第10話 祈り

ナゴムが言う。

「誰だ? 練習場に勝手に入るな。つーか、ホシはやらん」

くっ、ナゴムはぼっちと聞いただけで、僕のことだと解るのだな。みんなもこちらを見ている。

「わたしは最高のパスを打てる。つまり、最強の連携はホシがいれば可能ということよ。そしてもう一人、それが可能な選手がこの辺にいるようね。ぼっち三人によるユメと世界をかけた戦いを前に、やっておきたいことがあるの」

「こっちが勝てば、最高のパスが得られるということか」

少女の言葉に青山が反応する。

さっきまで林と練習していたユキが、ズイッと出てきて言う。

「ヒカリ選手よね。予言者になれたんだね。あとみんな、安請け合いはしないこと。他のリーグ五位の実力者だよ」

「ユキ選手か。わたしは頭が良すぎる。つまり天才よ。予言者などではなーい。あと最高のパスは、ナゴムが時間をかければ、無理しなくても打てるようになるわね。そこでもっと凄いことがナゴムには眠るの」

「適当なことを言わないこと」

「いつか裏切り者になるのよね、ユキ選手」

ヒカリとユキがにらみあう。しかし、言っていることもよく解らない。僕はヒカリに尋ねる。

「何処が優勝だ?」

「ど、ど、何処。今から解析するわ。あと一年近くかかるようね」

「思いっきりボロが出たー」

と、みんな。本当に答えられなかったのか? それともまずい質問だったかな。

んっ、ヒカリ? 知っているのか、僕は……。いや、体の傷が頭へと向かう。そして、謎の映像が働く。映っているのは僕とユキ、そしてヒカリ。他のメンバーもいる。

「わたしはね、予言者になりたい。そしたら、スターの弱点だって解るかも」

この言葉はヒカリか。ここは何処だ?

僕達は何をしようとしている?

「そんなことしなくても、最強の連携があれば僕達は勝てるんだ! ヒカリのパスは、あのチームガイコツさえ上回った。この記憶は失う訳にはいかない」

「主スターの創造力は凄いよ。わたし達だけでもスターに頼んで、守って貰おうよ」

「僕は勝つ。約束する。みんなの記憶は託された。世界だって、コン王国の野望も阻止する。今、ループを断ち切るんだよ」

これは、僕とユキの会話だ。そしてこれがスターかよ。巨大なコンピュータに繋がれている沢山の本達。きっとこれがスターの正体だ。

どんなに伝えても伝わらない。青年スターはもう死んでいるんだよ。ただ、そのデータにはユメが記されている。理想のチーム。それはどんどん更新されていく。

「どうしても行くの、ホシ」

「当たり前だよ。覚悟は出来ている。僕達が負ける訳がない。試合時間五十分、戦い抜く」

そして、試合が始まる。理想のチームだけあって桁違いの強さだ。ガイコツに匹敵するような化け物ばかりで構築されたチームってかよ。

しかし、ヒカリからの鋭いパス。そのパスは雷のような僕のシュートへと変わる。時速二百キロは出てそうな勢いでボールは飛ぶ。凄まじいインパクト。僕の求めてきたシュートだ。この瞬間のために、僕はいるんだな。

チームスターのゴールに、最強の連携によるシュートが決まる。

「凄いよ、ホシ! 勝てるよ!」

と、ヒカリは大喜びだ。

「データ転送」

「何か言ったか、ユキ?」

僕の問いにユキは、何でもないと答えた。

二十分が経過した。最強の連携は凄まじく、三対ゼロだ。しかし、ここから悪夢が始まる。チームスターの連携が凄いことになっているぞ。

「あ……ああ」

みるみるうちにゴールを奪われる。残り二十分を切った。スコアーは、三対二だ。

さらに、予想だにしない連携サッカー! 三対四。逆転された。何が起きているというんだ?

「わたしはホシに忘れてほしくない。主スターよ、きさまは敵だー」

ユキがキレた。ものすごい勢いのパスが僕の方へ飛んできた。僕はそれに合わせてシュートを決める。

これで同点だな。

「何故? 何故ユキが最高のパスを打てるの? あなたは連携を記憶する者。スパイだったのね。許さない。わたしは予言する」

ヒカリさえもキレてしまった。

連携はこのチームにはもう存在しない。四対七。ループ世界は続いていく。この記憶は僕の心だけにしまっておこう。ユキは当然知っているだろうな。

「ホシ、体の傷? あなたは傷を残したんだね。その傷にわたしを刻んでくれた。わたしはもういいから、傷をしっかり治しなさいよ」

「ああ」

ユキと僕の絆。それはもう止まることはない。そのはずだ。

「ユキは知っているのね。わたしも知っているわ。最強の連携以上のものは、ナゴムのホシを中心とした連サカの真髄」

そうか、ヒカリの言っているのは、急激にナゴムとの連携値が高まり始めた時のこと。心は近づき体は離れていった。ユキはその完成形を見たことがあると、かつて言った。何処で? 何時? ナゴムしか出せない力。そんなものをユキは何時見たと言うんだ。

反発する力は何時生まれる? そしてユキは、最高のパスを今出すことが可能ということ。主スターに止められている。基本的にユキはスターに従う。ユキは、僕達とスターを天秤にかけ、未だ答を出せないでいるようだ。

しかし、ユキが敵になることなどあり得ない。僕は断言出来るぞ。

「試合などする気はない。こちらに何のメリットがある?」

「そうね。木の靴をタダで作ってあげるわ。実際に作るのは職人の父だけど……。それにぼっちホシは借りるだけよ」

ナゴムの言葉にヒカリはよく解らない返事をする。

木の靴って何だよ? 何の役にたつのだ? 修行っすか? あっと、ぼっちと言うな。どうするかな。

「ユキはどう思う?」

「今までなかった展開だよ。予言されちゃう」

大した答は得られなかったようだ。キャプテンはナゴムだよ。キャプテンの答え次第。僕はかされてしまうとどうなんの? ヒカリもかなり強力な選手のはず。絶対に勝てる保証は全くない。

「最強チームが逃げるのね」

「くっ、そこまで言うならやってやる。しかし、ホシは守る」

「そうこないとね」

ナゴムがあっさり挑発に乗ってしまった。

ユキが言う。

「ナゴム……。キャプテンはユキにしない?」

「しない」

ユキの冗談というかあきれに、ナゴムは真剣に答えた。

まあ、いくらヒカリが最高のパスを使えても、僕のスキルが無ければ力は発揮しきれない。チームスターに勝つためには、それ以上のものが必要らしい。

何回かは知らないが、凄い回数ループしてるんだろ。それを止めるにはそれだけのもの、僕とナゴムの何かが必要か。

「絶対勝つよ、ホシ。完成形を見たこと正直に言うと、ホシとナゴムじゃないんだ。スターの理想を見せられただけ。つまり、スターは完成形を持っているってこと。いざとなればチームスターは無敵だよ。だからループし続けた。ホシとナゴムは、ううんこの八人のチームは、凄いことやっちゃうかもって、期待している。何故なら、ホシは託され続けたんだから」

「そうか」

ユキの言葉は弾んでいた。

僕には見える。僕もナゴムも大したことは出来ないことがな。だから、一人では勝てない最強チームをナゴムは目指しているのだろう。ヒカリが今何を思おうと、予言でも天才でも容赦しない。誰も欠けることない最強チームのためだ。

「ホシ、いい面じゃない」

ヒカリはそう言った。感情は読み取れない。

「いくよー」

ピー。チームナゴムとチームヒカリの試合が始まる。青山から赤山へのパス。敵は当然読んでいる。そして当然それは防げない。パス練習に加え、二人の連携に磨きがかかっているからだ。暫く二人でパスを繰り返す。ヒカリほどの選手でも止められない連携のパワーだ。

ナゴムへとパスは渡る。行け! ナゴム。

「しまった。クセが出ちまった」

絶好のシュートチャンスに、ナゴムはユキにパスしてしまう。何やってんだ。このクセは、治るのに時間がかかるかもしれない。ユキのシュートは惜しくもゴールポストだ。

ヒカリがボールをパスで散らす。ヒカリはアタッカーではない。シュート力はそこそこあるのは認めるけどね。最高のパス……ワードのものとは大分印象が違う。ヒカリのパスはワードよりソフトな印象を受ける。その選手に合わせたパスこそが最高ということか。

チームスターに勝てないまでも、最強の連携はチーム力と底上げになるだろう。ナゴム、パスに捕らわれない程度に研究しておけよっと。僕達は連携を止めることは出来ない。

「ちっ」

と、相手の選手。赤山が完全ではないが、シュートブロックを成功させた。ボールは林の腕の中だ。

残り十八分。まだまだ続くな。ナゴムとの強力なパス回しを行った後、僕はドリブル突破を行う。ナゴムの力が宿ったボールだ。重いぞ! そこへヒカリが立ち塞がる。僕は相手が女性選手であろうが、ドリブルでぶっ飛ばす。よし、抜いた! 審判は、ファールにするか悩んだようだが、笛を鳴らさなかった。

集中力は高まる。もう一人抜け! そして抜いた。強力なインパクトを足に残して、ヘルシュートは飛んでいく。キーパーは止められない。一対ゼロだ。しかしすぐに、ヒカリのパスからシュートが生まれる。同点かよ。林よ、気を抜くな。

あと十分か。次が勝負だな。行け、ユキ! ユキが一人抜く。ヒカリが近づく。ユキはバックパス。ボールは赤山へ。青山を経て、連携の力が再び宿る。

僕の決断力は上がった。これはいいことだ。よく考えていないだけ、という噂もある。一人抜いた。もう十分だよ。いけー、ヘルシュート! げっ、ヒカリがブロックに出る。練習試合でそこまで本気になるのか!

かすった。僅かだがパワーは殺される。決まってくれ! ところで、ドローだった場合、どうなるんだ? まあいい。ボールはキーパーが弾いた。しかしゴール方向。青山がゴール前へ詰めている。決まった! 二対一だね。

しかし、さっきの林を見ていると、安心出来ない。残り六分は、パス回しでの逃げ切りは難しい。しかし、得点チャンスはそう多くはないだろう。後はみんなに任せる。行こう、勝利の道へ!

もう少しでホイッスルが鳴るはず。逃げ切ったか。ヒカリが強引にシュートを打った。しかし、連携が足りず林でも止められる。そして、試合は終了する。僕達の勝ちだが、そこまでは嬉しくない。それは、公式の試合ではないからか。それとも、ヒカリが少し悔しがっているから?

ヒカリがユキに近づく。

「わたしは、ホシのチームじゃなかった時点で脇役よ。でもそれでは悔しくて、一回勝ってやりたかった。オーダーここね。記憶を残すこと祈りを送るわ」

「不吉だね」

「褒めてくれてありがとう」

ユキは顔が少しひきつっていた。祈りが何時か本物になるように。僕も祈りを捧げた。








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