騎士の置物〜怪物を倒しに!

 怖かったこと?

 ないぞ。俺は騎士だからな!


――と言いたいところだが、素直に白状しよう。

 嘘は良くないからな。


 あるぞ。怖かったことが。




 まだ、俺がこの家に来たばかりの頃の話だ。


 俺は本棚に飾られた。

 立派な剣を持っている俺としては、本棚で突っ立っていることほどつまらないものはない。


 だからブツブツ文句を言っていたわけだ。すると上の段のやつが、俺に声をかけて来た。


「恐ろしいことは、どこでも起こるものですよ」



 上の段のやつの言葉は、本当だった。


 夜、暗闇から、ゴグー、ゴグーと怪物の声が響き始めたからだ。




「倒してやる! 怪物め!」


 俺は剣をしっかりと握り、本棚を駆け下りた。


(おっと、勘違いするんじゃないぞ。落下したのではない。

 あくまでのだ!)




 ゴグー、ゴグーと怪物は唸っている。



 俺はその場所へと急いだ。



 冷たい床の上で何度も転びそうになりながらも、俺は走り続けた。



 ゴグー、ゴグー。



 あと少し。



 声が大きくなるにつれ、俺は恐ろしさのあまり引き返したくなった。

 だが、俺は騎士だ。


 たとえ怪物の目が三つだろうと四つだろうと、俺は負けないぞ!





 俺はとうとう、怪物を見つけた。


 巨大な山のような塊で、ゴグー、ゴグーと唸っている。



 俺は地面を強く蹴った。



「さぁ、覚悟――!!」



 俺は空中で、怪物の顔を見た。



「――って、俺を買った人間ではないかぁ!!」




 結局、怪物なんていなかったのさ。

 怖かった上に、恥ずかしい。


 だから俺はあれからずっと、こうして大人しく本棚で反省しているんだぜ。





















 ☆ ☆ ☆



 ――騎士は気づいていないのです。

 あの日、上の段には誰もいなかったということを。









 え? では、ぼくは何なのかって?



 ――ふふ。何でしょうね。

 皆さんのご想像にお任せしますよ。



 ほら、言ったではありませんか。

『恐ろしいことは、どこでも起こるものですよ』とね。

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