ブラシ〜鳥の巣みたいな頭

 私の仕事は、珈子かこの髪を梳かすこと。

 寝癖で鳥の巣みたいに絡まる髪は感じ悪いけれど、梳かした後、微笑む珈子が素敵だから、私は全く気にしていないわ。



 今日も珈子は、寝起きの頭でやってきた。私はいつものように集中して髪を撫でていく。

 でも、途中で固まってしまったの。

 珈子の鳥の巣みたいな髪の中に、見知らぬ生き物がうずくまっていたから。真っ黒なモシャモシャの塊で、どんよりとした空気をまとっている。

 でもそれは、私が瞬きをした後、消えてしまっていた。

「痛っ! 面倒だな〜」

 私がボーっとしたせいで、髪を梳かすことに苦労する珈子。気を引き締めないと。そうして私は、なんとか仕事を終えることができた。


 生き物はあれからずっと、珈子のところに居る。

 そして瞬きすると消える――なんなの?


 生き物が現れてから、珈子は変わってしまった。どんなことも、「面倒」の一言で片付けるのよ。最近は、髪を梳かさない日も少なくないわ。そんな珈子を見ていると、胸が痛かった。



「あなたのせいで珈子は……!」

 久しぶりに珈子の髪を梳かしていたとき、私は生き物に向かって叫んだ。無意味でも、そうせずにはいられなかったの。

 すると、生き物はゴソゴソ動き始めた。まさか、反応があるなんて。瞬きをなんとか堪えて、私は生き物を見つめたわ。

 そうしたらね、生き物は、桃太郎の桃みたいに真っ黒な体をパカっと開いたの。内側は外側同様、真っ黒だった。ただ、巨大な空間が広がっているかのように感じたわ。そして驚いたことに、生き物はそこから、気だるそうな声を出したの。

「オレ、コイツ、駄目にしてない。コイツ、自分で、駄目になった。だから、オレ、来た」



 生き物は、そのままペロリと……。珈子を飲み込んだのよ。

 私を持っていた珈子の手が消えて床に落ちた後も、私はただ、生き物をぼんやりと眺めていた。

 食った食ったとばかりにポフポフ地面を滑っていく生き物は、前より少し大きかったわ。

「……メン、ドウ」

 生き物はそうこぼすと、どこかへ消えていったの。

 茫然とする私を残して。

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