『本当に馬鹿で論外な若造!』


「あの若造どもが、鶴子の魅力に全く気付いていやがらね!」


「そうですね……俺も鶴子の純情っぷりと頑張りには萌えさせてもらえました」


 半分程開いたグラスに酒を注ぎながら俺は松永さんに同意をする。


 白髪と黒髪の混じった短髪で日本酒を飲み干すその姿はまさしく『日本の親父』だった。


「覚えてますか?十四話で鶴子がせっかく可愛い水着を買ったのに、好きな人以外に見せるのが恥ずかしいって泳がなかったんですよね」


 俺が話を向けると、途端に松永さんの口元も緩む。


「ああ……そうだな。鶴子はいい女になるぞ?何より尻がいい!それに根性もあるしな!それから……」


 酒の勢いもあってか松永さんは上機嫌で鶴子の魅力を語る。


 それはまるで自慢の娘のことを語る子煩悩な姿にも見えた。


 が、しかし……。


「ところがどうだ!あいつらと来たら……」


 そこでグイっと酒をあおる。


「何でもかんでも主役がいいってもんじゃねえんだよ!メインのことだけ考えておいて周辺のことには気づいちゃいねえ」


「それなら……松永さん達が教えてあげればいいじゃないですか」


「うっ……それは……な……」


「まるで『色咲く花は』の十四話と十五話みたいですね……。あの話も上司と部下の揉め事がありましたよね」


 酒をあおる速度が下がったのを見計らって話を切り出す。


「ふん……端役のお嬢ちゃんの話かい」


「ええ……覚えてますか?」


「忘れるわけが無いだろう……鶴子の水着回なんだぞ?」


「松永さんの年齢でも水着はまぶしかったんですか?」


多少の苦笑を浮かべながら笑う俺に、ふっと笑って、


「まあな」


と返してくる。 普段は偏屈で無愛想だと評価しているが、妙に憎めない人間臭いところがあった。


「いくら鶴子が好きだからって高校生の甘酸っぱいところまで真似しなくてもいいでしょ?」


「……まあ、ちゃんとしたものを持ってくれば評価はしてやるよ」


顔が赤いのは照れているからなのか、酔っているからなのかはあえて聞かずに、


そこではじめて俺も酒に口をつけてホッとしたように深く息をはいた。

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