第4話 反発する力、いつの日か

サトルとシロップの対決から、一ヶ月以上が経過した。この間、僕達の勝率は少し低下した。チームメイト達は、僕とナゴムの動きがおかしいせいだと言う。僕の何がいけなかったんだろう? シュートの威力を重視するあまり、無駄にドリブルを多用したことなのだろうか? 林には、シュート力がいくら高くても、二ゴール分にはならないと言われた。

ナゴムはどうだろう? あまり変わっていなかった気がする。周りの敵も強くなっているんだ。変わっていないのがいけないのかな? 僕達は、反省を生かそうと練習してきた。ナゴムの言う最強チームとやらは、はるか遠くにかすむ。

とにかく練習あるのみだ。

「練習はどう? 最近あまり勝てないこと気にしてる? まあ能力は落ちてないよ」

と、練習の帰りにユキが話しかけてきた。

「実は連携練習にも手を出したとか……。うんうん。ホシは万能最強選手を目指しているんだ」

「くっ」

確かに連携は必要だと思った。ユキの指摘は、的を射ているだけに嫌味に聞こえる。

僕はシュートのインパクトを上げ、快感を得たい。最近では、何故か試合に勝ちたいとも思い始めた。そう考えると、ユキは僕に連携は必要ないと言っているのだろうか?

「ホシはいつも頼りなく現れて、いつの間にか凄い選手になっていたね。そして、最強の連携を用いて、いつも彼に敗れていた。その繰り返しが今」

「最強の連携が敗れる? 連携は最強ではないということか」

「食いついて欲しいとこ、そこじゃないよ。でも言えることは、わたし達が成長しているわけじゃないってこと。成長しているのはデータ」

確かに僕が成長しているわけではない。この身体能力は借り物だ。でも、残り一年半を楽しく暮らしたい。シュートの研究、ドリブルの強化……。課題はたくさんある。最強の連携ねえ。普通の連携とは何処が違うのやら? ユキの作り話じゃないだろうな。

ナゴムは連携以外の練習にもかなり積極的だった。やはり独自のスタイルは貫けってことだろう。我が儘が通る仲間に出会えたと思っていいのかな。

「じゃあね。ホシとナゴムの連携値は、急激に上がっている。これはいいこと? 戦ってしまう。今回も同じ道を歩むの? スターは今何を願う」

ユキは独り言を言いながら去っていく。

練習と試合の日々は続いていく。僕はドリブル練習を中心に戻した。ナゴムはディフェンスを鍛えたいと言って、僕のところへたまに顔を出す。ドリブル練習場が、僕の家のように感じるな。いつもここにいる。そんな気がするんだ。

あの日ナゴムが訪れてから、僕の見える世界は変わっていった。僕にとってナゴムとは何だろう? チームメイト? キャプテン? ライバル? きっと僕をぼっちにしない人。反発する肉体、近づく心と心。ナゴムは僕をどう思う?

そして、次の日。

「ジャジャン! トーナメントに登録したのだ。三回勝ったら優勝ね。レベルの低いの選びました」

と、ユキが自慢気に言う。一瞬歓声が上がるが、すぐに静まる。

「レベル低いって、クロキが居るじゃない

か」

と青山が文句を言う。

「当たるのは決勝だよ」

とニコニコのユキ。

チームクロキ。クロキを中心としたチーム。今年の勝率は九割近い。パスのスピードが速く 、連携を止めにくいチームだ。クロキはバランスタイプ。自らのゴールにはこだわらない。サトルに近い実力を持つという人もいる。

「何事も経験だ。俺へのクレームは受け付けない!」

と、林は勝負を諦めている。

ナゴムは気合を入れる。

「勝たないでどうする。優勝の響きに引かれないのか?」

「二位でいいじゃん」

と赤山。コウとホラーは、あまり興味を示さない。こいつら、たまにしか活躍の場がないからな。スタミナ切れの時には助かるのだが。決勝戦は約一ヶ月後だ。勝てる気がしない。

その後、僕達はトーナメントで決勝まで勝ち上がった。そのクロキ戦 までにも、リーグ戦でそこそこの強敵との対決が待っている。いつもの作戦会議が始まる。相手チームは、ディフェンスに重きを置いたチームカゼマルだ。キャプテンのカゼマルは、キーパー。シロップと同レベルの強敵と見ていい。総合的に、シュートもそこそこあるのが厄介だ。スキルは守備タイプが二つ。その一つは林と同じく、ゴールを奪われるほど強化される、キーパーに限られたスキルだ。もう一つは、ドリブルで抜くとディフェンスが強化されるもの。メンバーの内の一人が持っているようだ。

そこでユキの登場。

「最近、ホシとナゴムの連携値が凄く上がってる。どうするかは任せるよ」

「任せるって、連携に絡めた方がいい。わがチームに関して、相手もそれほど情報は持っていないだろう」

林の意見だ。

「どうなるか? 試合で解るよ」

とユキ。青山と赤山とどうでもよさそうだ⁉そして試合開始十分前。

ナゴムは僕に疑問をぶつける。

「どう思う、ホシ? というか、何故我々の連携値が上がっているんだ」

「僕に聞かれてもな。ユキに何か策があるんじゃないか」

「うーむ」

僕の答えに、それほど納得していないようだ。僕にもよく解らないんだよ。

「試合が始まるぜ。さあ、行こう」

と赤山。

試合開始だ。とりあえずナゴムにボールが渡る。連携開始だ。僕とナゴムのパスも、スムーズに進む。とくに問題はない。他の選手にもボールは向かう。再び僕にボールが来る。相手は守りが堅い。パスカットされる前にドリブルで抜く。

えっ? 何かがおかしい。頭では理解出来るが、体が言うことをきかない。ボールは簡単に奪われてしまう。何が起こっている? ユキは僕達に何を見た?

「何やってんだよ」

「しかし、二人の様子がおかしかった。上手くやれてたはずなんだがな」

赤山の不満に対して、青山は疑問の方が大きいようだ。

僕達は、あっさり得点を許してしまう。

「今日もクレームは受け付けないぞ!」

と林。ユキが解説する。

「あまりにタイプが違うために惹かれた、必要とした。それは心の問題。体は反発を起こす。ホシとナゴムの連携を生かす方法はないよ、普通ならね。でもわたしは、完成形を見たことがある」

完成形とは、前に言ってた最強の連携のことなのか? それとも異なるのか。聞いても、まともに答えてはくれないだろう。嫌そうな話題だし。ここは試合に集中だ。一点を許したが、今日の林は結構止める。こちらもゴールが欲しいところだ。

しかし、そう簡単にはいかない。キーパーのカゼマルどころか、シュートにも持ち込めない。僕達は連携を繰り返す。青山とユキがシュートに持ち込むが、二回ともキーパーがキャッチ。ゴールは遠い。僕のドリブル突破しかないのか。

非情にも時間は過ぎていく。僕は、連携から強引にドリブルに切り替える。ごぼう抜きとか、考える場面じゃない。何人なら抜ける 僕のドリブルは、これまで結構得点源になっていた。そのため、マークもそこそこある。一人抜いた。もう一人抜けば、かなりのシュートが打てそうだな。迷うな! それこそ相手の思うつぼだ。バランスを少々崩したが、僕のシュートはゴールに突き刺さる。

さすがにヘルシュート。青山は言う。

「ミスの分だからな」

しかし、まだ同点。もう一度チャンスは来るのだろうか? 相手の守りは堅い。突破出来ないぞ。相手が攻めに転じてくれれば、スキは出来るかも知れない。などと考えているうちに、残り一分を切った。

今日はドローか。するとその時、僕の後方からかなり鋭いシュートが飛んでいく。カゼマルは動けない。打ったのは誰だ? えっ、ユキなのか! ユキが崩れ落ちる。

「禁断のシュート、打ってしまったよ。思い出のホシがくれた連携。ホシが忘れても、わたしは忘れることなんて出来ないよ……」

ユキは涙を流す。この状態が嘘とは思えない。だとしたら、何が起きたというんだ? チームのみんなは固まっている。とりあえず、僕達は勝利した。



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