第21話 至福の時

待ち合わせ場所に車が止まる。

「おはようございます」

「お、おはようございます」

汗だくでガチガチの山田。目が泳いでいる。

「…運転、変わりましょうか?」

「すみません…」


「実は、運転久しぶりで…」

「それは緊張しますよね」

「海、きれいですよ。楽しみ!」

やっぱりハンドルさばきがエロい。

シートベルトが谷間に食い込む。

「楽しみですね。

海なんて、子供の時以来です」

「そうなんですか?

じゃあ海も久しぶりですね」

「えぇ」

「今日はおいしいサンド買ってきましたよ」

「ありがとうございます」

袋の中を覗きこんで

「おいしそうですね。しかもオシャレ」

「リツさんに教えてもらいました」

「あいつっぽいな」


「あー、見えてきた!」

きらきらした海面が広がる。

「わー、ほんとだ!気持ちいい」


浜辺にパラソルを立て

シートを敷き、ランチを広げる。

「いただきます」

「うん、おいしい!」

「でしょ?」

「んー!

こういうところで食べると格別ですね」

ハンカチで口を拭う花。


食事が終わり、海を眺める二人。

「花さん」正座の山田。

「はい」

「ひ、ひざまくらいいですか?」

「はい、いいですよ」

「失礼します!」

至福の表情で、やはり堕ちる山田。

それを見つめる花。

そっと山田の頭を撫でる。

「ぐー」

イビキをかきはじめる。

花はスマホで小説を読むことにした。

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