第11話 これでは終わらないぼっちの天才
木の靴ねえ。と思ったが、さすがゲームの世界。特殊な木があるとか、べたすぎるよ。オーダーメイドか。連サカシューズが強化される。どんなリクエストにしようか。
普通なら三十万円ぐらいとられるらしい。ヒカリのとの出会いに感謝する。青山と赤山は悩むことなく、パスに重点を置いたシューズにするらしい。ナゴムはパスかバランスが、悩んだが、結局連携効果を高める素材に決めたらしい。コウとホラーは適当だ。
ユキも連携か。意外だな。もう一度信じていいですか、とか言っていた。今もユキは信じ続けているととろう。ナゴムに近いほどチーム思いだと思うから……。
僕は、ドリブルかシュートかで悩んでいた。やはりここはヘルシュートだな。ちなみに、ヘルシュートは一応スキルだ。これを使うと結構スタミナを削られる。しかし、効果はそんなに大きくはない。
少しでもいいんだよ。
「ホシの心の叫びが聞こえるよう」
と、ユキの声が震える。
「しかしホシ。またチームスターとやらに挑むのか? 確かに記憶は残したい。だが、現実なんていいもんじゃないぜ」
「知っている」
何時かのやり取りのようにナゴムと会話する。
「まあ、キャプテンの指示には従うよ」
「そうか。チームスターを倒してこそ最強だよな」
そして、いつかとは違う情景……。僕は何処に映る存在だ? 僕はぼっちだ。いつまでも……。どこかで誰かを疑っている。だから僕は、他人の視界に入る資格などないのだ⁉ちょっとギャグだったな。
練習再開だ。僕にとってドリブル突破は、ただの個人技ではなくなった。みんなの力が宿るドリブル。独りでは打てない。僕はドリブル練習を繰り返す。思い出を繰り返すように。時は過ぎていく。青山と赤山は更なる連携強化に挑む。
みんな、新しいシューズの感触を確かめる。僕は、ヘルシュートの効果アップはもちろん、他の安定感も少し上がった。しかし、戦うのはやはり選手そのものだ。シューズはそれを少し応援してくれる存在。僕はそう思った。
ナゴムは総合練習を行っている。ユキは僕のドリブルによく付き合ってくれた。林はコウとホラーと共に、更なる高みを目指した。林のシューズは連絡が遅れたため、手元に届くのも遅めだった。林はジャンプの強化か。ゲームでどこまで効果を発揮するかだな。連絡が遅かったのは、僕が林の存在を度忘れしていたからだ。すまん、林。
それにしても、もうすぐ試合のシーズンか。
「来てやったぜ、ホシ!」
ワードがいきなり声をかけてくる。チームワードのメンバーが揃っているぞ。エントツもいるようだ。
「ホシは、渡さない!」
「まあ、話を聞けよ。俺達は山にこもり、練習をしていたのさ。ゲームなだけにクマはいなかったぜ」
「そんな話はどうでもいい」
ナゴムは、ワードの無理押しから僕を守ってくれている。
山ごもりの話など、どうでもいい。最近来ないと思ったら、今頃かよ。待ってた訳じゃないからね!
「俺は、サトルを置き去りにするほどの力を手に入れた。チームガイコツも射程圏内だ。サトルはどういう作戦で来るか……。とりあえず、ホシとエントツを入れ替えて、練習試合といこうぜ」
「させるか!」
ワードはしつこい。
ナゴムも疲れてきたようだ。
「やってやるさね、ホシ覚悟!」
と、元気なユキ。
「本気か?」
と、僕とナゴム。
「本気だ!」
と、ワード。ワードには聞いてねえ。エントツは、わざわざ遊びに来たわけでは無さそうだ。ワードと違い、真面目っぽいし。
いつの間にか笛が鳴っていた。ワードが犯人だ。試合開始。
「どうする、ナゴム?」
「ヤツはぼっちだ。ホシはぼっちだ。よって、チームワードに馴染めない。ぼっちだから。連携はほぼ封じた。そこにスキがある。最強の連携を発動させるな!」
「解った」
エントツとナゴムの作戦会議。ぼっちと三回も言うなー。
しかし、僕は震えが止まらない。僕のパスは縮こまる。僕はやはりぼっちなんだ。それをエントツは見逃さない。エントツはいきなり連携を発動させる。くっ! 同じ人間でここまでの差があるとはな。負けた……。
エントツのシュートは、ゴールに突き刺さった。ゼロ対一。先制ゴールはチームナゴム。
「フッ、これからだぜ」
と、余裕のワード。ワードは軽くパスを回し、僕に凄まじいキレのパスを出す。これが最高のパスか……。かつて、エントツに向けたものとは少し違う。使い分けこそが最高である証かもな。
これほどのパスを、僕は受けられるのか?
ワードは、それだけ僕を信用しているということか。しかし、そのパスは思ったより簡単に受け取れた。足に食い付くほど取りやすいパスだったぞ。ワードは恐ろしいヤツだな……。
行けー、ヘルシュート! 何だ? 凄まじい衝撃が身体中を走り回る。叩き込め! 僕は負けない。打たれたシュートに誰も反応出来ない。同点ゴール! 凄い快感だ。試合は振り出しに戻った。
「どうだ、ホシ? 実は俺もこれほどとは思わなかった。すまない」
「またお願いします」
「ああ」
僕とワードは軽く言葉を交わす。
「スゲー」
と言いながら、チームワードのメンバー達が近寄ってくる。連携値が試合中に上昇だと。ぼっち卒業の日は近いはず。
「くっ」
と、ナゴムとエントツ。
今もまだ、シュートのインパクトが残る。結局この試合は、四対二でチームワードの勝利となった。僕は、最強の連携を四回発動したことになる。凄い快感と痛む足。凄すぎるぜ。今も余韻に浸っている。
しかし、ナゴムの安心感には勝てない。安心感か……。勝ったのはワード。そんなものに僕は執着していいのか?
「今はまだ。しかし、好感度アップってところか、ホシ」
「ん、ああ。そうかもな」
ワードの問いに、僕は素直に答えた。
ナゴムとエントツは凄く悔しそうだ。他のメンバーもそれなりにという感じだ。ワード達は、また来ると言って去っていった。
「ホシはやらん。最強チームのため必要なんだよ」
「ナゴムはわたしのライバル。ワードもなの?」
ユキとナゴムは、少し取り乱す。
「オレはエントツでもいいぜ」
「同じく」
と青山と赤山。意見は分かれた。
はたして、林はどう思っている?
「手が凄く痛い」
と、林はシュートを受けた感想を述べた。どっちだよ、とは聞けなかった。
「僕は行かない。このチームで勝つ」
と僕は自分に言い聞かせる。
長い戦いが再び始まろうとしていた。コウとホラーの出番は如何ほど? 僕達は好スタートを切った。メンテナンスが終了し、また騒がしくなったな。戦いはこれからだよ。チームスターに勝つんだ。例え現実がクソでもな。終わらせてやる、と傷達が騒ぐ。僕もそれにつられていた。
僕達チームナゴムは、十二連勝している。次の年になったが、かなり好調だな。チームガイコツに勝てるチームは未だにない。挑戦するチームも、ほとんど無くなった。
その時だった。
「チームアロー? 聞いたこともないな」
と、大した関心も無さそうに赤山が言う。
「そうだね。長いループ期間でも出てこなかった。前回の試合が初出場だね。アローとかいう小学生が、残り二分の間に五ゴールも決めたって話だよ。それで、持ち上げキャプテンになった。チームアローの誕生。でも、これほどの選手を今まで隠していた理由は何だろう? しかし、チームガイコツに勝てるとは思えない」
「だが、ガイコツへの久しぶりの挑戦者だ」
ユキが色々分析するなか、ナゴムはもうすぐ始まる試合に、少し興味を持っているようだ。
確かにこの時期まで、強い選手を隠す理由は解らない。まあモニターに注目だ。試合開始。チームアローが、連携を高めるためパス回しを始めた。そこでアローは、チームメイトから強引にボールを奪う。
「このチームはオレだけでいい。一人でどんなヤツも葬り去る!」
アローはそうつぶやく。
そして、ドリブルを開始する。そして、ミドルシュート! ボールはゴールし凄まじく突き刺さる。一瞬、何が起きたか解らなかった。一対ゼロでチームアローが先制だ。連携無しであの強さか……。
今度は、ガイコツが連携を絡めた驚異のシュートを放つ。ボールは凄まじいスピードで飛んでいく。アローはそれをブロックどころか打ち返す。あり得ない! ボールは、ゴールの中へ飛び込む。二対ゼロ。僕達は、あまりの衝撃に言葉も出ない。
アローは一人でシュート、ドリブル、ディフェンスを行う。チームメイトとの力差が凄まじい。三点、四点。アローは、どんどんゴールを決め、相手を突き放していく。もう試合は決まったようなものだ。史上最高の選手が、データとはいえ全く歯が立たない。
アローは連携を許さない。チームメイトの連携さえも。一人で戦うアロー。けた違いの才能。まさに天才。チームガイコツはチームワークで戦っている。十五対ゼロ。チームアローが圧勝した。
誰もがこの事態に、どうしたらいいか解らないようだ。
「どんなループにもこんな選手いなかった。イレギュラーでも起きたというの? 主スターよ、何が起きている? 未来が見えないよ。今までなかったこの事態は、どうすればいいの?」
ユキは何か考え込んでいる。
「認めるかよ、チームメイトから無理矢理ボールを奪い、連携を全く使わず一人で勝つなど」
と、ナゴムが怒る。
林は言う。
「でも、勝ったのはチームアローだ」
「連サカをあざ笑っているのか!」
と青山。
「違う。アローはただのぼっちだ。天才的な能力を持つだけ。ヤツには僕と同じぼっちのオーラを感じる」
僕の言葉に、みんなあっさりと納得する。
彼はぼっちだったために、今まで試合に出してもらえなかったんだ。アローはそれでも一人で練習したのだろう。アローのパス能力もかなりある。ナゴム以外にも怒りを持つ者達がいた。サトルとワードは、アローに試合を申し込んだが、アローは断った。アローの次のターゲットは、データ管理システム・スターだ。
「その後にチームナゴムを破壊する!」
とアローは発言した。
アローは僕を仲間だと思っていたのかも知れない。ぼっちだったため実力が解らず、試合に出られない。そして、それに対して何も言えない。そしてズルズルいってしまう。僕もそれを知っているんだ。何が何だか解らない状態のまま僕達は日々戦っている。
そして、チームアローとチームスターの対決が放送されることになる。試合時間は五十分だ。アローが勝ってしまったらどうなる? みんなは解放され、コン王国の野望は阻止されることになるのだろうか? ユキは、今までにないパターンのため、成り行きがよく解らないらしい。
そして、試合が始まる。
「何故だ、何故こうなるんだよ! オレは連携に憧れてここにいる。なのに、何故こうなる……」
アローは何か言いながらも、ドリブル突破していく。多重の連携で戦うチームスターの選手達を、アローはあっさり抜いていった。そして、ミドルシュート! ゴールだ。一対ゼロ。
アローはこのままスターに勝ってしまうのか? これで終わるとは、とても思えないのだが……。僕はそう思ったが、アローは連携も使わずゴールを決め、同時にゴールを守る。試合は続いていく。六対ゼロ。チームアローの圧勝ムードだ。
残り十八分だ。決まったかな。アローが逃げ切ってお仕舞いかもな。しかし、アローは逃げ切る気もないようだ。更に得点を重ねる。更に突き放す。あのチームスターが赤子扱いだ。十二対ゼロ。チームアローの圧勝だ。これで、コン王国の野望は阻止されたのだろうか? どうなんだ、これは?
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