インターフォン〜見知らぬ客

 あたしが怖かったことだって? そうだねぇ。やっぱり、あの時かねぇ。




 ☆ ☆ ☆



 あたしは一日中客の相手をするわけさ。朝っぱらだろうと、夜中だろうと関係ない。


 真っ暗だっていうのに客が来るものだから、あたしはとっても不機嫌になったんだ。客だってわかったのは、玄関の前の階段をそいつが登って来たからさ。


 ところがいつも真面目な電気ちゃんがつかない。

『あんた、何寝ぼけてるんだい? 客だよ』


 あの時は眠っているのかと思ったけれど――後から聞いた話、気を失っていたみたいだ。どうやら電気ちゃんはとっくに気づいていたようだね。



 月明かりの下、スーツ姿で、男は立っていた。


 そいつは、首から上がなかった。


 代わりに、腹から頭が生えていて、白目を剥き、腕ら足もありえない方向へと曲がっていたんだ。所々赤く染まった体は、奇妙そのものだった。


 ドブのような臭いってのはこれのことを言うんだと思ったよ。



 男は赤いものを滴らせながら、あたしの方へと手を伸ばした。

 何度もあたしのボタンを押した。ドロドロした赤いものの感触が気持ち悪い。


 もちろん、あたしは誰のことも呼ばなかった。


 こんな真夜中に来る奴なんて、ロクなもんじゃないからね……。




 ☆ ☆ ☆




 あの後、あいつは諦めて、どこかへと去っていった。

 あんなに滴らせていた赤いものも、跡形もなく消え去ったんだ。




 だけど、あたしは知っている。












 玄関の隅に、あいつが目玉を片方、落としていったことを。

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