第8話 最高のパス
チームワードといえば、リーグトップの勝星を誇る。いろんなトーナメントにも積極的に参加していて、そのほとんどで優勝している。そして、ナンバー二のエントツも凄い実力を持つ点取り屋だ。
ワードそのものは、パスに特化しつつも、他のパラメータも相当高い。チームサトルがリーグ二位だが、近々ワードと対決だ。で、ワードは今ごろ何をしに来たんだよ。
ワードがナゴムに言う。
「ナゴム、うちのナンバー二・エントツとホシのトレードを要求する。エントツもトップを狙っている。彼の同意は得ているぞ。乗り気だ。かなりいい条件だと思う」
「断る!」
ワードの予想外の目的に驚いたが、ナゴムは冷静にそして強い調子で断った。
「何だと。この程度の環境で練習しているから、ホシほどの選手が開花しない!」
「くっ」
「ホシはナゴムには過ぎたる者だ」
ワードがそれほど僕を欲しがる理由は何だ? ナゴムが断ってくれたのはとても嬉しい。しかし、僕よりエントツの方がはるかに優秀だぞ。ワードがいるから目立たないが、トップクラスの実力だ。
ワードが言うとおり、条件はかなりいい。
「さっさと帰りやがれ、しつこいんだよ」
「これは譲れないな」
ナゴムとワードが言い争っている。何故こんなことになっているんだ。僕の意思はどうなっている?
その時、ユキが口をはさむ。
「ワード、最強の連携が目的だね」
「何っ、これに気づいているのは俺とサトル、そしてナゴムだけだと思っていたんだが、もう一人いたか!」
ワードが驚いている。
「最強の連携? 何それ?」
「ナゴムよ、知らなかったのか。なら何故ホシにこだわる⁉」
「そんなもの無くとも、ホシはエントツ以上だ。というか、ワード、きさま以上だ!」
何か話がややこしくなっている。整理しよう。どうやら僕は、強力な特殊スキルを持っているらしい。それだけか……。
ワードは言う。
「ホシよ、俺のところへ来い。俺は最高のパスを用意出来る。最高の連携の発動条件の一つだ。それは、ホシが求めてやまない最強のシュートを生む。生粋のパサーではないナゴムには不可能だ。どうだ?」
「くっ、どうすればいいんだ」
「ホシ、冷静になれ。頼むから揺れないで!」
とナゴム。
「そうだ! 断る」
危なかった……。ナゴムの説得がなかったら、僕は戻って来れなかったかもしれない。
しかし、僕は何故チームナゴムにこだわるのだろう? ナゴムは何故、僕を必要としてくれているのだろう? ナゴムは僕を一人にしなかったから? だったら、ワードに先に僕を見出だしてくれたのなら、ついて行ったか? ここは、一応プロの世界という設定だ。仲良しごっこだけでは成り立たないもまあ、仲良しは連携値と大きく関わるけどね。
ワードが言う。
「今日のところは帰ってやるよ。俺の活躍を見て決めろ、ホシ!」
「何でそんなに偉そうぶるんだよ」
去っていくワードの背中に、ナゴムがつぶやく。
「しかしナゴムはパサーの素質はあるぜ」
「俺達が徹底して教えてもいい」
「本当か。有難い」
青山と赤山兄弟の言葉に、ナゴムは食い付く。
そして、僕はユキに疑問をぶつける。
「最強の連携とは、どうしても必要なものなのか? それをもってしてもスターの創造力には勝てなかったんだろ?」
「そうね。最強の連携は、最低条件だね。それ以上のものが必要かも……」
と、ユキはさらにハードルを上げる。
どうなるんだよ、これは。
「青山、赤山、頼む。俺は最強チームを作るんだ」
と、ナゴムの特訓が始まった。
そして次の日、モニター内に一つ、試合の模様が映し出される。トーナメントの決勝戦だ。チームワードとチームポットンの対決。試合は終盤に入っている。得点は四対一で、チームワードが圧倒している。さらに、止めの一撃がワードから放たれた。五対一だ。
ワードが映し出される。
「評価百四十、歴代八位の伝説の選手ポットンのコピーとやらも、こんなものか」
ナゴムがモニターのスイッチを切りながら言う。
「ワードめ、最後に決めただけだろ。ハットトリックはエントツじゃねえか」
確かにそうなんだが、ワードなしで勝てる相手ではなかった。ワードは連携ディフェンスにも大きく貢献していたぞ。そして、何と言っても驚異の精度を誇るパス。MVPは間違いなくワードだ。
そして、ナゴムの特訓は続く。ナゴムはチームのためと言っているが、実は僕のためなんだよな。僕もみんなと連携を高めるため、パス練習に参加している。よく考えたら、青山も赤山も最高のパスは出せないよね。この特訓効果はどれほどだ?
そして、遂にチームサトルとチームワードの対決だ。僕達は、息抜きも兼ねて観戦することになった。
「ケリをつけようぜ。ホシは俺がいただく」
「無理矢理引き抜こうとはな。俺はお日さまだ」
サトルとワードが、何か会話をしているようだ。
「ふん、キサマは最高のパスを、まだ打てない! サトルよ、先に動ける方が勝つ。動けないだけなのだろう?」
「試してみるか? この試合で終わらせる!」
サトルとワードはにらみあう。火花が散っていそうだ。
それをエントツが見ている。無表情だ。エントツはトレードに出されたが、何を思う?
「試合が始まるぞ、ワード! 俺は手を抜かない、何処のフィールドでもな」
エントツはサトルに何かを伝えたようだ。何だろう?
それを試合が始まる。ワードのパスは、思わず見とれるほど綺麗でキレもある。それでも、サトルの包囲網を突破出来ない。サトルの連携は凄いな。みんなから信頼されているのが、解るような気がする。
サトルもワードも生粋の点取屋ではない。強いチーム相手では、個人技だけではこの二人をもってしても通用しない。
七分経過。今だ試合は動かない。どうなるんだ? いい試合なのだが、点が全然入らないと見ている方は少し退屈だ。今のところ互角と見ていいだろう。
ワードはパスを散らす。ここぞという連携が高まったところで、ボールはエントツへ。サトルがリーダーシップを発揮する。
「キーパー! 他のヤツらも警戒だ」
次の瞬間、サトルは肩を落とす。
「遅かったか……」
だが、すぐにいつもの強気なサトルに戻る。エントツの強力なシュートがゴールに突き刺さる。
「どうだ、サトル」
「ワード、キサマが決めたのではない」
ワードがサトルを挑発したようだ。
このままチームワードが逃げ切るのか? それともチームサトルが意地を見せるか? 目が離せなくなってきた。十二分経過。チームサトルにもまだチャンスが有りそうな時間だ。しかし、ワードに突き放されると厳しいだろう。
エントツも激しく動く。パスの力が凄いだけに、ボールはエントツにかなり集中しているぞ。スタミナはまだ残っているのか……。シュートはぶれない。しかし、チームサトルのキーパーもかなりやる。サトルとの連携も凄い。
ここで、サトルのドリブル突破だ。しかし、サトルはすぐ退く。パスか? いや、ワンツーパスだ。さらに連携を高めたサトルのシュートが火をふく。比喩だからね、燃えてないよ。
「ちっ」
とワード。チームワードのキーパーは、そのシュートを止めることが出来なかった。これで、一対一の同点だ。どうなる。
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