第18片 自由

 ぴったり21時に彼から連絡があった。私は2度ほど取るかどうか迷った後、結局3コール目で出た。

「もしもし」

「もしもし、久しぶりだな。元気だったか?」

久しぶりに聞く彼の声に安心して、決意が鈍りそうになる自分に嫌気が差していた。

「うん。そっちは?」

「元気。で、話って?」

口の中が乾く。本当に言ってしまうのか。緊張で上手く声が出ないが、言うしかない。そう思った。

「あのね、やっぱり距離があるじゃない?私たち」

「おう」

「この距離があなたを苦しめているのなら、私はあなたをそこから解放したいの」

「それってどういう……」

「私、聞いたの。あなたが1女と楽しそうに勉強してたって」

「それは」

「でもね、私責めるつもりも怒るつもりもないの。だって、あなたも私も自由であって誰かに縛られる必要はないんだから。だから、正直に言って。私にもう気持ちがないんだよね?」

彼は黙ったままで何も言わない。無言は肯定だ。こんなに胸が苦しいなんて。

「別れよう。お互いのために」

「……わかった。でも、これだけはわかっててほしい。今までの俺の人生でこんなに好きになったのはお前だけなんだってことは」

「ありがとう。それをもっと前に聞いていたかった。それじゃあ、バイバイ」

彼の返事を聞く前に私は電話を切った。抑えていた涙がもう抑えられそうになかったからだ。このバイバイは一体何に対して発したものだったのだろうか。自答したところで答えが出るはずもない。きっと全てに対してのバイバイだからだ。


 その日は夜が開けるまで泣き明かした。

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