「俺の工場では『色咲く花は』が流行っている」
中田祐三
第1話
「失礼しまっす」
気だるげに個室に入るとすでに主任が座っていた。
「来たか……まあ座ってくれよ」
促されて、着席する。
「さて……話の内容なんだけどさ……多分予測ついていると思うんだけどね」
そう言ってテーブルの上にプラスチックでの四角い箱を置いた。
箱の上面には可愛らしい女の子達が水着で映っていた。
「色咲く花は……ですか、良いアニメですよね」
無感動に呟く俺の言葉に主任は苦笑で返す。
「君が広めてくれたお陰で色々と大変なことになってるけどね」
「……ああ、それは……」
やはりその話だったか……。
「まあ、でも……君だけが悪いってわけではないんだけどね」
口ごもる俺にフォローの言葉をかけて、主任は懸案事項を俺に話してくる。
「工場内で色咲く花はのキャラによる派閥ができてしまっていてね……それがまた中々深刻なんだよ」
「……まあ……それは……」
もう一度口ごもる。
『色咲く花は』とは田舎のホテルで働くことになった女子高生が様々な人や仕事を通じて成長していく青春ストーリーだ。
年中無休の工場内で働いていると、自然と平日休みが多く、また友人や彼女とも疎遠になってしまうことが多くなってしまう。 俺もその一人だった。
彼女は言わずもがな……友人も働きはじめてしまうとそれこそメールの返信にかかる日数が本物の手紙以上に伸びてしまうようになる。
だからといって定番のパチンコも煙草嫌いの俺にとってはハマることのできない趣味だった。
そんなわけで暇を持て余した俺はレンタルビデオ屋の上客となり、そこでこの『色咲く花は』と出会い、壮絶にハマリ、職場内で布教をした。
もっともそれが原因で主任から呼び出しをくらう破目になるとは想像もしなかったが……。
「わかりました……そのつもりはありませんでしたが、今回のことは俺にも責任の一端はあるので、何とかしましょう」
「そう言ってくれてありがとう……全く彼女達のせいで職場が崩壊するなんてたまんないからね」
正直な感想を漏らす主任の態度に痛快が隠せず、笑いがこぼれる。
「そうですね……俺も主任と同じ気持ちですよ」
大きな心強さと親密さを込めて俺は問題の解決に着手することとなった。
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