第9話 伝説の怪物
ワードとサトルが一言かわす。
「イラついているようだな、ワード」
「ふん。これぐらいで心を乱すようなら、ここには立っていない」
残り十三分。時間はどんどん過ぎていく。チームサトルもチームワードも意地を見せ、試合は大きくは動かない。
残り八分。まだ得点を狙える時間だ。ゴールネットを揺らすのはどっちだ。ワードはエントツに頼りきらない。チームサトルはサトルに全てを託す。プライドをかけた一戦……。
残り三分。同点のままだ。おいおい、このままドローはつまらないぞ。
「行けー、エントツ! 最高のパスを送る」
「言われなくてもやってやるさ」
ワードとエントツのコンタクト。
「くっ、しまった。これで決まる! いや、キーパー、止めてくれー!」
と、サトルは叫ぶ!
ボールの行方はどうなった? キーパーは届きそうにない。しかし、キーパーはサトルの言葉で気合いが入っているようだ。
「決まれー」
ワードとエントツが祈る。しかし、ギリギリのところでキーパーはボールを弾く。
そして、試合終了の笛が鳴る。一対一のドローだ。
ワードは言う。
「エントツはよくやったよ。一点はおまえが決めた」
「いや、いい。もし俺でなくホシなら決めたのか? 最高のパスを俺は活かせなかった」
「なっ! ここでその話しか、参ったな」
ワードとエントツは短い会話を交わし、離れていく。
「ふん!」
とサトルは言い、ワードに触れずチームメイトの元へ歩いていく。
その時だった。 場内に凄い歓声が巻き起こる。この試合ではない。他の競技場の試合が、スクリーンに写し出されている。トーナメントの決勝戦だ。戦っているのは、チームサイとチームガイコツだと! 評価百七十九。史上最強と謳われる怪物ガイコツだ。
スターはこんなヤツのデータまで使ってくるのか。
「死んだデータだよ。主スターよ、またこのなの」
と、ユキは震えている。このパターン? まさかスターが何か大きなことをしようとしているのか? 僕はそれと向き合わなければならないのか……。
よく見ると、二対二の同点で、残り五分を切っている。伝説の怪物も所詮データか。それとも、サイとフルはやはり凄く強いということかもな。
しかし、僕達はここから信じられないかのを見る。
「俺はどうなっている? 俺は何者なんだ?」
ガイコツが何か言っている。そして、フルの最強ドリブルをガイコツは止める。 そしてロングシュート! 連携なしで、このスピードかよ! ボールはゴールに突き刺さる。三対二だ。その後ガイコツは、サイのエントツクラスの強力なシュートをトラップしてしまう。こうなると、チームサイの戦意は完全に失われてしまった。
ガイコツは辺りを確かめ、連携を少し繰り返す。今度は、連携の力がのったさらに強力なシュート。ガイコツを止められる選手は、もういない。四対二。残り三十秒。ガイコツのダメ押しのシュートがネットを揺らす。五対二だ。
こいつ本当に、パワーダウンした死んだデータなのかよ? 会場は言葉を失っている。そして数分が経過する。そして、今気づいたかのような大歓声が巻き起こる。約四十年前の史上最強の怪物は、残り五分で覚醒した。
こんなのに勝てるヤツはいるのか? 勝てるチームはあるのか? コピー選手達はトーナメントにしか出現しない。今後、チームガイコツの出るトーナメントに登録する命知らずのチームはあるんだろうか。凄まじいスター選手の復活だ。
サトルとワードは、同時に口を開く。
「ホシがいれば楽勝だ」
それは大きな声で、僕にも聞こえてきた。マジで? 僕はそんなに凄くない……。
「勝ってやる。最強のチームは俺達だ。そのためにも、最高のパスを習得する。ホシは譲らない!」
「当たり前だよ」
ナゴムの言葉に、チームは一丸となる。僕は、そんなに持ち上げられても困るんだけどな。チームのモチベーションになるのならいいかもね。
僕達は、すぐに練習場に戻る。みんな熱くなっているようだ。最弱クラスのチームナゴムが、ここまで成長した。ならば、トップを取りたいという欲は出てくるだろう。ナゴムは、昔からそうだったな。
青山と赤山は、パスのキレを確かめる。
「俺達は諦めない。俺は諦めかけたこともあったな」
と、青山は空を仰ぐ。僕はもっと連携値を上げたい。このチームで勝ちたいんだ。何故かそう思う自分がいる。
ナゴムは試合でガンガンパスをする。決定的な場面で、シュートよりパスを選択したこともあったな。重症だよ。僕を守るために、ナゴムは戦う。僕は嬉しい半面、ナゴムが潰れるのではないかと恐怖している。パスに執着し過ぎて、チームのことに目がいかなくなりつつあるナゴム。
パスは連携の基本だ。しかし、人自体が見えていないなら意味はない。
「みんなパスばかりだな。俺にも練習させろよ」
と、キーパー林が愚痴る。
「しょうがないキーパーさんだね。わたしが必殺シュートを打つのだ」
「うん、そのパターンは飽きたな」
ユキと林のやり取りは大して変わらない。誰もチームガイコツを止めることは出来なかった。ここで一年が経過したことになる。
システムのメンテナンスのため、二ヶ月間試合はない。僕達も他のチームと同様、練習を続けることになるだろう。
そして、一週間が過ぎた。パスの練習ばかりを続けていたぞ。青山と赤山は、自分の悪いところもチェックしながら、ナゴムをパサーへと導く。ところでさあ、最高のパスって何? 条件は何だろうな。
「俺は最高のパスにどれだけ近づけた?」
と、ナゴムも疑問を持ったらしい。
「さあ、パスが最高になればいいんじゃない」
と、赤山が適当なことを言う。合っているかもしれないけどな。
ユキと林のバトルは白熱しているな。
「そんなもの覚えても意味はないわよ。ねえ、わたし達と試合をしましょう。わたし達が勝ったら、そのぼっちを借りるわ」
長い黒髪の少女は、何故かこの場に訪れた。
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