第5話 もう一度信じていいですか?

ユキは自らを、コン王国の野望を阻止するための連携を、記憶する者と名乗った。あの伝説の人物、スターと関係があるらしい。ユキはそれ以上語らなかった。何か続きがあったとしても、僕達は信じられないだろう。

あのシュートは、記憶された連携ということか? ユキは嫌いなものは連携と、かつて言っていた。僕はもう訳が解らない。ユキはとりあえず、いつものユキに戻った。迷惑かけたねー、とか言ってたよ。

クロキ戦まで、いよいよ後わずか。作戦会議が再び始まる。クロキのパススピードは速くて、連携が止めにくい。そして、相当な実力でバランス型だ。自らのゴール数には、それほどこだわらない。これでいいんだっけな。チームクロキは他のメンバーも要警戒か。

ここでユキが登場してもいいのだろうか。ユキは、試合に出ると言ってきかない。コウとホラーにも出番をやれよ、と言ってもダメだった。何が彼女をそうさせる? それほどのダメージではなかったのか。それは本人しか解らないのかも知れない。

ユキはひょっこり出てきて、言い切った。

「勝ちにいくよ」

「どうやって?」

とみんな。

「やはりわたしという頭脳がないと、このチームはダメダメ。チームユキにしてもいいぐらいよ」

と、ユキは元気さをアピールする。ナゴムは少し顔を歪めた。ユキは勝ちにいくと言っているが、勝てるとは言ってない。

ナゴムがユキに問う。

「確か決勝は四十分間の試合だったな。クロキがゴールにこだわらないなら、全員を注意しないといけないな」

「うん。試合時間はいつもより少し長いよ。スタミナ配分には気をつけること。あと、クロキがゴールにこだわらない理由は、ナゴムが言ったこと。それで負けたチームは多いんだ。そう、それでも起点になるのはクロキなんだよ。他のメンバーも実力あるから、ノーマークは無理だけど」

みんなはユキの意見にうなずいている。

パススピードの速さは、実戦あるのみか。ユキは最後に一言告げる。

「この試合では、ナゴムとホシの連携は期待出来ないよ」

期待出来ないのか。やめろと言っているわけではない。成功する見込みが、かなり低いということだな。しかも、失敗したら前のようになる。チームに迷惑をかけることになるってこった。完成形は必要なのだろうか?

そして試合当日。

「俺達より強いヤツは結構いる。サトル、サイ、フル、ワードなどだ。でも、最強の座を諦めはしない。そのためには、こんな大会ではつまずけない。気合いだ! 格下でも油断するな」

と、クロキが気合いを入れる。みんなは答える。

「おー」

チームクロキの気迫が伝わってくる。

「負けて当然。開き直れ!」

「そうだな」

と、青山と赤山。

「そう言ってくれると助かる」

と、林も弱気だ。

「優勝が目の前にあるんだ。勝つことが強さだ!」

「そうだね」

ナゴムの気合いの入った言葉に、ユキが首肯く。

そろそろ試合開始だ。そして、笛が鳴る。先ずは相手ボールだ。何っ! 聞いてはいたが、直に見ると凄い速さのパス回しだ。並のチームの三割増しくらいありそうだ。相手の連携に勢いをつけさせてはダメだ。

僕はパスカットを狙うが、相手のパスについていけない。クロキはチームプレイに徹するが、起点となるのはやはりクロキだ。クロキに多くのボールが回るはずだ。来た! 赤山はそのチャンスを見逃さない。ユキの作戦は結構効いている。

味方は軽くパスを回した後、僕にボールが来る。

「ヤツはドリブラーだ。つぶせ!」

と、クロキはメンバーに指示を出す。僕も少ないチャンスを潰す気はない。出鼻をくじかれたチームクロキ。動揺が見えるぜ。僕は、三人抜いた後ヘルシュートを放つ。チームメイトの期待の目と、僕の足に残るインパクトが心地いい。そして、シュートはゴールに突き刺さる。

やった! みんなの笑顔がうれしい。一人じゃないことを確認できる。

「先制か。プレッシャーをかけてくれる」

と、林にも力が入る。しかし、もうこの手は通用しにくいだろう。

今度はクロキがシュートを放つ。ゴールの外か? 助かったぜ。そして、こちらのボール。いつものように走り回るとスタミナが切れる。いつもより十分長い試合だからな。ナゴムと僕の連携は、上手くいっている。

「いつの間に連携値を上げたんだ」

相手チームのつぶやきが聞こえる。

しかし、これは直接 だと前と同じことになる気がする。しかし、恐れていては完成形とやらに近づけないだろう。だが、この試合を壊したくはない。しかし、わが方もなかなかシュートに持っていけない。その時ナゴムのシュートだ。しかし、外れる。そして相手のボール。パスのパターンをクロキは変えてくる。こちらはそれにまったく対応出来ない。

林は重圧を感じているようだ。

「何時シュートが来るか、ドキドキだぜ」

僕達がカバーしないといけない。クロキがドリブル突破にでた。ユキが抜かれる。しかし、青山と赤山もカバーしている。クロキは不利と見たのか、ボールを戻す。このあたりの機転は、僕も学ばなくてはなるまい。

一点差を守り切れるか? やはり、もう一点欲しい。当たり前すぎるが……。残り二十分を切った。明らかにバテている選手は、両チーム共にまだいない。相手選手のドリブル突破が来る。クロキにこだわらないなら、シュートが来るか? 一人抜かれた。そこで相手選手はバックパス。そして、そこにいるのはクロキ! ちぃ、油断した。あれ以来、クロキへのパスは減っていたからだ。

ユキはこれも読んで作戦を立てた。僕達は何をやっているんだ。この距離からは、林でなくても止められない。同点かよ。もう一点取られれば、負けかもしれない。どちらも譲らず時間が過ぎていく。残り時間は七分。

パスが僕に来る。一人抜く。二人目もいくか。いや、相手もかなりのディフェンス力だ。僕は焦ったのか。ちぃ、ボールはクリアーされる。残り時間は五分を切った。こちらはかなりバテてきている。相手は僕達より余裕がありそうだ。

あと四分。更に時計は進む。

「延長戦ならこっちが有利だ。持ちこたえろ!」

と、クロキが叫ぶ。チームクロキの方が選手層が厚い。させるかよ、と言っても空回りする。残り三分。ボールを持ったのはユキだ。

「勝ちにいくぜ」

とか言ってたな。

相手はどう出る? ユキが軽くこちらを見る。僕にパスが来るのか? ユキのパスがゆっくりとこちらに向かう。決めるぞ! ん、何だ? この光景知っている。僕の体が覚えている。ユキの想いがボールに込められた。

ユキが必死でこちらを見ている。みんなも息をのむ。気持ち悪い心が浮かび上がってくる。振り払うんだ。行けー、ヘルシュート! 誰もブロック出来ない。ボールはキーパーの横をすり抜ける。

「こんなところで……」

と、クロキは悔しそうだ。他のメンバーもだ。決まった! 二対一。しばらくして試合は終了する。

その時、ユキがまた崩れ落ちる。しかし、今回は心配なさそうだ。

「新たな連携の線だね。昔の線じゃない。ホシは、かつてのホシに打ち勝ったんだ。連携を一度は嫌いになった。ねえ、わたしの主スターよ。もう一度信じていいですか? 連携は素晴らしいって……。わたしはもう、連携が嫌いじゃない」

ユキはその場で涙を流す。そこにナゴムが声をかける。

「泣くなよ」

「ナゴムはわたしのライバルだもんね」

「そうだったのか」

ユキとナゴムの下らないやり取りだ。そして、みんなでトロフィーを持ち上げる。

ナゴムとクロキが握手する。そして言葉を交わす。

「次があるのなら、もう負けはしない。凄い練習をしてくる」

「それは無理だね」

トーナメント戦は勝利した。僕は今、ようやくスタートラインに立てた気がする。みんなはどうだろう? 何も大したことは解らないけど、僕はもう少し進んでみるよ。


……ユキの日記

今日、ホシは最強の連携を拒み、それを打ち消すシュートを放った。ねえ、日記帳さん、あなたにだけは聞いてほしい。まともに受け取ってくれるのは、日記帳さんだけだよ。

わたしが覚えているのは、君と歴代のホシ、つまりホシの『体の傷』だけ。そもそも体の傷とは、わたしを中心としたホシの忘れたくないという強い想いなんだ。わたしが初めてホシを見つけた時も、ドリブル練習を一人ぼっちで行っていたホシ。わたしは、少年ホシは連サカ参加の許可以外に何も持っていないって思っていた。

少年ホシは、わたしが練習に付き合っても、無感動なふりをしていたね。これが、『体の傷の始まり』だよ。ホシが体の傷、つまりわずかな記憶を託し続け、何万もの傷みをホシとわたしは感じている。わたしがホシに傷をつけ続けたから。忘れたくないってホシに思わせ続けたから。それだけ強い想いを、ホシは持てる人だったから。

だからわたしは、ホシが大好きだ。連携が嫌いになるほどに。だって、わたしがホシに体の傷を作って痛めつけたんだよ。ホシとわたしの思い出が、ホシにとって傷みとなったが、その原因はすべてわたしだ。だから、わたしもホシの体の傷を見ると痛いし、交わした言葉をいつまでもユキちゃんだけの心にしまうんだね。

わたしはいつか、『傷を治してきなさい』って言えるのかな? きっと言えるよ。何故ならホシは今日、元最強のスキル『体の傷』を振り切って、今までとは違う方法でチームナゴムの勝利に貢献した。チームクロキを相手にだよ! 今日のホシの新しい連携は、きっとチームナゴムと一緒に、わたしの見たことのないものになるから。ループ世界は終わるんだ、過去のホシが満足して。主スターよ、もう一度信じていいですか? 日記帳さん、傷の話ばかりで痛かった? ごめんね、by ユキ。





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