『散々わめいて口だけではない男』

「なんですか?先輩」


 ジト目でこちらを睨む押川祐司に精一杯の笑顔を出す。


「男のジト目は可愛くないからやめておけ……ましてや華子ちゃん以外はな」


 ちなみに華子は『色咲く花は』の主人公である。


「そういえば先輩が俺に教えてくれたんですよね……華子ちゃんを」


 警戒心が緩んだ顔をして、まだ二十歳前の若者らしい顔になる。


「母親に涙目で自分の働くホテルに来いっていうシーンは衝撃的だったよな」


「ええ……最高でしたね……華子ちゃんは……なのに……松永さんは……」


 思い出したのか、悔しそうに俯き作業机に軽くこぶしを振りおろす。


「まあ……あれだけ考え抜いた計画をあっさりと一蹴されて、自分の好きなキャラまで非難されたら腹も立つわな……ほれ……差し入れだ!」


 片手に持っていたコンビニ袋からレモンサイダーのペットボトルを押川に投げ渡す。


「おっと!さすがにミカンサイダーは無かったですか」


 ゆったりと回転して向かってくる飲み物を器用にキャッチする。


 そしてチクリと嫌味を飛ばす元気を見せる押川の表情は朗らかだ。


 ところでミカンサイダーとは『色咲く花は』に出てくるご当地商品だが、所詮関東平野の隅に位置するこの工場の周りには売られていない。


「それで……お前は工作室で残業してまで何を作ってるんだ?」


 問いかけられた押川はニンマリと笑って、よく書き込まれた製図書を取り出す。


「ジャーン!ニュージェネレーション計画……パート9ですよ」


「……とりあえずお前は名前のセンスが絶妙に無いよな~」


 軽くディスりつつも製図書を確認する。


 名前の大仰さとは裏腹に綿密に考えられた製図だった。


どうです!これであの威張りくさったオッサン達も何も言えないでしょ!」


 なるほど……あれだけボロクソに罵りあいながらも松永さんが指摘した部分をきっちりと直してはいる。


 変に意地を張らない押川の若さに好感を持つ。


「お前も製図組むのがうまくなったな」


「俺だっていつまでも工具やら部品を持ってくるだけの追い回しをしてるわけにもいかないですからね」


 得意げに鼻を鳴らす後輩の成長に『色咲く花は』十五話の最後の五分間を思い出した。


 松永さん……なんだかんだ言ってもこいつも成長してますよ。


「だが、甘いところがあるな」


 とはいえ、これを出したところで松永さん達に駄目出しをされるのは目に見えている。


 松永さん、まだまだ鍛えがいがありますよ……押川は。


「なっ!どこがですか!計算に狂いは……」

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