第6話 死んだデータ

クロキ戦から更に一ヶ月以上が経過した。勝率は、最近だと六割を越え、僕達の成長が実感出来る。しかし、他のチームも成長しているのは当然だ。僕達は、それを上回った成長力を示したということだ。チームクロキに勝ってしまったので、マークがきつくなったとは言える。

ナゴムは最近輝いている。かつては遥か遠くに見えていた、最強チームになるというユメ。今は少し近づいた。だが、本当の強さはまだはるか遠くなのだろう。視界に映り続けなければ、崩れ落ちそうな予感がする。そのためにも、僕は力になりたい。最強のシュートも一点しか入らないんだ。

でも、それが僕のユメだ。チームメイトと自分自身のユメは、どちらが大切なのか? 僕はやはりドリブル中心の練習をやってきた。ユメはナゴムにライバル宣言をした。ユキが今何を思い求めているのかは解らない。知りたいような知ってはいけないような複雑な心境だ。とにかく、ユキが前向きになったのはいいことだと思う。

ちょうどその頃、高レベルのトーナメント戦の決勝戦が行われていた。場所は、そのモニター内へと移る。

チームサイとチームブレイクが戦っている。サイとフルの会話。

「一対二か。俺達はここで負けるわけにはいかない。フル、いけるか!」

「ああ、だがブレイクとかいう女性選手の名は聞いたことがない。何者なんだよ? こちらが劣勢になるとは……」

「サトルにリベンジしないといけないんだ。俺達は最強コンビだ」

突如現れた女性選手ブレイク。ドリブル、シュート共にかなりの高レベルだ。そしてパスも出来る。しかし、サイとフルには人形のように見えていた。感情が人間とは異なるように……。

試合時間は十分を切った。ブレイクは、不安定な動きへと変わる。ブレイクは、高いメンタルでスタミナ切れをカバーする。

「こいつ、かなりのメンタルもあるのか?

しかし不自然だ。いくなら今だ 」

「おうよ」

フルの気合いにチームサイは一丸となる。

チームサイは、三対二で逆転勝利し、優勝を飾る。

「かなり不気味なチームだった。チームナゴムとの試合も近づいている」

「ああ、サトルが最も警戒している選手がホシだ。ドリブルが得意だったな。それほどの選手とは思わないが、あのサトルと言葉がある」

チームサイは、もう次に目を向けている。

そして場所は、ホシのところへ戻る。僕の問いにナゴムが答える。

「チームサイが苦戦するとは、ブレイクは何者だ?」

「しらん。というか、チームサイとの対決が近い」

ナゴムはブレイクが気にならないのだろうか? まあ、負けたチームだけどね。しかし、もしかしたらチームサイが負けるのではないかと思ったほどだった。他のメンバーも、ブレイクの情報は持っていないようだ。

そういう話になっている時、ユキが呆れた様子で言う。

「みんな、本当に気付かないの? かつての名選手女王ブレイク」

「あのブレイクか!」

「確か女性では歴代最強の選手……。得点王争いにも絡んだという」

「かつて、ゲームでよく出てきた。条件を開放しないと出て来ないレア選手」

と、みんなが口々に言う。

あのブレイクか。それなら強くて当たり前だ。しかし、チームサイはそれを打ち破った。しかし、すっきりしないぞ。女王ブレイクはとっくの昔に死んでいる古い選手だ。何が起きている?

ユキが難しい顔をして言う。

「本物のブレイクだったら、チームサイは勝てたかどうか解らない。わたしの主スターのデータだよ。スターのデータは完璧じゃない。いくらスターのデータが凄いと言ってもね。彼女のメンタルは高く設定されているよ。でもスターは、ブレイクが何を想い戦って、高いメンタルを維持したかは知らない。そんなの死んだデータだね。また始めてしまったの、スター? 今回もやってしまうの?

あなたの主はコン王国に利用されるだけ? 今後もこういった伝説の選手の復活はありえるね。わたしはどうなるか解らない…… 」

まあ、プロの選手ということは、こういうことに使われるのは覚悟していたに違いない。僕はこのことをどう思う? 釈然としないか。チームメイト達もすっきりしないようだ。データ管理システム・スターが未だにユメを見ているということか。最強クラスの伝説の選手達がパワーダウンして、みんなの前に現れる。スポーツだった頃の選手だ。もし存在し、その有様を見たらどう思う?

ナゴムは言う。

「全部たおして、俺は最強になる。データだろうがゲーマーの超人化でもな。チームサイは強い。とりあえず、そっちに集中だ。ホシとの連携はどう使うか。まあ、 頼りにしているぜ」

「ああ」

彼は現実を見ている。そんな言葉だった。まあ、ここはゲームの世界だけど。

ユキが謎の気合いを入れる。

「ナゴム、ホシとの連携はわたしの方が上なんだからね」

ライバルと見ているのは本当らしい。何がユキを変えたのだろう? サイとフルのコンビは厄介だろう。中心選手が二人いるチームとは、対戦経験が少ない。ここを勝てれば、僕達の大きな自信となるだろう。落としたくない。

チームサイとの対決は近づいていく。チームサイに勝てたとしても、一勝分にしかならない。他の試合を落としては意味がない。今、チームは安定している。というか、相手が悪すぎるだけだ。

そしてチームの作戦会議。チームサイはかなり攻撃的なチーム。サイとフルが中心となっている。かなり厄介だよ。サイはシュート役だが、他のプレーも出来ないことはない。一方、フルのドリブルは現在トップの実力と言われる。スピードを生かしたものだ。他の能力も高く、特にディフェンスが注目されている。そこから考えると、連携にはそれほど頼らないチームのようだ。

こんな感じでいいのかな。青山が言う。

「勝てる気がしねーよ!」

「同じく!」

と赤山も同調する。そして、林も頷いている。続いてユキが一気に話す。

「わたしも勝てる気がしない。でも、勝っても負けても全力を尽くすよ。この戦いをチームの肥やしにするんだ。フルにボールが渡れば、高確率でドリブルか、サイへのパスを行う。攻撃パターンの少ないチームだね。でも、それが解っていても、なかなか止められないってことよ。相手もそこに、かなりの自信を持っていそう。サイはともかく、フルは、わたしと同じく頭脳がある。パターンを意識しつつ真っ向勝負だね」

青山が質問する。

「つまり、大した策がないということか」

「うん、そうだね」

と、ユキはにこやかに頷く。林は肩を落としている。

「知的に勝つのもいいが、こういう相手も燃える。それだけ隙の少ないチームに勝てば、最強チームのユメも近づく」

と、ナゴムは燃えている。

僕も勝ちたい。凄いシュートも打てればいいのだが、そこにばかり集中出来る相手ではない。ユキも分が悪いと見るか、当然だけど……。

試合当日にあっさりなってしまった。開始時間も近づいている。サイとフルがこちらを見ている。僕に何か関心があるのか? 彼らに何もやった覚えはない。サイとフルは、僕について話しているようだ。

「あれが、サトルの警戒するホシか。大したことないんじゃないか」

「サイ、今ヤツを潰しておかないと、後悔するかもな」

「どういうことだ、フル?」

「ヤツはまだかなり未完成な感じを受ける。見ただけでは確信はないがな」

「そうか……」

あのサトルが僕を警戒している? 伸びしろがありそう? 二人は僕を褒めているのか? それとも作戦か? サトルと僕の接点はない。気にすることはない。

「勝つ!」

ナゴムはいつも通り気合いを入れる。

試合開始だ。青山から赤山へ、そしてユキへボールが渡る。そして、僕へとボールが回ってきた。近頃ユキは、パスを僕によく送る。連携嫌いが少しはなおつたかな。僕はドリブルで一人抜いてからナゴムへパスを送る。ナゴムは、連携パワーが十分貯まったとみて、シュートを放つ。フルがカットしようとするが、止められない。しかし、シュートの勢いは殺されてしまった。そして、キーパーがらくらくキャッチする。

ボールはフルへ。一人、二人、いとも簡単に抜かれていく。最強のドリブルか。僕が何時か手にする称号だ。誰でもいいからフルを止めてくれ! ダメだ……ここまで来て、フルはサイへのパス。フルにもシュートはあるが、サイのそれは桁違いだ。サイのシュートをキーパー林が止められる訳がない。

ゼロ対一か。相手に先制を許してしまった。やはり、相手の方が強い。しかし、僕達は諦めない。

チームサイは連携にあまり頼らず、シュートをどんどん打ってきやがる。しかし、奇跡的に追加点を防いでいる。そして、僕にボールが来た。サイがこちらを見る。フルが近づいてくる。ヤツはディフェンス能力も高い。

行け、ヘルシュート! 僕はそれ以上のドリブルを諦め、シュートを打つ。キーパーがはじく。ボールの行方は何処だ? 赤山が詰めている。ボレーシュートは、またキーパーに弾かれる。フルがまたボールを持った。彼の大体のパターンは読める。解っているのに誰も止められない。

やはり最後にサイへボールは回される。もう無理だ。予想通り、林には止められない。ゼロ対二だよ。強すぎるぞ、チームサイ。試合時間のおよそ半分が経過したが、まだまだ試合はひっくり返せると信じたい。

ナゴムとユキのワンツーパスから青山へ。連携が足りないと見たのだろう。青山と赤山の連携値が相当高いことは、相手にも知られているはずだ。しかし、パスカットは届かない。ついに僕の出番だ。

目の前にはフルがいる。どうすんだよ。このチーム、よく出来てやがる。

「抜けー! シュートはまだだ」

ナゴムの檄がとぶ。それは僕への大きな力となる。僕は何とかフルを置き去りにした。

「フルが抜かれただと? ホシか……」

サイが驚いている。

僕には、それを相手にしている暇はない。ボールを奪いに、相手選手がどんどんやって来る。フルを抜いたんだ! 強気で行くぜ。さらに二人抜いた。いくぞ、ヘルシュート! 入れー、と僕は祈る。

僕のシュートをブロック出来る選手はいない。一点返したぞ。一対二だ。

「これ以上はやらない」

「ああ」

サイとフルが気を引き締める。残り時間は七分だ。逆転はきついかもしれない。せめてドローを狙う。






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