。しかし、それから四連続でアローのシュートは林に阻まれる。
「オレは何度もゴールを許してきたんだ。ここは踏ん張る!」
と、林は気合いがのっている。
そうか、ここはゲームの世界。林は、ゴールを決められたことに最も責任を持つ者。『意地』という名のスキルが今、林を覚醒させた……。
「まだ三点差あるんだ! 焦ることはない」
と、気合いを入れ直すアロー。
気をつけろよ、林。
「連携サッカーをなめるなー」
ナゴムが哮る。ユキの動きもいい。みんなが輝いて見える。ナゴムが言う通りだぜ、子猫ちゃん。
連サカは、一人でやるもんじゃない。本来、ぼっちがやるゲームじゃないんだよ。僕はナゴムと更に近づいた。ナゴムの表情が変わる。ナゴムもそう感じたようだ。連携を繰返し、僕は得意のドリブルでアローを抜き去る。
後は楽勝だ。一人ずつ丁寧に抜いていく。残るはキーパーだけだ。決まれ、ヘルシュート! いったー。アローも間に合わない。一対三だ。僕らはまだ諦めない。いけるかもな。残り三十五分以上あるんだぜ。
その時、僕とナゴムは急に倒れる。何が起こった?
「ホシー、ナゴム、大丈夫か?」
とみんなが心配してくれる。やれるさ。
僕とナゴムは何とか起き上がることが出来た。しかし、僕の体力を相当奪われた。ナゴムの動きも悪い。ということは、ナゴムも僕と同じ状態か。これが、体と体が反発しているということなのか。
しかし、この試合は落とせない、僕のユメを叶えるために……。傷達のためではない。
「発動している。でもこれは完成形じゃないよ。わたしに出来ることを探すんだ。やれるよ、ユキ!」
ユキは自分に言い聞かせる。
林はアローのシュートをとにかく止める。キーパーの仕事が多いということは、点が入らなくても押し負けているということ。
「みんな! 俺は最強のチームに想いを、そしてわがままを捧げる!」
「俺もだよ」
青山と赤山兄弟がナゴムに願いと活を捧げた。
林は言う。
「俺は覚悟を捧げる」
「ナゴムにホシは渡さないよ!」
と、ユキが少しずれたことを言う。
「僕は最強のシュートでこのチームを最強にする」
僕もこのノリに続く。
「子猫ちゃんに、どちらが上か教えてやるぜ!」
と、ナゴムがみんなに応える。
さあいこう、みんな。しかし、スタミナはどんどん削られていく。ナゴムから光が分岐しているような錯覚を受ける。手繰り寄せられた僕達。僕とナゴムはかってない連携値を叩き出す。それと同時に、体が反発しやがる。このままでは負ける。
どうする? どうすればいい?
「もうパスは必要ないよ。わたし達は繋がれたから。完成形を超えたんだね」
とユキが静かに言う。どういうことだ? 意味はない励ましなのか? ユキは何を言っている?
んっ、体が軽い。僕達は苦しみから解放されたんだ。赤山のシュートがゴールネットを揺らす。二対三。
「何が起こっている? チームナゴムのアタッカーはホシのはず。しかも赤山は連携を使っていない。シュート力も低い。俺は悪夢を見ているのか……」
とアローは動揺する。
連携を使っていないだと? 赤山も僕達もバリバリ使っているよ。パスを行わなくても僕達は繋がった。何処にいても、みんなを感じられるんだ。連携の極みだよ。
僕のヘルシュートで三対三。ついに同点だ。いける、いくんだ! ユキまでがゴールを決めた。これで四対三。逆転だ。突き放せ! 今度はナゴムのシュート。キーパーに弾かれかけたがねじ込む。五対三だ。
アローが下を向きながら言う。
「これが連携。俺の求めた世界。俺は天才どころかただのぼっちだ」
アローは、それでも表情を変えることはなかった。更に、ダメ押しと思われるヘルシュートが決まる。六対三。どんどん突き放してやるぜ!
チームアローが遂に連携を始める。しかし、アローは参加していない。賢明だろう。アローはもう使いものにならない。僕達は、ボールを奪いにかかる。アローは蚊帳の外。アローなしのこのチームになど負けるはずはない。いける!
チームアローの連携はまだ高まっていない。ボールを奪うのは簡単なはず。しかし、僕達は意表をつかれることになる。そして、アローさえも……。ボールはノーマークのアローに渡る。
アローのチームメイト達は叫ぶ。
「打てー、アロー!」
連携の力が少しだけこもっているボール。
「凄く重いボールだ。蹴るのが勿体ないよ」
と、アローが呟いた。メンバー達は再び叫ぶ。
「重いボールとやらを何度でもアローに託すぞ!」
そして、凄まじい威力のシュートが、ゴールに突き刺さった。林は動けない……。
「くっ」
と、林は悔しそうだ。六対四になった。
まだまだ余裕があるとか考えてはダメそうだ。アローの目は燃えている。味方のボールが奪われた。今度の連携はアローが加わっている。連携値が上昇し続けている。
ボールをアローが再び持つ。打ってくると思った僕達は、アローを警戒する。しかしアローは予想に反して、鋭いパスを送る。そして、それを受け取ったチームメイトのシュート。しかし、林は意地を見せる。六対四のままだ。
チームメイトが言う。
「アロー、俺達は足手まといか?」
「すまない、みんな。わがままな俺に力を貸してくれ」
「了解!」
「シュートさっき外しただろう。いい気になるな」
「ハハハ」
「俺『たち』は、負けない。いくぞ!」
「おー」
チームアローの会話だ。そして、持ち直してしまった。
だが、アローの連携値が急激に上がった訳ではない。僕はドリブル突破を狙う。一人抜いた。まだいけるか……。みんなの連携が込められたドリブルだ。まだ抜ける! アローともう一人、二人で止めに来やがった。
ボールが奪われた。軽くパスを回した後、やはりアローがボールを持つ。アローのミドルシュートは止められない。六対五。これはヤバイな。林は更に意地を見せられるのか!
残り十五分か。どうなることやら。
「俺達の連携サッカーを見せるんだ! 本物の連携を!」
とナゴムがたける。みんなに伝わったはずだ。リードしているのに、その感覚が薄い。それだけチームアローが強いということだろう。
僕にボールが来た。たたき込め! 早目のシュート。アローがブロックにかかる。
「いけー」
とみんな。その瞬間、ボールにまで連携が届いたかのような錯覚を受けた。
ボールはアローをすり抜けて、残るはキーパーだけだ。キーパーが弾く。ユキとアローの激突。アローは、さっきまでブロックしていたはず。とんでもない化けものだ! ボールは転がる。そこにいるのは僕。決まれ! ヘルシュート。決まった。七対五。残り五分だ。
逃げ切れるのか? 意表をついたアローの連携なしのシュートに、林は反応出来ない。これは決まった。七対六。どうなる、この試合。
そして更に、アローボール。一人、二人、三人と抜かれていく。そこでナゴムは意地を見せた。ナゴムから僕へとボールが渡る。決まれ、ヘルシュート。 何でアローがそこにいるんだよ? 完全に人間離れしている。アローは超人化を超えた。
アローはパスを出す。そして再びボールはアローに戻る。アローに立ちはだかるのは僕。ここを突破されれば、残るは林だけ。一対一では、アローが九十九パーセント決めると言っても過言ではない。勝ちたいなら、抜かせることは出来ない。みんなの力が僕に宿る。
一人じゃないんだ。僕はアローを超えてやる! とか思っているうちに、僕の視界からアローが消える。こんなことって人間に出来るのか? ゲーム内とはいえ、僕も超人化しているはずなのに……。
届かない。惜しくもない。圧倒的な実力差だ。ミドルシュートがアローの足から放たれる。終わった……。
「いけー」
とチームアローのメンバー達。
「アロー、知っているか? 俺にもみんなの力が宿ってんだよ」
林はシュートではなく、グローブを見つめる。
『存在感のない林へ』 この試合前に僕達は、林のグローブの買い換えに付き合ったんだな。会場に売っていたものに、メッセージをマジックペンで軽く書いたんだっけ。とにかくボールを見ろよ林。決められたら振り出しだぞ。
キーパー林はボールを弾く。やったぞ、林! と思ったらアローがもう詰めている。ユキとナゴムがアローを二人がかりで止めようとする。しかし、アローは止まらない。本当に化け物だよ、アローは。赤山が何とかクリアする。これで勝ったか……。
いや、まだだ。チームアローがボールを持った。そしてアローへパス。青山のパスカットが成功した。ここで、試合終了の笛が鳴り響く。僕達は勝ったんだ!
「負けたのに、何故きさまらは笑っている?」
「アローも、にやけているじゃないか」
「くっ、そんなことはない」
「もっと重いボールを、いつか渡してやるよ」
「うん」
アローは笑顔で頷いた。
会場は大歓声だ。負けたのに、アローへ向けられている。確かにアローは整った顔立ちをしている。しかも今日、六ゴールを叩き出した。MVPはアローかもな。しかし、そんなものより勝ちの方が上なんだよ。
「俺達は現実を取り戻す。次はスターに止めを刺す。最強チームの出来上がりだ!」
「おー」
ナゴムの言葉に、みんなが合わせる。さあスターよ、決着の時だ!
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