第7話 言葉は何処へ消えゆく

相手側ボールが続くが、失点はない。急がなくては、こちらの負けだ。

「もう一点取って終わりだよ」

と、相手選手の動きにも気合いが入っている。そして、フルにボールが渡る。危険だ! 今日は、このパターンにかなり苦しめられている。フルは、どんどんわが味方を抜いていく。やはりサイがシュートを打つ。何っ! 林が止めただと。よくやったぞ、おっさん。

残り四分。連携を考えると、残されたチャンスは少ない。パス回しによる連携強化。そして、チームサイの追加点は何としても止める、という気迫。

僕にボールが来た。アタッカーは僕だ。

「まずいぞ」

とサイが叫ぶ。二人抜いた。ここでシュートだ。決まってくれ! あれ? 体がいうことをきいてくれない。シュートを打つんだよ。しかし僕はその場に倒れた。

「どうしたってんだ?」

僕は意識を保つのもつらい。

一対二で、結局破れた‼そのコールは聞こえた。

「大丈夫か、ホシ?」

「僕のせいで負けた、すまない」

「こんな時に気にするなよ」

と、ナゴムが心配してくれる。僕はもう、ぼっちではないのかも知れない。

フルが近づいてきて、僕に声をかける。

「これはシステム障害を起こしている。こんな状態で戦っていたのか……」

「そんなに酷いの?」

と、ユキが少し取り乱して聞く。

「しばらく休んだ方がいい。直ぐにとはいかなくても治る。大したことはない」

とフルが言った時、僕は気を失ったらしい。

あれー? 僕がたくさんいるぞ。僕ってこんな声だっけ?

「僕達は、ホシという名の体の傷だ」

「はあ? 夢でもみてんのか?」

「残念ながら現実だ」

他の僕が言う。

「もうユキを苦しめたくはない。あいつは何度も僕を受け入れた」

僕は問う。

「何故ユキが関係する?」

傷達が言う。

「恋人だったからだよ」

「はあ? なに訳の解らないことを言っている!」

と、僕は叫ぶ。

「僕達は何度もスターの創造チームに挑んだ。ナゴム、サトル、ワード、林、ヒカリなどなど。パートナーは変わっても、最強の連携をもってスターに挑み、全て敗れた。データ管理システム・スターを破れば、この世界すなわちゲーム世界は壊れる。記憶は保たれるということだ。今までは、僕達みんな記憶を消されていた」

「心を操ったってことかよ……」

と、僕はもう投げやりだ。

「そんなに難しいことじゃない。データを消すだけだ。記憶も蓄積された能力も消える。ユキだけはスターに守られる。このゲーム世界は、町を含めデータで出来ている。スターが存在する限り、コン王国の技術は上がり続ける。そして兵器、つまり戦争の道具に使われる。中級の国力を持ったコン王国は、その兵器を使い、勢力を高めている。僕達はループし続けているのだ。僕達はスターに勝利すると、何度もユキと約束した。僕達ホシという存在は保たれる嘘をつき続けているんだよ。僕達の言葉は、ユキにとってもう軽いもの。嘘の塊だ。そして、ユキの言葉はさまよい続ける。行き場を無くする。どんな想いも消え去る。ユキは僕達なんかより、ずっと苦しみ続けているんだよ」

「ユキの言葉……」

僕はどうなっている? 頭はしっかりしている。これはユメ落ちではない。

「そうだ。記憶を無くした僕達に、何度も繰り返した言葉達。僕達はスターが敗れた時、完全に消え去る。ホシという存在への言葉は、完全に消え去るんだ。喜びも悲しみも二人で解決した悩み達も消える。ケリをつけろ、ホシ!」

「何でだよ。何で僕なんだ? 僕はただのぼっちだ。元の世界に戻っても、いいことなんかない。ゲーム世界は天国さ。ふざけんなよ」

「後悔するなよ」

冷たい言葉達が僕に突き刺さる。

ユキは何を見ている? スターが生んだシステムユキ。何故僕を選んだ? 僕はユキに特別な感情など抱いてはいない。んっ、どうやらシステム障害とやらが回復したらしい。真っ先にユキの声がとんでくる。

「二度と会えなくなると思ったよー。何度でも会えたから。わたしは何度でもホシを信じるから。もう会えないのは嫌。あとこれ」

そして手にしていた物を差し出す。

「んっ、親子丼か……。確かに腹は減っているな。カタログメニューのうちでも、かなり高いやつじゃないか。いいのか?」

「問題なし。これは、わたしが登録したやつだから無料だよ」

「えっ」

ユキは料理ができたどころか、トップクラスじゃないか。こいつ、金持っているぞ。

それにしても、ユキは何度でも信じるのか。僕に出来ることなどないというのに……。

「ホシ、もう動けるのか? 最強チームには、どうしてもお前が必要なんだ。ここで無理をしてはダメだぞ」

「ナゴム、僕がやはり必要か? 心配するなって。僕がいくらでも点を取ってやるよ」

「やっぱりナゴムは、わたしのライバルだー!」

よく解らないことになっている。

次の試合は、久しぶりにスタメンをホラーに奪われた。僕はやれると言ったんだが、ナゴムに止められてしまった。この試合は、結局三対二で勝利した。格下相手に相当苦戦していた。ナゴムよ、僕のパワーを思い知ったか! 僕がいなければ、このチームは最強にはなれないのさ。ナゴムはもちろん僕の状態を心配してくれたんだろうけど。

そして数日後、僕はユキにドリブルの練習に付き合ってもらっていた。

「なあユキ、かつての僕は何か変なことを言っていたか?」

「そうだね。ユキは命に代えても守るとか、悩みは二人で分ち合おうとか、苦しい時はとんでいくから何時でも連絡してくれ、とか……」

「もういい。でもそれ今も有功なのか?」

「信じているよ、ホシ。でも、いつの間にか素っ気なくなってたよね」

「そうか……」

僕は何て恥ずかしいことを言っていたんだ。今の僕には信じられない。

よし! ドリブル練習再開だ。僕は色々なドリブルを試す。ゲームなんだから、確率しかないだろうけど。そして、かつて言ったことなど忘れてしまえ!

……わたしはユキだよ。ホシの視点ばかりではつまらないよ。美少女ユキに任せてね。わたしはユメをみていた。主スターの作り上げた連携のパターン。そして、チームメイト達の騒がしさで目を覚ます。ナゴムがキャプテンなら、わたしは監督ってところかなあ。

わたしは、連携を記憶するために作られたシステム兵器。何度のループ世界に踊らされただろう? いつ誰がどのチームにいたかは、八割方覚えているぐらい。記憶の強さがユキちゃんを苦しめるのだ。主スターに勝つことは救いなの? 従うことが救いなの? ホシは何度もわたしの想いに応え、恋人になってくれた。

でも、一人一人同じ素材でも、違う存在なんだ。ほとんどぼっちのホシは、デートになんて誘ってくれなかったね。でも、できる限りそばにいてくれた。ホシと林とサトル、このパターンの時は、林とサトルがノリノリで、デートスポットをホシに叩き込んでた。でもやっぱりホシはぼっちで上手くいかなかったな。

ホシは林とサトルともすごく仲が良く、恋人のわたしを放置していた。

「何故睨む?」

と、林は言う。

「何でもないよーだ」

と私は今もトラウマ。今度のパターンで怖いのは、林よりナゴムだ。油断できない。敵チームのワードになびくことがあるかも。

同じチームの時の二人の勇姿は格好良かったね。ねえホシ、伝えてもいい? わたしが今すごく苦しいことを。ホシは現れる度に違う魅力を持っていたよね。ホシという存在を知れば知るほど、わたしはあなたをコントロールしてしまう。知っているから、今度はもっと上手くやろうって思っちゃうんだ。何故なら、ホシの魅力をもっと知りたいから。

本来許されないこと。だからわたしは『最後のホシ』を求めて苦しむ。ホシとわたしは、ループしなければ、どんな大人になるのか。知りたいよ。それだけホシの数だけわたしは魅力を求め、叶わなかった魅力達も、本来ホシが持っている『可能性のツバサ』のひとつずつだよ。

今日も、ホシとナゴムの連携値は上がり続ける。これはまた厄介だけど、一つの可能性ってことね。だからわたしは、『現在のホシ』の未来を祈る。祈り続けたいんだよ。黒い心になっていくわたしを解放して下さい。ホシなら出来るってわたしは言いたい。

だけど今回は違うんだ。わたしとホシは、いくつもの言葉を交わしてきた。ループする度にホシは、死物狂いで自らに傷を作ってきた。言葉はその傷一つ一つに思い出があって、違うもので……。わたし達がループから抜け出せたのなら、言葉はさ迷う。だって、相手がいないんだもの。その言葉達は、風に舞い消えるのだろうか? 傷が治っちゃうってこと。だけどわたしは、ホシに傷を治してもらいたいんだ。悲しいことだよねえ。

でもわたしは、言えなかったことが今回言えるかも知れないって思ってる。それは、ループ世界が終わり、時が再び動き、大人になったわたしとホシの二人に向けて。『やっと会えたね』って言ってやるんだ。それだけの長い日々だった。

……んっ、広場がなんか騒がしいな。何かあったのか? 僕は急いで広場へと向かう。ユキも僕の後を追う。あれはワードなのか? 何故、最強クラスの選手がこんなところへ来るんだ! とりあえず行ってみよう。

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