卵の中の生
春風月葉
卵の中の生
教えはくれまいか?
私は生きていたのかを、私は生まれていたのかを、私の生がなんなのかを。
暗く、狭い殻の中、私にはたしかに鼓動があった。
外の世界を夢想し、来たる時を待ち望んでいた。
近くにいるのであろう兄弟達、自分を優しく温める両親の体温を感じ、見えぬ孤独も搔き消した。
その日は外からは水の弾ける音が聞こえていた。
待ちに待ったその時が私達にもやって来た。
ピシリという乾いた音が一つ聞こえると、辺りからそれに続くようにピシリピシリと乾いた音がする。
外からは生まれたことを喜ぶ兄弟達の声が聞こえていた。
私も早く外へ出たいと思った。
しかし、私が外の世界を見ることはなかった。
どうやら私は生まれ損ねてしまったらしかった。
もし、私がこの私には分厚く硬すぎる殻の外に出ることができていたら、私はどんな姿だったのだろう、世界はどんな色をしているのだろう。
教えてはくれまいか?
私に生は存在していたのかを。
卵の中の生 春風月葉 @HarukazeTsukiha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます