第2話 そのシュートは一人では打てない
僕の名はホシ。中学二年生で連サカ部の補欠である。ゲームの連サカにはかなりはまった。でも、アニメのラストシーンは酷かった。圧倒的個人技を、みんなの力を合わせた連携で砕くという内容……。アホらしい。現実には、そんなに上手くいくものか。僕は孤独だ。現実など僕に何ももたらしてはくれない。部活だって上手くなりたいのに……。仲間に入れないから、一人で練習することになる。先生からは、サボっていると言われ続けた。もう、この世界はいらない!
超人化は何度も体験した。自分ではない、データという力。僕は、ドリブルに絶対の自信を持つ。それよりも、敵を抜いた後のシュート力アップが魅力。つまり、スキル発動だ。何が言いたいかというと、僕は強力なシュートが打ちたいのだ。ドリブル突破を繰り返すほど、その試合中はより強力なシュートが打てる。凄いスピードで飛ぶボール。足に残る衝撃という名の快感。これ以上のものはない。
しかし、ゲームに逃げ続けるのは限界がある。学校がある。家にいても面白くない。完全に逃げられる術はないものか? この国、コン王国が連サカ新作のテストを行っているらしい。二年間、ゲーム内のみで過ごす……か。帰ってきたら高校受験は終わっているな。ダメ人間まっしぐらだな。でも、今すぐにでも逃げたい……。ゲームは裏切らない筈だよ。危険を伴うため、参加費は無料か。
行こう、新たな世界へ! 僕は会場へと急ぐ。そこで出迎えに来たのは、僕の見知らぬ少女だった。彼女は僕に呼び掛ける。
「ホシ、ホシじゃない! 久しぶりだね月ー」
ピンクの髪で、そのショートカットが明るい少女……って、こいつ誰だよ。
「何故僕の名前を知っている? 会うのは、初めてだよな」
僕は少し動揺している。
「何度も会っているよ。覚えていないんだね。そっか、そっか。いつものことだよ。いつもの癖。私はユキ、ナビ役ができるほどの知識があるのだ」
「ああ」
少女ユキは明るい声とは裏腹に、表情は絶望にも似たものを感じた。十六歳という設定とか、ユキはもう不気味に思える。そして、僕はユキに誘われ、ゲームの世界の住人になる。
連サカは試合時間は基本的に三十分で、六人対六人の試合である。僕はルールを確認する。僕は素晴らしい出会いを期待していたんだ。メンバー達の自己紹介が始まる。キャプテンナゴム二十四歳、バランス型か。青山、赤山兄弟、パス・ディフェンスが得意。コウは特徴とくになし。ホラーは、身体能力が高い。そして、キーパーの林。
「わたしの嫌いなものは連携。情報はたくさんあるよー。今度の組み合わせは、打ち砕けるかな」
こう言って、ユキは最後に自己紹介を済ませた。彼女は連携が嫌いか。明るいユキには似合わなかった。今度の組み合わせと言った時、ユキは泣きそうだった。こいつ、何者だ?
その後の軽い練習試合で、凄まじい連携をユキとナゴムは見せた。ナゴムはとにかく、連携が嫌いなユキが、どうして連携が得意な能力だろう? 連携値とは、二人の仲の良さの尺度で、マイナスも用意されている。僕は見事に、ユキ以外のチームメイトとは、連携値がマイナスだった。しかし、何故ユキだけは連携が通じる?
僕は何処へ行っても結局ぼっちだった。チームメイトが気を遣ってくれたのは、最初の三日間くらいのものだ。みんながワイワイ練習する中、僕は一人でジグザグドリブルの練習を続ける。そして、控え選手のまま一ヶ月が過ぎた。
そして、今日も同じことを繰り返す。
「一人じゃ、実践的なドリブル練習は出来ないぜ」
「知っている」
「一人より二人の方が、効率がいい」
「知っている」
そこに現れたのは、ナゴムだった。何故今日になって?
「俺が相手をしてやるよ」
「ふん」
そして、練習時間は残り少なくなる。
「さすが一人で、ドリブル練習やってただけはある。完敗だよ」
と、ナゴムはゲラゲラ笑う。何が可笑しいのだろう?
さらにナゴムは話題を変える。
「連サカアニメのラストシーン。それを見て、連携の素晴しさを思い知ったよ」
「個人技の方が上だよ」
僕はムキになる。
「ところで、今日の夕食何を注文する? 俺のカタログを使っていいぞ」
「馴れ馴れしい。夕食の誘いなら他を当たってくれ!」
つい、こんな言葉が出てしまう。だからぼっちなんだ……。それでもナゴムはニコニコしていた。
食事のカタログとは、二百種類のメニューが登録されたもの。この世界には、料理専門家がたくさんいる。そして、人気メニューはどんどん値上がりしていく。登録されたメニューは、同じ出来のものがコピーされるシステムである。料理家の稼ぎだ。料理はボタン一つで取引される。
僕は言う。
「何故今頃、僕に話しかけた? 優しくしようとしているのか?」
「勝てないんだよ。俺は連サカには絶対の自信を持っていた。しかし、上には上がいて……。この世界のトップに成りたかった。まだ諦め切れない。そんなヤツは腐るほどいるさ。今の俺達のチームの勝敗知っているか?」
「俺は補欠だ」
知らされたのは二勝十八敗。トップにはあまりに程遠い数字だった。悔しくて諦め切れずに、ナゴムはここに来た。
ナゴムの話は愚痴に近かったよ。
「なあ、ホシ。お前の秘められた連携は、こんなもんじゃないだろう? ユキもそう分析していた。共に勝とうよ」
「個人技でな」
僕の返事にハハハと笑うナゴムは、キャプテンの顔に戻っていた。そしてそれからは、ナゴムはたまには僕の練習相手となってくれた。何故か僕には、それが嬉しい。
僕は初めてスタメンで起用された。
「おい、ナゴム。こいつ役に立つのか?」
「まあ、そう言うな」
青山、赤山兄弟の言葉に、キーパー林がなだめる。どうせ僕は役に立たないさ。
試合が始まる。相手の強さは不明だ。試合はテンポ良く進む。
「おい、パス!」
「……」
「聞いてんのか?」
赤山が怒っている。連携ごっこじゃないんだよ。僕はパスを出さず、ドリブル突破を敢行する。三人抜いた。これでかなりシュート力がアップしたはずだ。決まれ、ヘルシュート! しかし、ぎりぎりのところでキーパーに弾かれる。いいシュートだった。
もっと凄いシュートを打てる超人に成りたい! 僕の才能の開化した未来を見るんだ。ゴールを奪えれば凄い快感だろう。わがままな選手でいい。
「惜しい!」
と、ナゴム。弾いたボールにユキが食いついたのだ。しかし、今度こそキーパーがキャッチ。
「何が惜しいだ、ナゴム。もうこいつにはパスは出さん。連携値もマイナスだし……」
「喧嘩するな! しかし、ゴールが決まっていれば、流れは変わったかもな。強引だったのはまずいが、いいシュートだった」赤山はさらに怒る。林は冷静だ。
「和を乱すヤツなどいらない。ナゴムは何がしたい? 連携が出来ないヤツは連サカ失格だ」
と、青山も怒っている。そして十五分経過。その間、ボールは僕には一度も回ってこなかった。
残り数分。ゼロ対二で負けている。僕が試合に出ても意味はなかったんだよ。その時、僕は相手からたまたまボールを奪う。どうしようか? やっぱりドリブル突破で、再びシュートを打つんだ!
「そうはさせん! 勝負だホシ、連携に勝てるか」
何故か、ナゴムが僕を追いかけてくる。
「何やってんだ、あいつら?」
と、チームメイトも呆れている。しかし、ナゴムは僕にどんどん迫ってくる。何故かこいつに負けたくない。
僕はボールを棄てる。何故か、かけっこになっているぞ。ドリブルで鍛えた、僕のスピードは凄い。ボールさえなければ、僕はナゴムごときに捕まえられない。
「あのー、試合は?」
と、相手選手が不審そうに声をかけてくる。知ったこっちゃない。コーナーを曲がる。何っ! ナゴムが凄いスピードで僕に迫る。何が起きているんだ?
「このスピードは一人じゃ出ないんだよ」
と、ナゴムは吠える。
「あのホシの自慢のドリブルとやらを、へし折ってやれ」
と、チームメイト達が連携効果をナゴムに送る。これはかけっこで、ドリブルではないんだよ!
しかし、連携などに負ける訳にはいかない。
「バカだね。あいつらはいつもそうだった。楽しかった。私は、そしてみんなはリセットされた。しかし、誰もわたしを覚えては
いないんだ。過去に捕らわれる……」
ユキが何か言っている。
ナゴムがどんどん加速していく。僕は遂に捉えられた。しかし、まだやれる。しかし、ナゴムに突き離される。まだだ、まだいける。そこで水を差す林の一言。
「試合はとっくに終わっているぞ。帰る準備をしろ」
「何ーっ、試合終了の時点では、僕の方が前にいたよな」
「そんなことはない。連携の勝利だ」
僕とナゴムは言い争う。ユキが笑顔で言う。
「これからも長い付き合いになるんだからさ。その間に決着を着ければいいじゃない」
「馬鹿が二人、このチームにいることが判った」
と、青山と赤山。何故かこいつらと一歩近づけた気がする。
青山と赤山に、無理やりパスの練習を押し付けられる日々。ナゴムも、これなら何時か勝てるチームになると、幻想を抱いている。ユキは、よく解らんヤツだ。
「おい、パスの重要なところはな、成功するとシュートとパスの力が上がることだ」
「下がるんだけど……」
「連携値が低く、ぼっちだからだ」
「僕は傷つくんだけど。ぼっちとは言うな」青山と僕の会話。
パスの道は険しいな。この簡略化された世界で……。パス、シュート、ドリブルの三択を選ぶだけの世界で……。僕は生き延びていけるだろうか? 不安は多い。下手に近づいてしまったから。
ユキが分析する。
「次の相手は弱小チームだよ。私達もだけど。ここは落とせない。ホシを入れると、安定感がなくなる」
今は作戦会議中だ。僕は安定感がないのか。いいところをついてるね。確実に勝ちたければ、僕は要らない。それは、キャプテンが決めることだ。
結局、僕はスタメンに選ばれた。落とせない試合ねえ。ユキがやる気になっているってことか。コウもホラーも何時でも出られると言っていた。本当に僕はここにいていいのだろうか?
居る場所がないからぼっちなな訳で……。それで信念曲げていいとは思わない。連携が大事なら、僕は必要ない存在さ。
ユキが後ろから話しかけてきた。
「悩んでる。青春だねー。『似た』光景を、わたしは見たことがあるんだよ。組み合わせは違った。記憶を失い、再び出会ったら同じことが起きるのか? 環境が違う。だから、『似た』光景さ。未来なんて解らないよ」
「自作のポエムか。下らん」
「まあ、そんなとこね」
こいつは、何を考えているのか解らない。言動がおかしい。だから、僕は冗談で返した。軽くあしらわれたけど。
自由にやれという励ましととろう。試合開始の時間が近づいてくる。
「コン王国出身ではなくても、出番を待つよ。いいゲームだしね」
と、外国人のホラー。コウも、何時でも交代してやるという体勢だ。
「まあ、僕の究極のシュートを見るんだな」
「冗談は、それくらいにしておけ」
と、キーパーの林。さっきのは、冗談ではなかったんだけど。
そして、試合が始まる。まず、敵チームにボールが回る。当然のように僕は抜かれる。ディフェンスにも優れる青山が、パスカットでボールを得る。相手の連携が発動する前に、潰したかたちとなった。この時、僕はフリーで青山の近くにいた。しかし青山は、厳しいコースのユキを選んだ。そこまで信用の差があるということか……。僕は、パスをもらいにユキに近づく。僕はやはりフリーだ。敵にも舐められている。ユキも僕を選ばなかった。パス回しは続く。そして、連携へと昇華する。
僕にボールがくることはない。これはいじめではないんだ。勝つための手段だ。相手チームは、もうパスカットは出来ない。高まった連携パワーで、ナゴムがシュートをゴールに押し込む。僕のシュートの方が強力だ。なのに、あのシュートに見入ってしまった。これが連携というものか……。精度を上げるためのパス回し。
その後、チームナゴムは二失点を食らう。遂に僕にボールが転がり込む。僕は、近くにいた青山を見る。青山は首を振る。僕が行けってことか。しかし、僕の得意なドリブルがまさかの失敗。安定感のなさがここに出てしまったか。しかし、誰も僕を責めない。僕も何も言えない。ナゴムが励ましてくれる。
「次だ、決めろ!」
残り時間は十二分。今度は赤山がボールを持つ。連携が始まるのか?
「このボール、いらねえ」
赤山は何故か僕にパスを出す。確かに僕はフリーだけど。舐められてはいるが……。このボール要らねえか。返すな、ってことだ。ドリブルにここまで力が入ったのは初めてだよ。一人、二人と、僕は得意のドリブルで抜いていく。スキル効果でシュート力が上がっていく。もう一人いくか? いや、十分だ。ヘルシュートがゴールに突き刺さる。
今までで最高の衝撃、快感、ボールの速さ……。
「よくやったぞ、ホシ! 連携が出来れば完璧だよ」
と、ナゴムが大げさに祝福してくれた。
「わたしには近づくことしか出来ない。連携の重みを知っているから。どんなに拒んでもね。まだ同点だよ。ドローで満足?」
ユキが発破をかける。負けるということはないのか? チーム全員が勝利を求める。残り七分だ。ボールはナゴムに渡る。連携が始まる。僕はもう役に立たない。しかし、ゴールを決めたんだ。
大きな前進だよな。得意技で決めたんだよ。僕は少しは貢献したはずだ。なのに、まだやり足りない。連携は、どんどん高まっていく。危ない! ユキは体勢を崩すも、何とかトラップする。再び連携が高められる。僕は見ているだけだ。
ナゴムが、
「いくぞ、ホシ! 潜在能力を解放しろ」
と、こちらにパスを出す。
「えっ!」
「えっ、じゃねえー」
と、チームメイト。重く感じる。ボールが、蹴るのがもったいないほどに重い。連携の力が弱まりつつも僕に宿る。僕の連携値の低さで、連携は逃げつつある。早く打て! ヘルシュートだ。ボールはゴールに突き刺さる。一人では打てないシュート。そこにどれ程の価値があるのだろう? 今の僕には解らない。
よく考えてみると、最後に決定力のある選手にボールを渡すのが、連携の常識。連携値マイナスも、連携の最後だから軽減される。連携の力はシュート力に比例する。なるべくしてなったことか。個人技と連携は、どちらに本当の力があるのだろう? 例え連携だとしても、きっと僕はそれを選ばない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます